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黒の管理者  作者:
第一章
13/50

10.

 

 

 ――我ノ力ヲ引継ギシ、異界ノ娘ヨ。

 

 彼女の意識の、遥か遠くから、聴き覚えのない声が、微かに聴こえる。

 

 ――主ハ、我ノ力ヲ引継ぎシ娘。ソノ力、未ダ覚醒セザレドモ、ヤガテ開花シヨウゾ。

 

 暗闇から響き渡るその声に、彼女は懸命に耳をそばだてる。

 

 ……あなたは、誰……?

 

 ――モウ、間モナクジャ。主ノ宿命ガ廻リ始メルゾヨ。覚悟致セ。

 

 その言葉を最後に、闇の声は、消え失せた。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 ふぅっ、と息を吐いて、ユウは、ベッドの上でゆっくりと身体を起こす。

 息苦しい胸とジリジリと痛む左頬が、濃紺の瞳から投げつけられる蔑んだ視線を思い出させる。

 太陽の日差しで明るい、部屋の天井をぼんやり見上げながら、もう一つ、重い溜息をついた。

 

 ふと意識を戻すと、ドアの向こうに、人の気配を感じる。

 そして、ドアを開けたのは、ヴィンセントだった。

「ユウ?」

「ヴィンス……」

 蒼い顔をして急ぎ足でベッドに近づいてくる人物に、ユウは視線を向ける。

 

「良かっ、た……」

 ホッとしたように微笑むと、彼はベッドの端に腰かけて自身の左手で彼女の左手を包み、右手でそっと痛む頬に触れた。

 いつかの時にように、ひんやりとした感覚。彼女には、今はそれが気持ちよくて、自然と目を閉じられる。

「痛むか?」

 心配げに顔を覗き込むヴィンセントに、ユウは「大丈夫」 と笑って見せる。

「すまない。スティアートの愚かな行為、なんと詫びていいのか……」

 左手を包んでいる手に力が入る。

「しょうがないよ。だって、私は、得体の知れな……」

「言うな!」

 

 遮るように発せられた言葉に驚きを隠せない。

 これまでのヴィンセントからは想像もつかないような厳しい声。

 ユウは、言葉を噤んだ。

 

 そして、グイ、と左手を引かれ、彼女の身体はヴィンセントの胸に収まる。

「頼む、自分を虐げるようなことは言わないでくれ……」

「ヴィ、ン……」

 暖かな腕に包まれて、ただ、頬を伝ってほろほろと零れていく涙を、ユウは拭いもせずに見送った。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 どうやら、あのまま泣き疲れて眠ってしまったらしい。

 ユウが再び目を開けた時、既に部屋の中は暗く、ナイトテーブルにはランプが置かれ、仄暗い光を灯していた。

 

「……寝てばっかり。働かざる者、喰うべからず、だ」

 苦笑いしながら、彼女は一人、呟いた。

 

 そして、心優しい人達に護られて、すっかり弱くなってしまった、と自身を責める。

 

 これじゃ、いけない。誰も、頼っては、いけない。

 一人でも、闘えるように。一人で、闘えるように……と。

 

 そっとベッドから降り、閉じられていた窓を開けて、夜の空気を部屋に招き入れる。

 大きく息を吸い込むと、踏みつけられた背中が、みしり、と痛んだ。

 

「明日、きちんと話さなくちゃ」

 数多に輝く星たちを見上げ、もう一度、決心を固めた。

 

 

 


 



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