7.
ユウがこちらの“世界”で過ごし始めて、十日が過ぎた。
ようやくベッドから起き上がれるまで体調は回復したものの、暫く意識のない寝たきりが続いたせいか、彼女の体力はすっかり落ちてしまっていた。
加えて、元々少し細めだった体型も、鏡の前に立つのを避けたくなるほどに痩せ細ってしまっていた。
「……なくなっちゃった」
「まぁ、ユウ様ったら」
着替えを済ませて鏡に向かい、胸元に手を置いてぼそりと零したユウに、ジュディは優しく微笑んでこう続けた。
「しっかりとお食事をとられてお休みになられれば、すぐに戻ります。ユウ様は、まだまだこれからのお方ですから」
励まそうとしてくれたその言葉を、ユウは何故かすっきりと受け入れられなかった。
「ジュディ?」
「はい、どうなさいました? ユウ様」
「ジュディは私のこと、いくつだと思ってる?」
彼女は、しっくりこなかったところを、思い切ってたずねてみる。
「十歳くらいとお見受けしておりましたが……。違いました?」
悪びれた様子もなくニッコリ笑って答えたジュディを、ユウは、呆然と見詰めるしかできなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……そう、そんなことが」
朝食の席で、ヴィンセントが、堪え切れないといった風に口元を押さえ笑っている。
ユウはそんな彼を、厳しい目線で睨み付けた。
「……いや、失礼。実は私も、ユウがそのくらいの年齢だと思っていたよ」
「ヴィンスまで……」
「まさか、十六歳のレディだとは思わなかった。大変失礼しましたね、ユウ」
「確かに私、身長は高くないし、幼く見られがちだけど……」
少し拗ねたような口調で呟くと、隣でお茶を準備してくれていたジュディがユウの方を向いて跪いた。
「ユウ様。此度のご無礼、本当に申し訳ございませんでした。どうぞ、お気の済むように処分を」
「ジュディ……。あの、そんな……」
「どうぞ、なんなりと罰をお与えくださいませ、ユウ様」
ユウは、真剣な眼差しでこちらを見るジュディにどうしていいのかわからず、テーブルを挟んで正面に座るヴィンセントに情けない視線を送る。
それに気づいたヴィンセントは、ゆっくりと笑ってユウに告げた。
「ユウは、ジュディにどうして欲しい?」
「何も。ここでお世話になってからずっと良くしてもらってるし、寧ろこちらからお礼をしなければならないくらいなのに」
「まぁ、ユウ様。勿体ないお言葉……」
ジュディの淡い褐色の瞳が、うるうると揺れる。
ユウは椅子から立ち上がり、膝をついてジュディと目線を合わせた。
「ね、立って、ジュディ。私の方こそ、ごめんなさい。どうか、気にしないで」
「ユウ様……」
「さ、ユウもジュディも。せっかくの食事が台無しになってしまうよ?」
いつの間にか二人のもとに来ていたヴィンセントの手が、その肩をそっと叩いた。
「私、お腹すいちゃった。頑張ってたくさん食べるね? ジュディ」
「ええ、是非そうなさってくださいまし、ユウ様」
テーブルには、朝食として、ほっこりと湯気を立てるスープや、器に露が見受けられるほどよく冷やされたサラダなど、実に豊かに準備されていた。
「すご……」
「ベイルシャールでは、朝食は、一日の食事の中でも一番大切なものとされています。ですから、たくさん召し上がってくださいね」
ヴィンセントの横で紅茶をカップに注ぎながら、ジュディがにこやかに答える。
「あぁ、ジュディ、ありがとう。さぁ、ユウ、食事にしましょう」
「はい。いただきますっ」
こうして、朝の食卓で、和やかな時間が過ぎて行った。
皆さん、朝ご飯、きちんと食べてますか?
朝は特に忙しい時間帯なので(ギリギリまで寝たい人なのです…)、
シッカリ朝食をとるのはなかなか難しいのが現状ですが、これからは
ちゃんと食べるように心がけます。ハイ。( ^^) _旦~~
さて、今日ももう少し進めますね?
宜しければ、お付き合いくださいませ。
諒でした。