異物混入+式典
五話目。
さて、やっと物語がうごきだしますよ~!
出来れば感想よろしくです、素直に詰まらないでも構いません(汗
誤字があった場合通報オネガイシマス。
ここ間違ってるよばぁーか・・・てな具合に(泣
商業都市クレセンティア誕生祭。
百年以上前から、この誕生祭は行われ続けている、例えどんな事情があろうとも、この誕生祭は開かれ、そしてこの都市はこれを期にさらに活気付いたものとなっていく。
クレセンティア城の近場にある大きな広場、そこで誕生祭が開催される、期間は三日三晩、平民も貴族も関係なく楽しく煌びやかに行われるのだ、毎年これを楽しみとしている人々も少なくないであろう。
本当は、このクレセンティアの領主、クルーゾ・フィリッシュ=クレセンティアル、言わばミリーナの父親が祝典を受け持つのだが、今年はクルーゾが遠い小国の反乱を収めるために遠征に出ている、そのため今回この誕生祭を受け持つのは、クルーゾの娘、ミリーナとなってしまった。
ミリーナは自室のベッドに軽く腰をかけてため息をつく。
まさか自分がこんな大役を授かるとは思っても見なかった、まあ、この都市の領主の娘だと思えばこんなことは大したことないのかもしれないが、ミリーナはあまり大勢の前で話すことに慣れていない、父親の傍らを共にしてきたけれど、全然克服できていないのだ。
城を抜け出したのは、このような生活が嫌いと言うのも勿論あるが、自分にのしかかる重圧から逃れたいと無意識的にそう思っていたからなのかもしれない。
ミリーナは大きなガラス張りの窓の外を憂鬱ながら眺めていた、太陽は遥か向こうにあり、クレイス山脈の後ろへと隠れようとしている、茜色の光りが自室を朱に染める。
「おい、いつまでため息つきながらボケッとしてるつもりだテメェは」
不意に後ろから低い声音でそう言われ、ミリーナはビクリと肩を震わすと、慌てて振り返った、目の前には不機嫌な様子の龍牙の姿がある。
龍牙はそれを見ると複雑そうな表情をする、ミリーナの表情を見るに、どうも緊張がほぐれていない様子だ。
「失礼するよ、ミリーナ嬢」
「ギルモアさん、どうしたんですか?」
部屋の扉が開きその後ろから姿を現したのは、兵士長とは思えないほどの軽量な動物の皮をなめして作った薄手の甲冑を着たギルモアであった、熟練者ともなれば重く頑丈な装備は逆に機動力が失われて邪魔なだけなのだ。
ギルモアを見ると、龍牙は渋い顔をする。
「いやなに、今日の誕生祭の警護について幾つかお話と準備が出来ましたのでお呼びに・・・それと、ミリーナ嬢の緊張を和らげようと思いまして、龍牙じゃ荷が重過ぎるからね」
ギルモアはチラリと龍牙を見ると意地の悪そうな笑みを浮かべ、再びミリーナのほうへと向き直る。
「さて、警護の話ですが、近辺警護兵の二人は勿論、従者の龍牙と私が、それとシュバルツも万が一のために、広場には十分な兵と魔法兵が配備されています、なに、悪者が入り込む隙など在りませんよ」
「テメェはそれを話しに来たわけじゃねーんだろ」
龍牙は明らかに嫌悪の表情を露にしながらギルモアを睨んだ。
「そうなんだよねー、まあ、警護の話はこれくらいにして、本題に・・・ミリーナ嬢」
ギルモアはかがんでミリーナの耳元で何かを囁いた、龍牙はそれを知っている。二時間ほど前のことだ、ただ提案された時点で龍牙はあまり乗り気ではなかった、それを言うのは龍牙自身余り得意ではなかったためでもある、その代理がギルモアなのだ。
「・・・と言うことです、どうでしょう?」
「本当ですか?」
ミリーナはそれを聞くと目をキラキラと輝かせて聞き返す、よほど胸が躍るような提案をされたに違いない、先ほどの暗い表情は何処へやら。
「ええ、龍牙もそれは既に承諾しております、ねっ龍牙」
ギルモアが龍牙に視線を向ける、その笑みは完全に楽しんでいるに違いない、龍牙は諦めたように小さくため息をはく、べつに承諾もしてない。
「まぁ・・・それは俺の専売特許みてぇーなもんだからな」
龍牙は観念したように後ろ髪をかくと渋々承諾した。
「龍牙もああ言っているので、どうです、少しは緊張も解けましたか?」
「はい、私頑張りますっ」
「では、行きましょうか、衣装も変えねばいけませんし」
ギルモアがそう言うと、ミリーナが立ち上がる、その後ろに龍牙も続いた。
城の衣装室へと向かい、龍牙は部屋の外で待たされている、ギルモアは一足先に広場へと向かっていると、それだけ言うと言ってしまった、従者なので仕方なく龍牙はここで待っている。
暫くすると、扉が開く、侍女に連れられ出てきたミリーナを見て龍牙は言葉を失った。
ミリーナのドレスは青を基調とした衣装となっている、大きく開いた胸元と袖には透けてしまいそうなほどの薄手の布地が花びらように縫い付けられていた、ドレスは意外にも体に吸い付くようにフィットしており、腰周りが締まってスレンダーな体形を強調しているようであった、腰まであった蒼髪は綺麗に結われていて、大きな真珠が飾り付けられた髪飾りがそつなく収まっている。
思わず綺麗だと言葉が口からこぼれそうになり慌てて口元を龍牙は引き締める、これほどまで自分のもののようにドレスを着こなす人物を龍牙は見たことなど無かった、余計な形容などいらない、ただ綺麗。それ以外の言葉など見つかるはずが無かった。
「あの・・・何処か変ですか?」
そんな龍牙の表情を見てか、ミリーナは不思議そうに小首を傾げると、自分の体を眺め回した。
「いや・・・別に変じゃない。ですよ」
龍牙は侍女がいるのを見ると慌てて言葉を付け足す、それを聞いたミリーナはニコリと微笑んだ。
「よかった、では行きましょう、皆様を待たせるわけには行きませんから」
ミリーナはそう言うと、権威を漂わせるような足取りで廊下を進んでいく、そんな彼女の後ろを見ながら、ふと龍牙は胸のうちに感じる違和感に気がついた。
筆舌で表しにくい、複雑なわだかまり。それに妙な胸騒ぎ。何のよりどころも無いが、自分が覚えた違和感が外れたことはほとんど無い、皮肉なことに、毎日殺気立った生活を送らなければこのような能力はつかなっただろう。
何かが起こる、龍牙は直感的にそう感じ取っていた。
■ □ ■ □ ■
商業都市クレセンティア、門の前。
「あ~あ、誕生祭が始まるってのに、俺たちは見張り番かよ、報われないよな」
商業都市クレセンティアには、東西南北に一つずつ巨大な門がある、それ以外には聳え立つ壁が、壁にはつるつると滑る特殊な魔法がかけられていて、間違っても登って中に入ろう、や出ようと言う気を起こさせない。
巨大な門を潜り中に入るためには、国から発行された交通許可書を持たなければいけない、これを持っていれば、クレセンティア以外に、ポーカリエンスやギレグランスにも入領することが可能だ。
ため息をついたのは、東の門番を任されている兵士だ、兵士がぼやくと、反対側にいる兵が呆れたように言う。
「そう文句を言うな、もう少しで交代の時間だろう」
「ああ、早く飯がくいてぇ! 毎年楽しみにしてんだ」
「ったく、お前はいつも飯の事しか考えてねーんだな」
兵士たちはそう言って笑いあう、すると。
薄暗くなり始めた森の奥から、光りが一つ、鮮明に浮かび上がった、誰か来たのだろうか。
「誰か来たみたいだぞ」
「本当だ、こんな夕暮れに・・・魔物に襲われていないだろうか」
心配そうにその光を見守る、だが、途中で止まるわけでもなく、ゆっくりとした所作で近づいてくる、どうやら怪我などといった類ではないらしい、純粋に着くのが遅れたのだろう。
暫くすると、クレセンティア放つ町の光りがその人物を照らした、見るとそこには、歳七、八十はするであろう老人が現れた。ボロボロのローブを羽織り、頬は痩せこけ、震える手で杖を地面に置き、今にも倒れそうだ。
「おじいさん! 大丈夫ですか」
それを見た兵士二人は、老人の傍に駆け寄る、それと同時に老人は力を失ったように兵士の胸へと倒れこむ。
「すまないのぅ、少し疲れてしまって」
弱々しい声で兵士に老人は囁く、既に事切れる寸前である。
「おい、魔法兵長を呼んで来い、あの方なら回復の魔法も使えるはずだ」
兵士が早い口調でそう言うと、もう一人の兵士が駆け出そうと立ち上がるが、老人はそれを諌めるように呟く
「いや、もういい・・・すまないが魔法でもこればかりは直らん、老いじゃ、怖いものじゃのぅ・・・すまないが、最後の一言を聞いてはくれぬか、おぬしら二人に聞いてほしいんじゃ」
それを聞き兵士は顔を見合わせた、もう間に合わないのだ、兵士二人はボソボソと呟く老人の口元へ耳を向ける。
その動作を見た老人の口元に下卑た笑みが浮かんでいるのも知らずに・・・。
■ □ ■ □ ■
クレセンティア城の近くの広場に周りより三段ほど高いステージがある、その裏には大勢の兵士とメイド、それに執事があわただしく行きかっている、それより少し離れた、簡素なテントの中にミリーナと龍牙はいる。
「さっきまでの凛々しさは何処行ったんだよ」
最初に聞こえたのは龍牙の苛立ちが募った低い声であった。
「どっかにいちゃった・・・」
それに答えるように聞こえたのは、ミリーナの切羽詰った、今にも泣き出しそうな声だ。
こうなったのには数分前、ミリーナが広場に足を踏み入れてからだ、ステージの裏から広場を見るや否やミリーナの表情によゆうと言う三文字は完全に行方をくらませ、変わりにあせりと言う三文字を置いていったのだ。
「ったく、さっきまで頑張るっつてたんだろーが、ちゃっちゃと事済ませりゃいいじゃねぇかよ」
「わかってるけど、わかってるけど~・・・!」
先ほどの権威な態度は何処にもない、再び子犬や子猫と言う形容が相応しい状態に戻ってしまった、うるうるとしたその綺麗な紺青の瞳で龍牙を見る。
そんな視線を向けられては、何かいわなければいけないではないか。
「・・・・・・テメェの緊張をどうやったら解せる? ただし、俺が出来る範囲だけだぞ」
諦めたように龍牙はそう言った、ミリーナは少しだけ頷くと。
「傍にいて、少しだけ」
「いるじゃねーかよ、傍に」
「そうじゃなくて・・・」
ミリーナはそう言うと、龍牙に抱きついた。
「何してんだよ、テメェ」
明らかに怒りの篭った口調で、脅すようにそう言った、ミリーナは少し身を強張らせるが、小さく呟く。
「緊張したときに、お母様にやって貰ったことがあって・・・こうしてもらうと落ち着くの」
「テメェの母親か、じゃあその人にやってもらえばいいじゃねーか」
「・・・私が六つの時に亡くなったの」
龍牙は複雑そうに眉間に皺を寄せる、急に抱きつかれたことに驚きはした、先ほどの怒りも照れ隠しだ、それはそうだ、美少女に抱きつかれて嫌悪の表情を表せるものがいるだろうか、ほとんどいないに決まっている。
それより、この小動物の母親が亡くなっていたのは始めて知ったことだ、父親は遠征に出ているとは聞いたが、そういえば母親のことは聞いていなかった、いや、彼女が無意識に話題を逸らしていただけかもしれない。
「そう、か」
龍牙はそう呟くと、体の力を抜いた、少しだけなら構わないだろう、そっとしておこう。
それに、彼女の気持ちがわからないでもない、自分も早くに母親を亡くしている、その痛みは計り知れない筈だ。
それに・・・。
「失礼します、ミリーナ様、少しお話g・・・なっ!!!」
テントの外から声が聞こえたかと思うと、男と青年が入ってきた、その中の男のほうはギリオンであった。
龍牙に抱きついていたミリーナはビクリと震えると龍牙の傍らから素早く退いた。
「き、貴様! ミリーナ様を誑かしてなんて事を!」
「うるせぇ・・・姫の緊張を解そうと思ってやっただけだ、何がわりぃ」
「なっ! そんな言い訳が通じると思ってるのか・・・さては貴様地位欲しさに―――」
「はぁ? よくもそんなくだんねぇ被害妄想が思い浮かぶな、屑が」
龍牙の一言でギリオンは腰の剣に手をかける、それを静止したのは隣にいる青年であった、年は龍牙やミリーナと変わりはない、整った鼻筋に強い意志を感じる金色の双眸、いかにも美青年を絵に描いたような人だ。
「まあ、落ち着いてください、ギリオンさん、彼はミリーナ様のことを思ってそうしたのです、ミリーナ様も抵抗していた様子は無いようですし、ここは目を瞑りましょう」
声色も落ち着いていて、大人の雰囲気を醸し出している。
「ぬぅ、君が言うなら仕方ない、だが、次そのような場面に出くわしたら、貴様に問答無用で斬りかかるからな」
「テメェみてぇな雑魚には永遠に不可能だな」
「くっ!」
ギリオンは今にも爆発しそうな激情を、何とか歯を食いしばり耐えているようであった、無論それを龍牙は歯牙にもかけていない。
「そ、それより話って何でしょうか?」
居心地の悪い雰囲気が漂い始めたのをいち早く察知したミリーナが、口を開く。
それを聞いたギリオンは、我に返るとミリーナに言う。
「ああ、そうでした、いえ、大したことではありませぬ、魔法兵長のグレス=ウィランがサボっているため、彼に警護は難しいかと・・・」
「そのことでしたら心配要りません、彼はやるときやる人物ですから」
「まぁ、そうだと良いのですがね・・・」
グレス=ウィラン、今城内において最高峰の技術をもつ魔法使いだ、ただ、サボり癖がたまに傷なのだ。
「それだけ報告をしておきたかったのです、ではこれで・・・」
ギリオンは一礼すると、龍牙を鋭く睨み退室していった、残ったのは、美青年。
「レジオース、あなたももう戻ったらどうですか?」
龍牙はレジオースといわれた青年へと視線を向ける。
「かったい事言うなって、別に構いやしねーだろ」
急に口調の物腰が柔らかくなったレジオースに龍牙は少し驚いた。
「レジオース、私の命令よ、でてって」
ミリーナは冷たくレジオースをあしらった。
「わーったよ、そこの従者とイチャイチャしてーなら俺は邪魔だわな、まあそらそうだ、こんな目つきの鋭い美青年ほかにいねーもんな」
「っ、龍牙さんに失礼よ! 早く出て行って!」
「へいへい、そんなに目くじら立てんなよ、可愛いなぁ」
レジオースはそれだけ言うと、龍牙を一瞥し、部屋から出て行った。
「もう! あいつなんてだいっ嫌い」
始めてみるミリーナの不機嫌な様子に龍牙は驚いてばかりだ。
「なぁ、あいつってお前とどういう関係だ」
不機嫌なミリーナに龍牙は再び穿り返すようで躊躇ったが、気になり聞いてしまった。
「ずっと昔から顔を合わせてた仲よ、幼馴染」
なるほど、だからため口なのか、龍牙は納得した。
だが、傍に龍牙がいたにもかかわらず普通に会話をした、これは何かの挑発か・・・それとも単に馬鹿なだけなのか、龍牙にはわからなかった。
だが、と龍牙は尚も機嫌の直らないミリーナを見る。
彼女の緊張が何処かへと吹っ飛んでいるのは確かだ。
龍牙の胸の奥で、何かが疼いたようであった。