脱出+約束
スミマセン、テストがやっと終わったのでソッコウ書いてみました、今回はギャグが多いかな?
それでは、どうぞ!
クレセンティアでの事件から二週間、東西南北にある巨大な門での警備配置が強化され、兵等も己の不甲斐なさを思ってか、一層鍛錬に磨きがかかったように見える。
城の裏手にある大きく間のとられた鍛錬所、その中に一人の青年の姿がある、短めの色素の薄い髪に、キリリとした眉、射殺してしまうほど鋭い光を放つ黒い瞳、耳にはイヤリングがつけられている、ネックレスは動く際に邪魔なため今は着けていない、身長は高い、八頭身。
竜谷龍牙、彼は不運なことに異世界に飛ばされた不良である、しかしここに飛ばされた原因もわからず、そのためもあってか元の世界に帰れる手順が見つかるまでの間、このクレセンティアの姫、ミリーナの従者として住まわせてもらっている。
「いい龍牙、魔法って言うのはただ放てばいいってもんじゃないんだよ、放出も大事だけど構成とか強化とかもあるんだから、一つ一つ覚えてね、ハイ行くよ!」
その龍牙の正面に立つのは、クレセンティアにいる魔法兵のトップに君臨する魔法兵長、グレス=ウィラン、鼻筋は真っ直ぐで赤色が混じった黒髪と吸い込まれてしまいそうなほどの漆黒の瞳、そして彼の不機嫌な表情を淑女が見れば、口から零れるのはため息ばかりであろう。
二人が立つ場所の周りは丸い円のように人だかりが出来ている、その殆どが魔法兵、なぜならグレスはこの国中何処を探しても見つからないほどの面倒臭がり屋であり、そもそも鍛錬所などに数えるほどしか足を踏み入れていない、そもそも踏み入れてもものの数分で消えてしまうのだが。
そのグレスが真面目にしかも、魔法を使って見せているのだ、ほかの魔法兵からしてみては国宝級クラスの展示物を見るのと同義。
故に何処か学べるところはないかと瞬きすらも勿体ないような真剣な面持ちでグレスを見つめている。
しかし、だ、その集中力をそぎ落とす異様ともいえる魔力を持ち合わせているのが、その正面に立つ龍牙である、魔法兵に詳しいことは何も知らないのだが、龍牙の中には神の下僕というグレスベラントが存在していた大陸を壊滅まで追い込んだ、異界の魔物の内一体の魔力を持っている。
そして驚くことに、神の下僕の魔力は消費をしても龍牙の中から消えることがないのだ、龍牙が聞いた範囲では、神の下僕の魔力は龍牙の異能力、【神外れ】という右手で触れた魔法を強制的に魔力へと変換させる、という世界の法則を無視した能力で取り込んだその魔力を、ゆっくりと神の下僕の魔力へと変換させているらしいのである、つまり、どれほど龍牙が神の下僕の魔力を使っても、髪の毛ほどのその魔力が残ってさえすれば取り込んだ魔力で再びその神の下僕の魔力を補充することが出来る、という訳だ。
グレスの淡く輝く魔法陣から風の刃が飛び出す、当たっても致命傷にならないある程度威力を抑えた刃だが、それでも恐ろしいほどの速度でそれが迫れば必然と背筋は寒くなる。
龍牙はというと左手に持つ光の棒を大きく振るう、しかし。
風の刃はその光の棒を軽々と切り裂くと龍牙へと当たる、皮膚が少し切れ少量の血が零れ龍牙の握っていた光の棒は儚く空気に溶け見えなくなった。
「くそっ!」
龍牙は苛立ちを募らせた表情で毒づいた。
「ん~、どうも構成のイメージが定着してないみたいだね、強度にも魔力を裂いておかないとさっきみたいに脆くなるんだよ」
「んなこといわれてわかるかっつんだよ」
「まぁそうだろうね、龍牙は小難しい三次元の定理とか聞いているうちに寝ちゃいそうだし、体で覚えたほうが得策かもね」
「遠まわしに馬鹿にしてんだろ、テメェ」
龍牙が鋭い視線で睨むと、それを掻い潜るように薄くグレスは笑う。
「さぁ、今日はここまでにしようか、疲れた」
「はぁ? 時間を見やがれ、まだ十五分もやってねぇだろうが」
「龍牙、疲れたときに休むのは人間の基本行動だよ」
「黙れ、っつか本当にお前は俺を強くする気があるのか?」
「いやいや龍牙、肝心なことを忘れてるよ、今日はここまでって言うのはそっちのほうに比重があるかも?」
「あぁ?」
「だから―――」
グレスは意地悪く笑うと、口を開く。
「―――今日は約束の日、でしょ?」
「そう言えばそうだったな・・・」
龍牙は自室に戻るとベッドに寝転がりながらそう呟いた、すっかり忘れていた、あの時の約束。
クレセンティア誕生祭、ミリーナの父親が不在のためミリーナが誕生祭の式辞をやることになり、緊張を解すためにギルモアが勝手に決めてミリーナに約束を取り付けた一件だ。
約束の内容は。
「龍牙と一緒にドリスの講義をサボる、だよね?」
「勝手に入ってくるんじゃねぇよ」
「おおー怖い」
いつの間にか部屋に侵入を図った奴がニコニコと笑っている、真っ白な肌に整った鼻筋に垂れ目が特徴的の好青年、長い漆黒の髪は後ろで縛ってある、身長は龍牙より高い。
兵士長のギルモア=レビン、剣の腕は非常に高く、魔法使いと戦っても引けを取らないほどの戦闘力を持っている、一度龍牙と手合わせをした際に龍牙の体術に少しばかり関心を持っていて、何かと龍牙にちょっかいを出しては逃げるという青年らしからぬ子供のような一面があり、龍牙自信そのせいも込みであまりギルモアを好いてはいない。
「で、んのようだ?」
「用って、龍牙、君を迎えに来たんだよ、ほらミリーナ嬢を連れて二人でデートでしょ?」
「殺す」
「ちょ! 室内で魔法は禁止だよ!? 冗談だって」
左手が輝き始めたのを見て慌てて前言撤回の意を手を大きく振って示す、龍牙は不機嫌な表情のままベッドに腰を置く。
「で、龍牙はその服装で行くわけ?」
ギルモアは目を細めると龍牙の着ている無地のシャツと、紺色のパンツを指差す。
「・・・まぁな」
「はい! 着替えて今すぐ!」
「んなこと言われても、俺が持ってるのはジーンズと燕尾服ぐらいしかねぇぞ?」
「そんなことだろうと思って、用意は出来てるよ」
その声とともに扉が開くと、赤髪でツインテールのメイドが入ってきた、メイドの手には洋服が乗っている、それを龍牙にサササッと神業のような速さでそれを手渡すと一礼だけして風のように去っていった。
「・・・これか?」
龍牙は手渡された服を神妙な顔つきで睨む、一番上には羽織るような白い金の筋が入ったマントが見て取れる。
「そっ、商業都市クレセンティアは服の技術も最先端でね、この前龍牙が着てたパーカー? だっけ? あれもこの城にいるデザイナーの目に留まってね、商品化のめどが立ってるらしいよ?」
「パーカーだけってのもどうかと思うけどな・・・」
どうやら服装などで浮くことは無さそうだと龍牙は思った。
「じゃー、さっさと着替えてね僕は外に退出してるから」
ギルモアが外に出ると、龍牙は早速手渡された服を着てみる。
赤を基調としたシャツに下は真っ黒なパンツ、腰周りにはベルトのようなものが三つ、しかし腰周りを締めるようなものではないためあくまでデザインと言うことだろう、マントは肩がけ用らしく、着ている服を隠しはしなかった。
すべて着終わったと思いベッドに視線を移した龍牙は眉を潜めた、机の上に一つだけ、右手用の薄い色の皮で作られ、手の甲の中心に丸い群青の金属が埋まっているグローブ、龍牙が知っている限りオープンフィンガーに無理に指をつけたようなものがあった。
「おい」
龍牙は扉の向こうにいるであろうギルモアに声をかける、返事は待たずして帰ってきた。
「どうしたの、終わった?」
「着替えは終わった、このグローブは何だ?」
そう言うと、ギルモアは扉を開けて入ってくる。
「君の右手対策だよ、城にも色々と重要な魔法がかかっているからね、何か遮るものを着けておきたいんだと思うよ、魔法で作られた物も商業都市にはたくさんあるからね」
なるほどと龍牙は納得する、確かに触れただけで魔法を強制的に魔力へと変換させる能力は、魔晶石と言う魔法が石となった高価な宝石などに触れてしまえば途端に龍牙の蓄えとなってしまう。現に一度自分の部屋に会った小さな宝石を壊したことがある。
龍牙は薄手のグローブを手にはめて手を動かしてみる、意外と通気性はよくつけても気にならないほど軽いものであった。
「にしても、龍牙は何着ても似合うって言うか・・・もうちょっと目つきがまともだったらなぁ」
「余計なお世話だ」
「さぁて、後はあの鬼教育係のドリスさんをどうするかだよ、龍牙」
二人は扉を背に声を小さくする、ギルモアの顔に真剣な色が見えている。
「あぁ・・・俺もあいつは苦手だ」
ミリーナの教育係、ドリス=キーラン、細い顔つきにクリーム色の髪を後ろで束ね、丸い眼鏡から覗く青色の目つきはどこか高貴な貴婦人を思わせる。
彼女の性格はとにかく厳しいの一言に尽きる、礼儀作法から帝王学、魔法学まで幅広い教育知識を蓄えていることには頭が下がるが、如何せん彼女に妥協の二文字は無い、龍牙すらも口をつぐんでしまうほどの規律女なのだ、伝わらないのであれば、口うるさい学級委員長が二十人集まったと思えばいい。
それに加え彼女の魔法は、雷の属性と【麻痺】を基本にした束縛の魔法、簡単にサボると言って逃げられるとは思えない。
「龍牙の右手は有効だけど、手首ごと束縛されたら一巻の終わりだし・・・それを計画した僕の身も危ういんだよ、グレスも力を貸してくれるらしいけど、彼、ドリスが大の苦手だからね、何処まで期待できるかわからないし」
「前途多難じゃねぇかよ、ったくこんなので抜けだせんのかぁ?」
龍牙は眉をひそめる。
「まぁ、あとは龍牙の頑張りってことで」
「・・・俺任せか?」
「なるほど・・・どうも動きが怪しいと思い調べてみれば、そういうことでしたの」
二人の会話に割って入るように、酷くさめた声が響く、二人は珍しく目で捉えることが出来るくらいにギクリと肩を震わせる。
いつの間に部屋に入ってきたのかわからないが、兵士長すらも気配がわからないとなると相当な手練であることに間違いはないだろう。
―――おい、まさかよぉ?
振り返ることも出来ず、龍牙はギルモアに目で語る。
―――いやー、あっはっは・・・まいったね。
ギルモアがお手上げですスミマセン、と目で合図を送ると、龍牙は聞こえないくらいにため息をつく。
「何か言うことはありますか? お二人とも?」
そんな二人を知ってか知らずか、ドリスは抑揚の無い声を響かせる。
「僕たちの計画がばれてるってことは、ミリーナ嬢は?」
「ええ、壁に縛り付けておきました」
「相変わらず容赦がありませんね」
ギルモアが龍牙に、何とか時間を稼ぐからどうにかして、と目で合図を送る、この状況でどうすりゃいいんだっつの、と思いながらも龍牙は体に力をこめる。
「いえいえ、ミリーナ様はあれでもこの都市を担う重要な御方の娘様、最小限の魔法で慈悲を与えております、ですが、今目の前にいるのはただの兵士長とただの従者(そのドスの聞いた声に再び二人は肩を震わせる)・・・手加減をする必要性は限り無くないかと、必要最低限命の保障は心配要りませんが、五体満足のまま終われるとは思わないよう―――」
「龍牙!」
ドリスの言葉が終わる寸前にギルモアが叫ぶ、それと同時に龍牙は恐るべき速度で立ち上がると、周りを確認しないまま魔力付加で強化した脚力で床を踏み込んで扉のあるほうへと突っ込んだ。
直後、激しい音が鳴り響き、龍牙の部屋の扉が派手に吹っ飛んだ、幸い近くには誰も通りかかっておらず吹っ飛んだ扉の被害は被らなかった、しかし龍牙が振り替えるや否や瞬きすら許さない速さで黄色いロープのようなものが四本、龍牙の肢体目掛けて襲い掛かってきた。
龍牙は右手振るう前に、全力で逃げに徹することにした、右手に頼るのは最悪の場合のみ、ここで立ち往生などしていたらあっという間に捕まるのは目に見えている、ドリスの操る雷を基盤とした束縛の魔法は攻撃力はさほど無いものの、強靭な強度に加え【麻痺】により束縛を受けた途端体の自由が効きづらくなってしまう、足など拘束された途端こちら側が不利になることは間違いない。
「りゅうが・・・がんばってね」
龍牙が逃げたのを確認したギルモアは全身くまなくロープでグルグル巻きにされて横たわっていた、ドリスの【麻痺】によって言葉すらも曖昧である、その言葉も龍牙に届いたかどうかはわからない。
「逃げますか・・・あなたも私の生徒の一人、道を誤ったからには罰を与えねばなりませんね」
丸い眼鏡を中指で押し上げたドリスの表情は冷たいが、瞳だけは真っ赤に燃えているように見えた。
クレセンティア城はため息が出るほど広い、龍牙はものすごい勢いで走りながらミリーナを探していた、片っ端から部屋の扉を開けるなどという野暮なことはせず、ミリーナがいるであろう場所をある程度予測して向かっている。
(やっぱ、あそこだろうな・・・)
ドリスも馬鹿ではないため、早めにそちらに向かっているかもしれない、待ち構えられていたらそれこそ厄介だ、龍牙はさらに走る速度を上げる。
そして、目的の部屋へとたどり着くと扉を蹴破る勢いで開けた。
そこにいたのは・・・。