最終対決+復讐
そろそろ一区切りです!
リティーナは引き裂かれそうな胸の内を明かそうなどとは思わなかった、根拠は幾つもあるが、決定的なものは一つ、彼の道を自分が勝手に造り誘導などさせていいわけが無い、からだ。
だから、今は・・・そう、彼の敵でいることにしよう、いつかこの真実を明かせることを心から祈り、そして、彼が受け入れずとも、理解してくれることを切に願って・・・・・・。
リティーナが二の句を告げることは無かった、龍牙の面前から姿を消したと思うと、既に龍牙が一瞬では近づけない距離まで離れていた。
ざっと見積もる限り、二、三十メートル。
リティーナは口端から伝う血を無造作に右手の甲で拭うと、笑みを消した。
先ほどまで、リティーナは時間稼ぎだと考えていたこの戦闘、しかし、事情が変わった、リティーナの体に微かに残る人間の血が、疼き始めている。実力のある相手に手を抜くのは非礼だと。
(まぁ、少しばかり本気を出しても、死なないよね?)
リティーナは内側にある膨大な魔力を、練る、彼が死なないように少し、けれど、退屈などさせないくらいの大きな魔力を。
雰囲気が変わったことに、龍牙はいち早く気がついた、目の色が代わり、リティーナの口から笑みが消えたこと、それに加えて肌がまるでナイフでも押し当てられたかのようにチリチリと痛む、それだけで判断材料は十分すぎた。
生憎相手の魔法を防ぐ右手は腕ごと使い物に成らない、それに加えて相手が本気を出してくるとなると、これ以上の危機は無い。
更にだ、ダメ押しに近いのだが、龍牙の内にある魔力はあと少しで底をつく。
龍牙が溜めていた魔力は、ここにたどり着くまでの炎と風、それにサエルスの炎、最後にリティーナの土の魔力。
炎の魔力の全てはサエルスを倒すために使いきってしまった、リティーナの土の魔力は|偽龍牙(土人形)を作る際無くなった、後手元にあるのは、風の魔力のみ。
龍牙はまだ、魔法を使う際の調節に慣れていない、零か百か、無力か全力かの二つの選択しかない、そのため炎の魔法を使う際には己のストックになる炎の魔力をほとんど使ってしまう(二発放てなのは魔力が多かったためだ)
加えて、風の魔力は魔力付加を使うために遅々とながら擦り減っている、底をつくのは時間の問題と言えよう。
理想的なのは、リティーナが魔法を使ってくることだ、そうすれば風の魔法を使い、土の魔力で魔力付加を継続させることが出来る。
だが、果たしてリティーナがそのような理想的と言える行動に移るかどうか、はっきり言ってしまえば自身が無い。
理由は単純、リティーナが龍牙の異能力を知っている可能性が色濃いためである、リティーナの言葉。
―――まさか、僕から取った魔力をもう使うなんてね・・・。
リティーナは龍牙の右手のことを知っていると断言しても良い、知っているのなら尚更、魔法の攻撃は期待が出来ない、来るのは勿論。
肉弾戦、だ。
ドッ!
一瞬だ、空気が熱を帯びたかのように龍牙に襲い掛かる、目を細めようとする龍牙の元へリティーナは滑り込むように侵入してきた。
それを察知した龍牙は直ぐに右足を大きく振り上げる、攻撃をしたつもりなど無い、ただ牽制が出来ればそれでよかった、しかし。
リティーナはまるでそれをよんでいたように、それを掻い潜ると、龍牙のみぞおちに強烈な肘内を叩き込む、龍牙は苦悶に表情を歪める、それすらも許さないように今度は顔面に鋭い衝撃が走り、龍牙は吹き飛ばされ壁に背中ごと叩きつけられた、痛みは順を追うように迫る、龍牙が顔を不意にあげた瞬間、目の前に鋭い土の杭が放たれていた。
龍牙の右手は無意識で動いていた、土の杭を掴むとそれは乾いた砂のように手から離れていく、だが、龍牙の足に焼け付くような痛みが駆け抜ける。
土の杭は二本放たれていた、一つはわざと龍牙の確認できるところへ、もう一つは龍牙の機動力を奪うため足へだ。
右足は完全に力が入らず、龍牙は膝を突くとそこに深々と突き刺さる杭に触る、土の杭ははかなく消えるが、痛みはひいてはくれない。
土の魔力はほんの少し、それに払った代償は余りにも大きすぎる。
それ以前に相手の攻撃がまるで違う、先ほどの相手がまるで赤子のようだった。
龍牙は荒く呼吸をしながらリティーナの方へと視線を向ける、本人はまるで日常生活を送っているかのような自然体で龍牙を見つめていた。
「さて、どうする? まさかこれで終わりじゃないよね?」
リティーナの言葉に促されるように、龍牙は右足に拳を打ち付けると立ち上がる、しかし、満身創痍の状態だと言う事は誰が見ても明らかだ。
龍牙から言葉は無い、今は痛みを堪えるのに精一杯といったところだ、右足の膝から下は痛々しいほどに服が赤黒く染まっている。
龍牙は肩を上下させながら左手を突き出す、龍牙はわかっている、後一歩でも踏み出せば間違いなく自分は倒れる、今たっているのは己の気力のみ。
ならば、残っている魔力を魔力付加に使う必要など何処に在る? 全てを今、目の前にいるあいつにぶつけてやる、それくらいしか自分には出来ない。
龍牙の左手の平に魔法陣が宿る、龍牙の身長ほどは在ろうかと言う魔法陣、普通なら四、五人が魔法陣を共有させ、さらに地の利を得なければ出現させることが出来ないほどの魔法陣、だが、リティーナはそれでも表情を崩しはしなかった、それがさも当然とでも言うように。
龍牙の懐の奥底から、煮えたぎるような激情がくすぶり始めた。
悔しい、ただ純粋なその想い。
相手に敵わない事が、悔しい。
己の力がこれほどだと言うことが、悔しい。
再び負けを重ねることが、悔しい。
そして何より、心のどこかでコイツを倒す以外に、目的が果たせないと思ったことが、龍牙の中で何より、悔しい。
勝ちたい。
龍牙の中では初めてだったかもしれない、勝ちたいなど思いもしなかった、当たり前だ、今まで負けたことなど無かったのだから、けれども、今は違う。
この世界で自分は余りにも弱すぎた、余りにも、余りにも・・・・・・。
―――綴れ、神に与えられし言語を。
龍牙の鼓膜に、低い声が響く。
―――。
そして、龍牙の脳に直接言葉が流れ込む。
「何者も遮ることを許さぬ四元素の一つ、風、それは流れに身を任せ、時に逆らい、逆らうものを切り刻む、求めよ、身を任せる心を求めて」
龍牙の口から、彼の声ではない声が響く、まるで何者かが龍牙の口を借りて喋っているかのように。すると魔法陣の輝きが激しくなり、室内にもかかわらずまるで台風の中にでもいるように風が舞い始めた。
それを聞いたリティーナの表情が驚きと焦りに変わる。
「まさか・・・! 神託用語を使った? 馬鹿な龍牙はまだ・・・ちぃ!」
余りのことに思考がまとまらないリティーナは舌を打つと両手を頭の上に掲げる、灰色の魔法陣が大きく浮かびあがると同時に、リティーナは詠唱を綴り地面にそれを叩きつけた。
一室がまるで生き物のように蠢くと壁から数えるのも諦めたくなるほどの土柱が壁と言う壁から突き出した、それはリティーナを守るように何十、何百と重なり最後には一つの要塞と化す。
「放て」
先ほどの低い声ではなく、今度は龍牙の声であった。
魔法陣が一層強く輝くと、風が龍牙の手の平に集まり、圧縮されていく、先ほどまで五月蝿かった風の喧騒は無くなり、室内は無音へと変わる。
まるで、嵐のが起こる前のように。
刹那、鼓膜が破れるほどの爆音が響く、圧縮された雨粒程度の風の固まりは、弾けて土の要塞へとぶつかっていく、それはもはや風のレーザーと言っても過言ではない、細い風のレーザーは土の要塞へとぶつかり、それを障害物などとまるで認識せず貫通した。
数秒後、周りの景色が動く。
風のレーザーに遅れて嵐が巻き起こる、それに加え、圧縮された空気が摩擦を起こし、プラズマを撒き散らす、室内の地面は風によりまるで大きな爪で抉られたような傷を付け、土の要塞は砂となった。
風に散る砂の中に、リティーナは呆然と立ち尽くしていた、肩には風の攻撃を受け、大穴が開き、今にも腕ごと取れてしまいそうなほど、辛うじでくっついているのが奇跡である。
「まさか、ね。まさか、この行動事態が無駄だったなんて、全く何たる無駄足かな、罪まで被って馬鹿みたいだ」
その腕など心配している素振りなど何処にもなかった、リティーナは龍牙の方へと視線を向ける、それは、敵に対してではなく、まるで親鳥のように慈愛に満ちた眼差しで。
「僕はここで退かせて貰うよ、これ以上やったら僕と君共々、無駄な傷を増やすだけだし・・・・・・神の下僕の復活まで後二時間強ある、僕としたら復活してくれたほうが君のために成るだろうけど、まあ、止めるだろうね、君は」
リティーナはニコリと笑う、敵であったことがまるで嘘で、それが演技であったかのように。
「それでは、またお会いできるときまで」
そう聞こえないほど小さく呟くと、リティーナは姿を消した。
崩れかけた一室の中に、龍牙は膝を突く、限界だ、足がもう。
足の筋繊維が千切れでもしたのだろうか、力が入らないと言うよりは、力が抜けていく。
龍牙は荒く呼吸を繰り返しながら、再び立ち上がろうとして、それはかなわず地面に這い蹲った、あれは何だったのだろうか、低い声で誰かが・・・。
再び立ち上がろうと足に力を込めた、その時だった。
「龍牙~、無事?」
背後から聞き覚えのある声が聞こえる、振り返るまでも無い、グレスだ。
「あーあ、随分と酷いね」
「あぁ? 何かだよ」
龍牙は振り返ると、痛みを堪えているかのような複雑な表情でグレスを睨む、弱いところは見せないのか、とグレスは思うが。
「まぁ、強がってるなら大丈夫だよね、ほら、立てる?」
「強がってねぇよ、それより、あとの二人はどうした?」
「あ、二人は宮殿の外で怪物と戦闘中だよ、さっさとミリーナ嬢助けて、あの怪物龍牙の右手で消してくれない?」
そう言うとグレスは龍牙の肩に手を回す、龍牙はかろうじでまだ無傷の左足に力を入れて、歩き始めた、向かう場所は、ミリーナの元。
この宮殿の頂上に行くまでそれほど時間はかからなかった、どうやら巨大なのは部屋だけであって部屋が大きい分、部屋と部屋を繋ぐ廊下はそれほど長く無い。
禍々しい気配を放つ扉の前に、二人はいた。
グレスは一言も喋らず扉に手をかける、扉が開くと同時に灰色の気味の悪い光が二人を包む、先ほどの部屋よりふたまわりほど広いレンガ造りの一室の中央にその光源があった、既に光はミリーナを完全に包みこんでいて、光はまるで生き物のように、形を奇妙にそして歪に蠢いている。
「あれだね―――」
グレスが口を開いた瞬間、灰色の光球の中央から目玉が一つ、ギョロリと見開いた、二人はギョッとする、そしてそれと同時に危機を感じた。
「邪魔邪魔邪魔邪魔じゃまじゃまじゃまじゃまじゃまジャマジャマジャマジャマzyamazyamazayma」
目玉だけのはずなのだが、何故か気味の悪い声が立て続けに聞こえる、それは次第に低くなり最後には地面に落ちてしまいそうなほど低音の声となる。
途端、光球の周りから幾つ物触手が飛び出した、龍牙とグレスは同時に顔をしかめる、全てのものが気味悪い、触手の動き方から、目玉があちらこちらを見回すその動き全てが、人の悪寒を感じる場所を嘗め回す。
「龍牙、何あれ?」
グレスがおえっと舌を出しながら龍牙に聞く。
「俺に聞くな、ただ・・・何もしてこないってのは無さそうだな」
刹那、あれほど奇妙に右往左往と言う言葉が適切なほど動き回っていた目玉が、龍牙とグレスを直視した、一瞬目を見たら何かされるのではないかと思った二人だが、何も起きない、しかしその代わり、光球の目玉の中心、黒色の強いところに何か小さな物が浮かんでいる、それを見た龍牙は咄嗟に痛みも忘れて右手を突き出す。
小さな小さな物は、龍牙が手を突き出した瞬間牙をむいた、灰色の光線と言うのが適切な表現となる、空間を捻じ曲げてしまうほどの光の攻撃、それは龍牙の手に触れるや否や消滅していく。
しかし、光の攻撃は収まるところを知らなかった、消えても消えても、龍牙に吸収されてもされても、ミリ単位後ろで次の光が待っている。
「くそっ、きりがねぇぞ!」
龍牙は衝撃で千切れてしまいそうな激痛が走る右手を必死に突きつけながら、隣のグレスに叫ぶ。
「【裁きの灰色】か、全く、何でもありだね、神の下僕は」
全てのものを無に帰す魔法、裁きの灰色、使用方法を間違えれば己の生きている場所まで破壊しかねない、禁忌の魔法だ、それを平然と、それも予備動作とも言える魔法陣無しで使用してくる辺り、流石は神の下僕と言えよう。
目玉から射出される光の攻撃を龍牙の右手が相殺、しかし着実に龍牙の方が疲弊の色を見せる、理由は至極当然、龍牙の許容量を超える魔力が流れ込んできているためである。
まるでダムを開けたときに流れ込む水を彷彿とさせる勢いで龍牙の内側に、泥のように積もっていく魔力、既に龍牙の中の四分の一はその光の魔力により埋まっている、これでは三分とて持たない。
龍牙の異常に気がついたグレスはすぐさま片腕を目玉のほうへと突き出す、言葉を綴り性質【切断】を加えた風の太刀をグレスは放つ。
光の攻撃を掻い潜るように向かう風の刃、それを察知したように目玉の周りに生える触手がそれを止めようと壁を作る、グレスの風が触手にぶつかると、それはまるでバターのように切断される、しかしだ。
触手は一本なら分けなかった、しかし、目玉の周りには数千と言う触手、それが一斉に風の刃一つに向かったら果たしてどうなるだろうか。
結論は火を見るより明らか、何十本と触手を叩ききった風の太刀は虚しくも目玉には届かず役目を終えた。
斬られた触手は奇妙に形を歪めると、グニュリと悪寒の走る音と共に再生、再び目玉の周りでグネグネと動き回る。
「手数が必要か」
グレスは驚きの表情一つしないで、再び魔法陣を組み立てる、今度は一つではなく複数、グレスの手の平には小さいながらも無数の緑色に輝く魔法陣が完成。
「切り刻め」
グレスの言葉と同時に魔法陣から幾重もの風の刃が飛び出す、数千もの風の刃は目玉を抉ろうと迫る、目玉は触手をまるで壁のように立ちふさがらせると、風を遮る、小さい風の刃は先ほどの一撃より威力は劣る、しかし、先程のよりは圧倒的に手数が違う、触手が再生するより早く、傷を負わせた場所へさらに風の刃が襲い、傷をさらに抉る。
それを見たグレスはさらにもう一つ魔法陣を組む、普通、一つの魔法を行使している間はもう一つの魔法は使えない、いや、使えるのだが、そのためには研ぎ澄まされた集中力が必要、並みの魔法使いでは到底その様な業は会得できない、しかし、グレスならそんなこと生きるに同じ、何の意識無しに行使できる。
それに加え、グレスは今、己の中で最強とも呼べる魔法を構築、更に光の攻撃の余波で室内には荒れ狂う気流が残る、地の利はグレスにあった。
「吹け、狂え、踊れ、舞え、舞踏し魅せよ見えぬ刃で敵を刻め」
グレスの詠唱に呼応するよう、魔法陣は瞬く、グレスは腕を大きく振りかぶると、斜めに振り下ろした。
「【大地に刻む暴風の太刀】!」
グレスの振るう腕の軌跡に沿って、風が舞う、それは三日月の形をした何者をも叩ききる風・・・いや、もはや切るという次元ではない、消すという言葉がしっくり来るであろう、触れたものを消し、何者も寄せ付けることを許さぬ必殺の刃、それは真っ直ぐに標的の元へと向かう。
既に無数の風によりボロボロと触手はグレスの放った刃には対応すら出来なかった、触手が触れた所はまるで、塵のように消失、触手の壁を掻い潜った刃は真っ直ぐに目玉へと向かう、そして。
ズガン!
脳に直接響くほどの爆音を響かせ刃は目玉を直撃、しかし、目玉には斜めに一本、細い切れ口が出来ただけ、驚愕するほどの硬度をほこっている、だが、グレスにとって対象物が切れるかどうかは至極どうでも良いことであった、なぜなら、攻撃が直撃し、光の攻撃が収まった、つまり、龍牙に行動する隙が生まれたということだ。
「龍牙!」
グレスはそう叫ぶと、三つ目の魔法陣を形成していた、それは龍牙を軽々と吹き飛ばせるほどの豪風。
龍牙の背中に豪風が当たり、龍牙の体は目玉に向かって突撃する。
距離はざっと二十メートルほど、豪風は一瞬でその距離を詰める。
だが、それより早く目玉に宿る触手が再び元に戻ると、こちらに向かってくる龍牙の攻撃に備えるように先ほどと同じように触手を編みこんだ。
視界に広がる灰色の触手、だが。
「邪魔だ!」
龍牙はそう叫ぶと右手を思い切り振りかぶり殴りつけた、途端、触手がまるで噛み千切られたかのように気味の悪い音と共に消えてなくなる、開けた視界の先にはギョロリと、何も出来ず龍牙を見つめることしか出来ない目玉。
龍牙の右手が、目玉に触れた。
龍牙に触れられた目玉は、まるで内側から雛鳥に殻を破られる卵のように皹が入り、パリーンとガラスの割れる音を響かせる。
割れた光球の中に、蒼髪で見る者を魅了させる美少女、ミリーナの姿があった。
龍牙は着地をすると、痛む足をまるで無視したようにミリーナの元へ近寄り膝を突くと、ミリーナの頭の後ろに龍牙は自然腕を回し、持ち上げていた。
「おい、生きてんのか?」
少し強めに龍牙はミリーナを揺する、すると、ミリーナの瞳が少し開く、その紺青の瞳は龍牙を捕らえると大きく見開かれた。
「龍牙、さん?」
「生きてんのか、ならいい」
龍牙はそう言うと、ミリーナの上半身だけを起こすと、手を離した。
「龍牙さん、何でここに?」
不意に、ミリーナが顔を伏せるとそんな質問を投げかけた、龍牙は眉間に皺を寄せる。
「何でって勿論、ミリーナ嬢を助けるために決まってるじゃん、ねっ、龍牙」
龍牙が口を開くより先に、グレスが口を割る、龍牙はグレスを睨むが。
「何で来たんですかっ!」
急にミリーナの声が飛んだ。
「龍牙さんはこの世界の人ではないの、この世界の所為で連れ込まれた被害者、なのに・・・何で来たの? 怪我までして、私なんかのために!」
そう、いうなれば龍牙は被害者、この世界に連れ込まれ、勝手に事件に巻きこまれ傷ついて・・・これ以上この世界の所為で龍牙が傷ついてほしくは無かったのだ、助けに来てボロボロに成っている龍牙を見てミリーナは改めてそう思った。
「何言ってやがる馬鹿が」
だが、ミリーナの言葉を聞いて龍牙は少しばかり、怒りを覚えた。
「俺はテメェの何だ?」
「え?」
ミリーナは面を喰らったように目を丸くする、答えが聞けそう見ないと察した龍牙はため息をつくと。
「俺はテメェの従者だ、ここに来る理由はそれ以外にいるか?」
龍牙は覚えていた、従者の役目は、ミリーナの傍に仕える事。
だから、今こうして傍にいる。
「それにな、俺は別にお前を助けようとしてきたんじねぇ、ぶっ潰してぇ奴がいたからだ、お前は次いでだ」
そして、龍牙は爆弾を置いていく。
その隣で、グレスがあちゃーと額に手の平を当てていた。
それを聞いたミリーナは予想外にも顔を赤く染めて下を向く、龍牙さんは自分を助けるためにここに来たのだとばかり思っていたが、実はまったくの誤解、それなのに自分は、私なんかのために! と叫んでしまった・・・とてつもなく恥ずかしい。
とても純粋なミリーナであった。
「さっさと帰るぞ、そういや、外に何かいるんだっ・・・・・・っ!」
龍牙が立ち上がろうとした瞬間、心臓を鷲摑みされたような痛みが走りぬけ、龍牙は足の痛みなど忘れて地面に倒れこんだ。
龍牙の中で何かがドクリと鼓動した、そのたび全身の神経を焼かれたような耐え難い激痛が走り抜ける。
ドグン・・・ドグン・・・ドグン。
(あの・・・魔力か?)
龍牙は朦朧とする意識の中、思う。
神の下僕の魔力は不完全ながら龍牙の中にある、それが、まるで毒のように龍牙に牙を向いているのだ。神の下僕は言い換えれば巨大生命魔法、そしてその魔力はこの世界の常識を超えている、そんなものを取り込んだ龍牙の体は持つはずが無い。
(クソ・・・が・・・・・・・)
龍牙の意識はそこで完全に闇に誘われた。