ぷろろーぐ
不良が異世界行ったらどうなるんだろうと思いまして書いてみました、どうぞ!
それは余りにも突然、そう・・・突然だった。
生い茂った木々の隙間を縫うように、強い一陣の風が通り過ぎる。木々がざわめく。そのわずかに空いたスペースに、頭上に輝いている太陽の日差しが、降り注いだ。
融通無碍なその陽光は地面に筆舌尽くしがたい模様を描く。
その明かりに包まれながら一人の少女は、足早に歩を進めていた。
薄汚れたローブを頭までスッポリと被っている、傍から見たら薄汚れた旅人か、師のもとから逃げ出した新米魔法使いに見えなくない。
もううんざりだ、息が詰まる。
後ろを振り返り、誰も来ていないことを確認すると、少女は頭にある鬱陶しいローブを取り払い、頭を何度か揺する。
澄み切った青空のような綺麗な長い蒼髪が舞う。それ自体が一つの洗礼された動作のようで、先ほどまで風光明媚であった景色も、彼女の美しさを際立たせるために脇役へと移転した。
「ここまで来れば・・・もう来ないわよね?」
帰ってくるはずの無い疑問を声に出し、額に浮き出る汗を拭う、その少女は今度はゆっくりと、周りの景色を楽しみながら歩き始めた。
森の木々の安らぎのある喧騒が落ち着きを取り戻すと、次第に耳に流れ着く、小鳥の囀り。少女は内心に残る、行き場の無い不満を押し込め、自然の鼓動に耳を傾けた。
彼女の名は、ミリーナ・フィリッシュ=クレセンティアル。
先ほど、ミリーナは背後に広がる、商業都市、クレセンティアにある宮城からたまらなくなって逃げ出した姫君。
考えるも忌々しい、あの周りを囲む城壁も、庭を煌びやかに見せる真っ赤なバラも、一定の間隔で並ぶ剪定された何の面白みも無い植木も、先代の栄光を讃えて作った威風堂々とした銅像も、淑女も従者も教育係のドリスも何もわからない近辺警護の騎士のレジオースも、何もかもが、今はミリーナのフラストレーションを溜めるだけの物でしかない。
もっと自由が欲しい、十七の少女に相応しい生活と言うものをしてみたい、そりゃあ。真っ白な薄手の衣装や真っ赤で燃えるようなドレスも、自分の家にはある、果てしない数が、それに一つ、売れば村が生活に困らないほど高価な宝石が幾つも埋め込まれたネックレスや、指輪、ティアラも豊富にある、現代の少女が見ればいいなぁと口を揃えて羨ましがるものばかり。
だが、それが何だというのだ、それが自分の家にあるだけで、自由がなければそんなものがあったところで何の価値も無い、ただただ許婚を喜ばせるための宝石だ。
まあ、鏡を見たとき、自分でうっとりとしてしまうときもある、真っ白は肌に蒼髪と波紋一つ立たない湖を漂わせる紺青の瞳、すっきりとした鼻筋に小さい唇がそつなく収まっている。
クレセンティアの人々、国中の男を虜に出来るその容貌に父親も大いに喜んでいる。
だが、その美貌は道具として使われる。
自分は敷かれたレールを歩く操り人形。
そんな生活にもううんざりしたのだ、毎日、護身術や礼儀作法、魔法の勉強まで・・・頭がパンクしそうだ、許容量を遥かに超える。
―――この生活を抜け出そう。
そう決心して今に至る、休みの時刻に淑女の服と城の倉庫にあるローブを盗み(盗まれた人はごめんなさいと謝っておいた)城の裏手にある城門から門番兵を騙して抜け出した、都市から出る時は一人の兵士に口止めをして(どうやったかはいえない、恐ろしくて)出てきた、我ながら無謀だと思う、だが唯一の自発的行動に妙な高揚感を持っているのは否定できない。
やれば出来るんだ、私も。
ふと、ミリーナは立ち止まった、そして辺りを見渡す・・・変だ。
先ほどまで聞こえていた鳥の囀りが聞こえない、木々も押し黙っている。
そして、肌がピリピリするような魔力の気配。
押し潰されそうなその重圧にミリーナの瞳は憂いの色を濃くした・・・何か来る!
そう思い身構えた途端、稲妻が走ったかのように目の前が真っ白になった、それと同時に焼け付く熱波が襲う。
ミリーナは余りのことに悲鳴も出せず屈みこみ、ローブを目深に被ると近くにある雑木林に飛び込んだ。
その瞬間先ほどの衝撃など考えられないほどの轟音が響く、近くの木々に生える木の葉は舞い、焦げ付く臭いが鼻を突く、衝撃波で飛ばされないよう必死にミリーナは木の根に爪を食い込ませ抗いながら、ことが収まるのまで食らいついた。
数秒もしないうちにその奇妙な爆発のような何かは収まった、最新の注意を払いながらミリーナは恐る恐る体を起こす。そして、目を見張った。
「あの野郎・・・よくも俺に妙なもん投げつけやがって・・・殺す!」
どうやら少し離れた所でその何かは起こったらしい、木々が焼け雑木林は見る影もなく、灰と化した大地に一人の青年が立っている。
短めの色素の薄い髪の毛、薄手のパーカーに所々破れたジーンズをはいている。
キリリとした眉に、射殺してしまうほど鋭い光を放つ黒い瞳、耳にはイヤリングが付けられ、首には髑髏のネックレス、身長は長い、八頭身。
「ひ、ひと・・・?」
ミリーナは震える唇で呟いた、それが聞こえたのだろうか、いや、たまたまであろう。
その青年がこちらを向いて、ミリーナと不意に目が合った。
この都市では見たこと無い顔をしている、何と言うか・・・遠くはなれた東の倭の国にこのような顔かたちをした人がいると、ドリスの授業で聞いたことがある。
余り長く直視できないその眼光を除けば結構な美青年であろう。
「あ? テメェ誰だ?」
離れていても耳に重くのしかかるような声にミリーナはビクリと肩をすくめる、こ、怖い。
何処かの盗賊かとミリーナは疑ったが、あのようななりの盗賊は見たことが無い。
その青年は歩いて自分の方へと向かってくる、ミリーナは雑木林から出ると、立ちすくんだまま、考える。
逃げようかな・・・恐いし、襲われるかも。
考えながら青年の方をチラリと見る、だがその青年はもう目の前にいた、思わずミリーナは小さく悲鳴をあげる。
「なんだ、人の顔見て驚いてんじゃねぇーよ」
殺気に満ちたその視線にミリーナは涙目になりそうになるのをグッと堪える。
「ご、ごごごめんなさい・・・えっと、あなたは誰ですか?」
「はぁ、俺のこと知らねーの、馬鹿じゃん」
名前を聞いただけで、馬鹿とは失礼な、少しミリーナはムッとするも、上から見下ろされさらに鋭い目つき・・・言い返せるわけが無い、蛇に睨まれた蛙だ。
「ス、スミマセン・・・知らないです・・・・・・」
「まぁ、いいや・・・龍牙、竜谷龍牙だ覚えとけ」
縮こまるミリーナを見た龍牙はため息を一つはくとそう言った。
「で・・・お前は、誰?」
龍牙が大きく欠伸をかきながらそう言った、知らないの、とミリーナが言いたくなった、この国中探しても自分の名前を知らない者はいないはずだ、目の前にいるけど。
「わっ、私は・・・ミリーナ、ミリーナ・フィリッシュ=クレセンティアルですぅ」
最後は龍牙に睨まれて小さくなったために、口から漏れてしまった『ぅ』だ。
「何だ、その名前・・・お前ふざけてんの? ミリーナとか・・・あ、あれか美里菜か?」
「ち、違います、ミリーナと言う名前なんです」
「へぇ、何処かのゲームのお嬢様みたいな名前だな、お前」
みたい、ではなくそうなのだが、それを言ったらまた睨まれそうなので、ミリーナは言い返すことが出来ない。
「で、その髪の毛なに? 染めてんの」
「も、もとからこの色なんです」
「え、マジ? すげぇな・・・青とか」
意外にも興味を示してくれた、先ほどのきつい視線も幾分か和らいでいる、ホッとミリーナは安堵のため息をつく。
目つきとか、言葉遣いとか多々怖いけど・・・どうやら悪い人では無さそうだ。
「いたぞ! ミリーナ様だ!」
聞きなれた声がした、ミリーナ側近の警護兵、レジオースではなくもう一人のほう、ギリオン、ギリオン=シャンデルの声だ。
その声で、ミリーナは振り返る、銀色の甲冑に身を包んだ兵士が数十名こちらに向かってきている、胸元にはクレセンティアの紋章、ウェルシュ・ドラゴンが描かれている。
ウェルシュ・ドラゴンは、騎士が畏敬の念を表すドラゴンだ、真っ赤な朱色の体はいかなる攻撃も弾き、口から炎のブレスをはく、そしてその咆哮に全ての生物はひれ伏すといわれている、それに、大昔、地上を制圧しようと襲い掛かる異界の魔物をウェルシュ・ドラゴンは一撃で沈めたという。
そのような伝承もあってか、ウェルシュ・ドラゴンはクレセンティアの中で、畏怖を抱き、守り神のように敬っている。
それより、もう来てしまったのか、まあ、あの爆発があったら来るのが当然かもしれない。ミリーナはため息をつく、またあの自由の無い牢獄に逆戻り、先ほどまで意気揚々としていた自分が馬鹿みたいだ。
すると、再び声が響く。
「ミリーナ様の傍に不届き者がいる! あの顔からして凶悪な者だ! 殺せ!」
ミリーナは一瞬、『不届き者』とは誰だろうと、考えるが、直ぐに目の前に立つ龍牙を見て、この人だ! と直ぐに理解した、その後の『顔からして凶悪』でさらに確信は深まる。
「なんだ、あの騎士のコスプレ集団は、秋葉原にもいねーぞあんな馬鹿集団は」
そんなことを呟く龍牙を尻目に兵士は腰に刺してある剣を抜いた、完全に龍牙を殺す気だ、止めなければ。
ミリーナが龍牙の前に立ち、口を開こうとしたとき、ミリーナは肩をつかまれて後ろへとさがらせられた。
「りゅ、龍牙・・・さん?」
「剣まであんのか? 随分本格的なコスプレ野郎共だな、そのなり見たらぶっ殺したくなってきた」
「龍牙さん? えっと・・・コスプレとは何でしょうか?」
何のことかわからず首を傾げるミリーナを尻目に、龍牙はニヤリと不吉に笑い、指を鳴らす、ギラリと輝く銀色の剣を見ても微動だにしていない、臆する様子も無い、逆に楽しそうだ。
先頭を走る兵士が龍牙に向かって切りかかった、剣は上から下へと振り下ろされるが、その寸前に龍牙は右足で兵士の手を狙って蹴り上げる、物凄い衝撃が走り兵士は剣を手放した、その隙に龍牙は上げた足を、頭部まで鎧で覆っていない兵士のむき出しの脳天目掛けて蹴り下ろす。
ゴス!
兵士は白目を向いて倒れる、それを一瞥すると、今度は二人の兵士が龍牙の首を狙い左右から剣を横になぎ払った。
龍牙は身をかがめてそれを回避すると、一瞬で右の兵士に肉薄し、鎧と鎧の隙間に拳を叩き込む、体をくの字に曲げて悶絶する兵士をよそに、龍牙はすぐさま左の兵の懐に潜り込み、兵士の顎に強烈な拳底を食らわせる、兵士は宙に浮くと仰向けに倒れこんで気絶した。
ミリーナは一瞬呆気に取られた、クレセンティアの兵士が一瞬で三人、やわな鍛え方はしていないはずだ、それがこうもあっさりと・・・。
龍牙と言う人物は何者なのだろうか、ミリーナは思う、次々に切りかかる兵士の攻撃を紙一重でかわし、隙在らば、拳が唸りをあげる。
既に立っている兵の数より、くたばっている兵のほうが多い。
「ば、馬鹿な・・・クレセンティアの兵が・・・こんな青二才のガキに」
「テメェらコスプレ集団とは鍛え方がちげぇんだよ、オメェらは一人で暴走族壊滅させたことあるか? ねぇだろ」
暴走族・・・暴走するグループだろうか、ミリーナは思いを膨らます、聞きなれない言葉が多い、彼の住んでいるところはどんな所なのだろう。
「仕方ない・・・魔法兵!」
「ハッ!」
ギリオンが歯軋りしながら、叫ぶ、ギリオンの近くにいたローブに身を包んだ男が前に出ると、右手に持つ杖を突き出す。杖の先端にある鶯色の水晶が発光した。
「玩具で俺を倒そうって気か、くだらなねぇことしてんじゃねぇ!」
龍牙が地面を蹴り、魔法兵に接近を図ろうとする。
「龍牙さん! ダメ!」
ミリーナが声をあげる、魔法に正面から突っ込もうとするなんて、無茶にもほどがある。
だが、その声を聞く前に魔法が発動した。
水晶が濃い緑の光りを放ち前方に横向きの竜巻が襲い掛かる、余りのことに龍牙は目を見開き唖然とする。
だが、その途端、龍牙は妙な浮遊感と、懐に走る激痛に表情を歪める、気が付いたときには自分は吹き飛ばされたのを知った、浮遊時間は短く直ぐに地面に体が叩きつけられ、灰が舞う。
「っ・・・・・・」
叩きつけられた際に、頭を打ったのだろう、目の前が一瞬で暗くなり、意識の糸を龍牙は手放した。
初めてだった、初めて自分が・・・喧嘩で負けた。