アメドラ:Better Call Saulを6周観た男が好き勝手喚き散らすオデン屋
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Better Call Saulの6周目の視聴を終えた男は、奇声を上げながら客のいないオデン屋台の暖簾をくぐると「熱燗!!!」と絶叫した。
程なくして、縁の欠けた質素なおちょこが突出される。男はグイーッとそれを飲み干し、店主に突き返しながら喚いた。
「ジミー・マッギル!!!!裁判長!!私の名前はジミー・マッギルです!!!!!!」
「あなたはジミー・マッギルではありませんし私は裁判長ではありませんよ」
それはそう。
「6周したのにまだ味がする。このドラマはヤバい」
「世間では同じドラマを6周も視聴するような人は、なにかの病気を疑われますね」
それはそう。
「というかお客さん、あなたブレイキング・バッド観たときはそんなにソウルのこと好きじゃなかったじゃないですか」
「ソウルじゃない!!私の名前はジミー・マッギルです!!!!!!」
「それはもういいんで」
「はい」
男は居住まいを正すと、煮卵を注文してピッコロ出産の逆再生のように丸呑みした。
「そりゃね。ブレイキング・バッド時点ではそんなに好きでもなかったね。嫌いでもないけど。他のキャラの方が思い入れあるからなあ。ベタコ観ようと思ったのだってマイクが出るって聞いたからだし。というかベタコ観る動機って大半は【マイクにまた会いたい!!】じゃねえの?(暴論)」
「でも今はソウルの方がいいと」
「ジミー!!!!(怒号)いや、マイクも良かったよ。ブレイキング・バッドの時より明らかに演者の方が老け込んでるから多少違和感はあるけど。全編通して、マイクファンも納得する出来なのは間違いない。でも誓って言うけど、そのうち半分は視聴後はジミー派に鞍替えするね。そう、私のように——」
「なんて浮気性なんでしょうか。で、何がそんなにいいんですか?」
「いやほら、ブラック・ジャックってあるじゃん」
「手塚治虫の」
「そう。あれ読んでるとさ、なんとな~く、あ、ブラックジャック先生ならこうするよな、みたいな感覚あるじゃん。で、実際作中で先生はそうする」
「ああ、まあ」
「で、これ、ブラックジャック先生が単純単細胞ってわけじゃなくて、むしろ割とめんどくさい人だったりする。あえて闇医者、みたいな雰囲気出してるくせに、医師免許もらえるかも?みたいな電話かかってきたらウキウキで鼻歌なんか歌っちゃう。結局免許はもらえねえんだけど」
「そこで結局闇医者のままなのがブラックジャックみたいなとこはありますね」
「ベタコそんな感じ」
「いや、よく分かんないっすね」
「わかれにゃボケナスビ!!!!」
絶叫。
「ブラックジャックはさておき、ブレイキング・バッドのときは色んなキャラクターがコミカルで、誇張された雰囲気があった。ベタコはそのへん、あまり一貫してないというか、しょうもないホラとか見栄とか打算とか、なんというかこう、そのへんにいそうな人の感覚が、キャラクター性の上に乗っかっている感じがする。安易に【リアリティ】とかいいたくないけども、血の通った人間という印象がある。
そういう複雑な、ある種の予測不可能性、人間ってよーわからんよな、という感想を抱かせたうえで、【それでも、ジミーは(散々のたうち回ったあげく、最終的には)こうするよな】という視聴者の願望を裏切らない!!それがジミー・マッギル!!ここがガチっと一致したときの気持ちよさたるや」
「そういうもんでしょうか」
「で、で、で、キャラクターの話ばっかりしてたけども、展開もこれ、予測不能性の塊なわけで。どう考えてもあかん邪悪ピタゴラスイッチのように、人間関係と状況によって追い込まれ、徐々に退路が閉塞してくんだけど、話のスケールはどんどんデカくなってく。けど、大筋で観たらこれ、兄弟喧嘩なんだよ。スター・ウォーズも親子喧嘩だよな」
「面倒なファンを抱えたジャンルに流れ弾を撃ち込まないでください」
「ぶっちゃけこれ、ブレイキング・バッドのファン向けというよりは、独立した一個の作品として普通に観れるからみんなも観ような。ブレイキング・バッドみたのにこっち観てないやつは死刑」
「ブレイキング・バッド視聴してから数年経ってようやくベタコ観た人の発言とは思えませんね。何たる傲慢か」
「とにかく最終回を見終えたらもう、ベター・コール・ソウルのストンプが3日は止まらなくなるよ。あのシーン、吹き替えだとちょっと間抜けなんだよな。「ソウルに!!(ドン)電話!!(ドン)しよう!!(ドンドン)、字幕だとベター!(ドン)コール!(ドン)ソウル!!(ドンドン)で非常にリズミカル。ネタバレは控える方向なのであんまり詳しく言えんが、最終回を見ると一話を見返したくなるような、ニクい導線がある。そんでホイホイまた一話を再生して、気づいたら6周する」
「世間では同じドラマを6周も視聴するような人は、なにかの病気を疑われますというのは二回目ですね」
「我々の会話もまたループするのだろうか。とにかく、あの1話冒頭、モノクロの【ジーン・タカヴィク】のシーンから始まって、過去の栄華、ソウルに電話しよう!のCMをビデオ再生した映像がメガネに映り込んだところ、あの映像だけがモノクロの世界の中でカラーで——」
「お客さんのモノクロなクソ人生みたいですねえ」
「ウルセー!」
男は店主をメッタ刺しにして、オデンにして食った。
完
とりあえず7周目みるけどさすがにそろそろ味しなくなるんじゃねえのか




