表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義弟に嫌われているので侯爵家を出たら、なぜか毎日探し回られています。  作者: アキラ・モーリング


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/2

02 sideユリウス

夕食へ向かう途中だった。


アルヴェイン侯爵邸の長い廊下を歩いていたユリウスは、前方から聞こえた笑い声に足を止める。


父だ。


その隣にはエレノア。


そして少し後ろを、リディアが歩いていた。


「お義父様、この絵画、とても素敵ですね」


柔らかな声だった。


父――レオニードが目を丸くする。


「……お義父様?」


「はい?」


リディアはきょとんとしていた。


「再婚したら、そうお呼びするものだと聞きました」


「っ……」


父がふっと目を細める。


嬉しそうな顔だった。


エレノアも楽しそうに笑っている。


その瞬間。


ユリウスの胸がぐしゃっと潰れた気がした。


なんでそんな顔をするんだ。


母上がいるのに。


母上が亡くなったばかりなのに。


なのに父は笑っている。


まるで本当の家族みたいに。


気に入らない。


全部。


その日の夕食。


ユリウスは不機嫌だった。


父の隣は母上の席だったのに、今はエレノアが座っている。


その向かいにはリディア。


リディアはスープを見て、


「わあ……美味しそう」


なんて呑気に言っている。


そんなことで嬉しそうにするな。


腹が立って、持っていたコップをダンッ!!と音を立てて置いた。


食堂が静まり返る。


「ユリウス」


父が低い声を出す。


「食事中だ」


「うるさい」


「ユリウス」


「だってそうだろ!」


気づけば声を荒げていた。


「父上はもう母上を忘れたんだ!」


使用人たちが青ざめる。


けれど止まれなかった。


「父上は、こんなふうに他の女と笑い合えるんだな!」


ガタン、と椅子が鳴った。


エレノアが目を見開く。


その顔を見て、胸の奥がざわつく。


でも止まれない。


「母上が可哀想だ!」


その瞬間。


エレノアの目から、ぽろりと涙が落ちた。


「あ……」


ユリウスの喉が詰まる。


エレノアは慌てて涙を拭った。


必死に笑顔を作ろうとするが、声が震えていた。


「ユリウス様……ごめんなさい……」


違う。


泣かせたかったわけじゃない。


だって……父上が……


何も言えなくなって、ユリウスはぎゅっと下唇を噛んだ。


「ユリウス!」


父の怒声が響いた。


びくっと肩が揺れる。


「謝りなさい!」


じわりと目元が熱くなる。


椅子を蹴るように立ち上がった。


「父上が母上を忘れるから悪いんだ!!」


そのまま食堂を飛び出した。


それからしばらく、ユリウスはなるべく父たちと顔を合わせないようにしていた。


食事以外は部屋に籠もるか、図書館へ行く。


父の顔を見ると腹が立つし、エレノアの泣き顔まで思い出す。


だから自然と足が遠のいた。


エレノアとも、必要以上に関わらなかった。


なのに。


なぜかリディアとはよく会った。


最初は図書館だった。


ユリウスは嫡子教育で課題を出されることが多い。


帝王学。


語学。


地政学。


資料を探しに図書館へ行くと、高確率でリディアがいる。


しかも難しい本ばかり読んでいた。


商業。


物流。


小売。


経済。


男爵令嬢が読むような本ではない。


「……なんでそんな本読んでる」


「面白いですよ?」


「面白くない」


ユリウスは嫡男として必要だから学んでいるのであって、面白いから学んでいるわけではない。


「そうですか?」


ユリウスは嫡男として自負を持っていた。


勉強だって同年代に比べたらかなり先に進んだ内容を学んでいる。


手元には帝王学の基礎の教本。


リディアの手元には、帝国一の商会長が引退後に自身の半生と経営論を書き記したと話題の最新の経済書。


帝王学の基礎を終えたら読むよう教師に言われていた本の一冊だ。


気に入らない。


リディアは図書館へ行けば、必ずと言っていいほどいた。


そして決まって難しい本を読んでいる。


「本当に内容を理解しているのか?」


「そんな地味な格好で侯爵家を歩くな」


「男爵気分が抜けてないんじゃないか?」


なのに。


リディアは怒らない。


嫌そうな顔もしない。


文句を言えば、


「だいたいの内容はわかるつもりですよ」


「オシャレより今は本が読みたくて」


「侯爵家に相応しくなれるよう頑張りますね」


と穏やかに答えてくる。


怒って言い返してくるのを待っているのに、当たり前みたいに返事を返してくる。


まるで、投げたボールがぽすっと布団に落ちるみたいだった。


それが妙に調子を狂わせた。


だから余計に話しかけてしまう。


数日後。


図書館へ行くと、リディアがいなかった。


珍しい。


今日は来ていないのか。


そう思った。


次の日もいない。


その次も。


「……飽きたのか」


ぽつりと呟く。


別にどうでもいい。


どうでもいいのに、図書館へ入るたび視線がそちらへ向く。


嫌われたのかもしれない。


……別に好かれたいわけじゃない。


なのに少しだけ腹が立った。


飽き性め。


そう思っていたある日。


剣術の自主練へ向かう途中、庭園の東屋で見覚えのある茶色い髪を見つける。


リディアだった。


東屋でお茶を飲みながら本を読んでいる。


その横では侍女が困った顔をしていた。


「お嬢様! また図書館に籠もろうとなさいましたね!」


「だって、あと少しだったの」


「あと少しを三時間繰り返しておられるでしょう!」


「うっ……」


「本ばかりではお身体に悪うございます! 少しは健康的な生活をなさってくださいませ! 侯爵家の庭園はそれはもう花盛りで美しいのですよ」


「花やお散歩より、今はこの本を読みたいわ」


手には『関税と税収』と書かれた分厚い本。


ユリウスでもげんなりする題名だ。


それを何が素晴らしいのか、見どころはどこなのかと侍女に懸命に説明していた。


あまりの熱量に侍女は呆れ顔で折れる。


「わかりました。では軽食をお持ちしますので、昼食はか・な・ら・ず取ってくださいませ。先日のように、食べると言って昼食を忘れて夕暮れまで本を読むのは禁止です!」


どうやら、たびたび昼食も取らず図書館に籠もっていたらしい。


本に夢中すぎて侍女に怒られる令嬢なんて初めて見た。


呆気に取られる。


そして気づく。


図書館にいなかったのは、侍女に外へ追い出されていたからか。


なんだそれ。


変なやつ。


そう思いながら自主練を終え、汗を拭きつつ東屋の前を通る。


リディアは本に夢中で顔も上げない。


それをいいことに頭からつま先まで見る。


茶色い髪。


薄い茶色の瞳に、焦茶の長いまつ毛。


わずかに浮いた薄いそばかす。


薄茶色のシンプルなドレス。


焦茶の編み上げブーツ。


全体的に地味だ。


「その格好、地味すぎて恥ずかしくないのか?」


突然聞こえた声に、リディアがハッとして顔を上げる。


そして言われたことを反芻し、今の自分の格好を見る。


「服……? 地味ですか?」


「地味だ」


「でも生地はいいものなんですよ? 着心地がとても良くて」


「そういう話じゃない」


「あ、利点は汚れが目立たない――」


「汚れが目立たないことを理由にドレスを選ぶ侯爵令嬢なんていない!」


思わず叫ぶ。


「お前、侯爵家に来たんだぞ!?」


「はぁ…」


「普通ならもっと明るい色のドレスとか、リボンとかレースとか……! こう、もっと……あるだろ!?」


「なるほど……?」


リディアはこてんと首を傾げた。


本当にわかっているのか?





数日後。


「ユリウス様!」


呼び止められて振り返る。


そこにはリディアがいた。


前に着ていた薄茶色のシンプルなドレス。


ただ今日は、胸元に小さなリボンがついていた。


薄茶色に合う、少し明るい青。


派手ではない。


けれど妙に似合っていた。


以前の地味な印象が、少しだけ柔らかくなっている。


「助言いただいたので、付けてみました」


にこっと笑う。


「どうでしょう?」


ユリウスは呆気に取られた。


「男爵家では機能性重視の服ばかりだったので……侯爵家に馴染めるよう気をつけます」


しかも素直に礼まで言ってくる。


「ありがとうござ――」


「服なんて新しいものを買えばいいだろ!」


思わず叫ぶ。


リディアがぱちぱち瞬きをした。


「でも、まだ着られますよ?」


「そういう問題じゃない!」


「……?」


ユリウスはぐしゃっと顔をしかめる。


「お前バカだろ! バーカ!!」


叫んで、そのまま逃げた。


後ろから、


「えっ!? な、何がいけなかったんですか!?」


と慌てた声が聞こえる。


ユリウスは顔を真っ赤にしたまま廊下を曲がった。


勢いよく自室へ飛び込み、バタン!! と扉を閉める。


そのままベッドへ突っ伏した。


「〜〜っ、もっと可愛い服を着ろってことだろ……なんでわかんないんだ」


枕へ顔を押し付け、じたばたと足を動かす。


侯爵家に来たのに。


もっとちゃんとすればいいのに。


せっかく顔だって悪くないのに。


なのに本人は全然気にしていない。


だから思わず、らしくないことを言ってしまったじゃないか。


ぐしゃぐしゃと髪を掻き回し、そのまま枕へ顔を埋めた。

読んでいただきありがとうございます(^^)

続きが気になると思っていただけたら、

ブクマしていただけたら嬉しいです♬

励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ