5話 五日目
曇り、それにしてはやけに青空がチラついているようにも思える。
家のチャイムを鳴らしてきたのは藤林だった。
「違います。家違いです」扉を軽く閉めた。
「昨日のやつ、すっごい傷ついた。だからお詫びとしてスイーツを奢りなさい」
ムスッとした表情で藤林はそう言った。
もちろん答えは「ノーだ」さっさと家に帰って勉強でもしていろ。
「言っておくけど、君のことは大切に思えないから。対象外だから」
鋭い視線と声音が俺を突き刺した。まぁ、罪悪感がないと言えばウソにはなる。それに俺の意図が見透かされているような気がした。
今日もバイトは休みだったのが運の尽き。
やれやれと、自室に戻って寝巻きを脱いだ。
歩いて十五分くらいだろうか。イートインができるケーキ屋に半ば強引に引きずりこまれ、お財布から札束が旅立っていく。
「君って結構、お人好しなんだね」何個ケーキを貪っていったのか数えるのを忘れた。ご機嫌取りにここまでお金を消費するなんて思ってもみなかった。
「これで満足か」頬杖をつきながら溜息が漏れる。
「うむ。大義であった」
このお代官様はさほど感謝なども示すことはなく、自分の爪を眺めていやがる。
俺は立ち上がり、彼女の背後で幾度か帰ろうと試みていたが、袖を掴まれ失敗に終わる。
「君みたいな人がいてくれて、嬉しくないからね」
「皮肉なもんだな」
「こうでも言わないと、君と会話できないでしょ」
見透かされている。
「もう要はすんだだろ、さっさと家帰れ」
「じゃあ、最後にこれだけ」藤林は鞄から何かを取り出すと、俺に差し出した。
それは無愛想なクマのストラップだった。
「気味が悪いな」すると、藤林はもう一つ鞄からクマのストラップが顔を出す。デザインは俺の手元にあるものと打って変わって可愛くデフォルメされているやつだ。
「こっちが私の」何だか嫌味を感じる。
「そっちの方が可愛いからよこせ」
俺は強引に藤林の持っているストラップと自分のものを取り替える。
「えぇ、こっち可愛くない…」うるさい。残念だがその無愛想なクマはいらない。
素直に家に帰ってくれた藤林が、連絡を寄越したのは二○時を過ぎた頃だった。
『今日はありがとう』
『おう』
既読はついているが、数十分は返信が来なかった。
しばらくして。
『もし、私の存在を君が忘れたら少し寂しいかも』
『それ以上は言わなくていい』
『もう嫌だよ、こんなの』
またあの感情が襲う。藤林の顔が頭から離れなかった。
画面越しだが、何故かすぐそばにいるような気がした。
泣いている。
俺はスマホで文字を打つ。
『忘れないよ』
送信。
既読。
胸の奥で何かがざわついた。
これを言って、何が解決できよう。
ふと、スマホの電源を切り、ベットに横たわった。




