4話 四日目
今日は陽の光もない曇天。
土曜日だ。
藤林には会わない。
珍しくバイトがない。ひたすらに暇を持て余していると、気がつけば夜も遅い時間だ。
時刻は23時。藤林からのメッセージが届いていたのを思い出し、スタンプを返すと意外にも既読が早くつく。
「はや」と独り言を囁くと、そのトークルーム画面から離れる。
すると、すぐに返信は来る。
『最近、少し怖いんだ』
少し考えて。
『誰だって忘れられるのは怖いだろ』
『いつか、世界からも忘れられそうで』
『大丈夫だ、その時は程よく手助けしてやる』
そんな気もさらさらないくせに。
『そんなこと言ってくれるんだ、意外』
『なんだと』
『いつも卑屈そうな顔してるから』
『おい』
『ごめん(笑)、でもありがとうね』
文字を打つ手が止まった。
向けられても一番嬉しくない言葉かもしれない。
『あながち間違いじゃないぞ』
『ん? どーいうこと?』
『俺は酷い人間だ』
続けてメッセージを送信する。
『もう誰かを大切にしようと思うな』
そこからは返信はなかった。
彼女の病気は医療機関で治せるようなものではない。医学の世界に存在する病気ではないからだ。癌よりもタチが悪いかもしれない。
一日、一日、彼女が誰かを大切だと感じる度に関係の糸が解けていく。
本人が一番怖いんだ。
大丈夫、何とかなる、誰も忘れない、そんなことを言っても藤林は救えやしない。
彼女が誰かを大切に思うことが自分の存在の忘却に繋がるのなら、俺をとことん嫌いになれ、憎め。
つまらなそうにしている顔の俺を、最低なことしか言えない俺を嫌いになってくれ。
嫌な気持ちになるだろうが、誰かを嫌いになれば多少歯止めは効くだろう。
だから嫌いになれ。俺を。
そうすれば少しはマシになるだろ。
青鬼は俺でいい。




