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3話 三日目

その日は生ぬるい風が吹いていた。


その帰路、英語の小テストの成績に満足いってないところに藤林茜が視界に入ってきた。


無視しようと思ったが、前を歩く彼女に何となく肩を叩いてしまう。

彼女は油断仕切っていたのか、変な声をあげて振り向いた。


「あぁ、君か」安堵し切った彼女は、ワイヤレスイヤホンを外し、カバンに詰め込んだ。

「あれから何か変化はないのか?」そんな問いに対し、彼女は俯いて呟く。

「親友がね、いなくなちゃった」


その声はどこか震えていて、すぐに空気中に溶けてしまう。


元恋人の件といい、今の話といい、病態が悪化しているに変わりはなかった。

相手を想えば想うほど、他人から見えなくなる病気だなんて、とんだ皮肉だと思う。


好意は毒なのだ。

彼女にとっては。


「そうか」

俺に言えることなんて何もなかった。

無理に答えて気を遣わせるのも悪いと思うし。


その後、お互いしばらく口を開かなかった。両者、話せば重い空気に変わってしまうと察していたからだ。


大通りから住宅街に入る道で、「あ、私こっちだから」彼女は俺とは反対方向に家があるらしく、行き先を指さす。

「そうか、気をつけて帰れよ」

振り向いて帰ろうと踏み出した途端。


「ねぇ、連絡先。教えて」

彼女が動き出した俺の体を静止させる。


「なんで?」

「困ったら君に頼る」

「はぁ」


落胆と同時にポケットからスマホを取り出し、連絡先を交換する。

初めて母親以外の異性の連絡先を手に入れたことに細やかな喜びは感じられるが、いかんせん相手が相手である。

なぜ、連絡先を交換したことに後悔しなかったのだろうか。


いや、どこか頼られることは嫌ではなかったのかもしれない。


「ありがと、何かあったら連絡するね」

そう言って、藤林茜は微笑みながら手を振った。

その姿が見えなくなるほど、何故かその場に立ち尽くしていた俺は、連絡先の項目にいる異質な存在を一瞥しながら、自宅の方へと足を進めた。


恋人も、親友を亡くしているのに、どうしてそこまで笑えるんだ。


彼女の笑顔は、心に歪な形で刺さる。感動するとか、惚れているとかそんな感情ではなくて、単純に“寂しさ“が伝わってくる。


「痛いなら、無理に笑うなよ。藤林」


俺は駆け足で家へと向かった。

通りすがりの子供たちが公園で戯れているのが視界に入る。

友達同士で分け隔てなく、ボールを投げ合っている。純粋無垢なまっさらな笑顔。


お前らの幸せってナイフみたいだな。不幸なものを傷つけるための鋭利な刃物だよ。




『よろしくね』


俺はその連絡に返信はしなかった。



大切に思わなくていい。

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