2話 二日目
昨日の雨は嘘のように、すっかりと地面は乾き、青空もその様子を窺わせる。
文芸部にロマンを感じていた時期が自分にもあったと、俺は顧問の小笠原に話した。しかし、作品を一つも仕上げてこない、ミーティングには参加しない、挙げ句の果てに隠れてバイトをしていることも見透かされると、俺に呆れを感じた小笠原はおもむろに引出しから退部届を抜き出し、手渡してきやがった。
これは同意のないリストラだ、と嘆いたが小笠原は二度とこちらに振り向くことはなかった。
ブルーな気分で廊下を歩いていると、件の藤林茜を見かけた。
彼女は自身の教室でクラスメイトと談義の最中だった。
昨日の話、あれはホントなのだろうか。
突発性脇役症候群、聞いたことも見たこともないし、信じられない。実際にそうなら友人ができても、いずれ彼女のことを忘れるに違いない。
俺なら耐えられないな、そんな病気。
彼女たちのグループとすれ違う。女子の話し声は苦手だ。うるさい。
通り過ぎて一息つくと、誰かが肩を突いた。ビクッと分かりやすく肩が震え、振り向いてみると藤林茜の姿が視界に映り込んだ。
「昨日、保健室にいた人だよね?」
目を細め、彼女は問いかけてくるのに対し、
「昨日会った人間の顔も忘れるのか」と嫌味ったらしい言葉が口から出ていた。
「だよね、ごめん。昨日話したことだけどさ誰にも言わないでね」
こそっと呟いた。
「言っても誰も信じないだろ」
俺はそう言って、彼女を手であしらった。
少し寂しそうな表情をしていた彼女を見て、胸の辺り、何かがざわついた。
「じゃあ」そう言うと彼女は軽く手を振り、集団の方へと足を向けた。
心のどこかで彼女の病について詳しく知りたい気持ちと、誰とも関わりたくない気持ちが混同する。
俺は他人とつるむのが得意ではない。その場になれば外交的なフリをすればいいし、友人も少なくて構わない。
神様は不公平だ。
そう思った。
いや、そんなものがいるなら、の話だが。
脇役なんて俺がなれば誰も困らないのに。
放課後、そそくさと帰宅する俺に藤林茜は軽率に声をかけてきた。
「一人で帰り?」彼女は何をもって俺に話しかけてくるのか謎で仕方ない。
「君がユニークだからかな?」
「エスパーかお前」食い気味で反応する。動揺は隠せていないようだ。
「誰かが私を大切な友達って思っちゃうと、私の心が揺らぐの」
俯いた彼女の横顔は髪の毛で隠れて見えない。しかし、気持ちぐらいは察する。
「俺はお前を友人とは思わない」
「ありがとう、優しいね」
その後、病気がいつ発症したのか過去の話を数分程度話し、彼女は友人と共に帰った。
人と会話した時の温かさがその場から失せ、冷たい空気が舞い戻る。
横断歩道を渡りきり、彼女が向かった道を振り返る。
藤林茜、お前は幸せでいるべきだ。何となくそう思った。




