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1話 一日目

その日は、肌が悲鳴を上げるほどの冷たい雨の日だった。


激しい腹痛に耐えながら横たわる保健室のベッドは、自宅のものとは感触が違い、あまり落ち着くことはできなかった。


「──で、なんて言われたの?」

どうやら隣のベッドには先客がいるらしく、保健室の先生が質問を投げかけていた。

「君のことよく知らないし、話したことも無かったよね」声の主は女子生徒のものだ。しかし、その声色、どこか聞き覚えのあるものだった。誰の声か気になると意識した時には、すでに集中して耳を立ててしまっている自分がいた。


「やっぱり深刻になってきているわね」

落ち着いた声で先生は呟く。何が深刻なのか話の主軸も掴めないまま、もう少し声が聞こえる位置に体勢を変えようとした際に事件は起こる。

体重をかけた片腕がベッドのシーツの上を滑り、アクション俳優顔負けにベッド転落を決めてみせた。

豪快に鈍い音が鳴ると、シャッとパーテーションが開けられ、見事に盗み聞きをしているのを悟られた。その場を一瞥すると、先生とその相手の生徒がギョッとした目でこちらの様子を伺っていた。


凄まじい羞恥心が俺を襲う。

その時、顔を見て認知したが彼女こそ噂の藤林茜、まさしく本人だった。俺は一方的に彼女を認知しているが、彼女からしたら最悪のファーストコンタクトであるのは間違いない。

深く溜息を吐いた先生が一度、藤林の顔を覗いた後に、再度こちらに視線をよこす。


「君はどう思う、この話」





「突発性脇役症候群……ですか?」

聞かされたのはにわかに信じられない病名だった。

彼女は下唇を噛んで、こちらの様子を伺っていた。しかし、彼女に返せる最高の言葉など俺の脳みそには用意されているわけもなく、ただ目線のやり場にずっと困惑するだけだった。その視線に気づいてか、「ごめん、よく分からないよね」落胆しながら渋る彼女に申し訳なく感じる。


「つまり、周囲の人間から見えなくなるってことだよな」


「うん」悲しげな表情に心がざわつく。

「誰かを想えば想うだけ、私の存在は薄れていく。全く、バカみたいな病気だよね」


先生の方にも視線を向けたが、真剣な表情であることから冗談のように思えるこの病気もどうやら本当らしい。まだ、確証は持つことはできないが。


彼女曰く、最近病態が急激に悪化しているらしく、昨日の失恋現場のことをそれとなく聞いてみたところ、あの男子生徒とは元々恋人同士だったらしい。

病気の悪化により、存在どころか記憶までも失われてしまったらしい。


そんなこと、ありえるのか。


帰宅途中、昨日の彼女の涙の意味を考えながら足を動かした。

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