Epilogue 彼岸と此岸を結ぶリボン。
花畑は風の色でできていた。
金と白の光が波のようにそよぎ、地上のどこよりも静かな泉が、その真ん中に眠っている。
シアは王子の隣で、真っ白なクロスの上に並んだカップを覗きこんだ。泡のように湧く香りが、海にはない優しい甘さで胸の奥をくすぐる。
「ねえ、ねね、ねぇ!王子さま。陸のお茶って、海の泡みたいに光るのね!」
「泡はすぐ消えるけど、これは残るよ。温もりと一緒に」
王子は微笑んで、手のひらの上の包みを差し出した。薄桃色のリボンが陽に透けて、まるで淡い潮のように揺れる。
「――君に、贈りたい。海と陸を、結ぶ印として」
シアは目を丸くして、そっとそれを受け取った。指先が触れるたび、まるで潮の流れと風の流れがひとつに溶けあうようだった。
「これ……海の中でも、ほどけないかな?」
「ほどけないよ。どんな波が来ても、ほどけないように結んだからね」
王子はリボンの端を持ち、シアの栗色の髪にゆるやかに結びつけた。花びらが風に舞い、空と海のあいだを漂う。
「海の子が陸の風をまとうなんて、ふしぎだな」
「ふしぎって、きっと“好き”の遠い親戚なのね」
シアの言葉に、王子は笑った。
遠くの雲がゆっくり流れていく。泉に映る二人の姿は、陽の粒と泡の粒が溶けあったように揺れている。
シアは空を見上げ、ふっと息を吸った。
「ウィンにも見せてあげたいな。多分ウィンならこう言うよ!
『ふふーん、似合ってなくもないね。』
って。」
「いつか、君の海にも行けたらいいな」
「その時は、泡のお茶をいれてあげる〜!」
笑い声が風に溶け、泉の面がやわらかく波立った。リボンが光を受けてきらりと揺れ、まるで海と陸とが、その一本の帯でほんとうに結ばれているようだった。
王子はふと、カップの縁を指でなぞった。
「そういえば――君がくれた手紙に、
『カミサマさまは陸の上にいる』
って書いてあっただろう?」
「うん。間違ってた?」
「いや。むしろ、それでわかったんだ。君は陸の人じゃないって。神様は、陸の上じゃなくて、もっともっと上の、天の上にいるからね」
「まだ上があるの〜!?」
シアは目を瞬かせ、泉の向こうの空を見上げた。
「……じゃあ、わたしたちも、天の上に行けるかな」
「きっと行けるさ」
王子はそう言って、シアの手を取った。
「おじいちゃんとおばあちゃんになっても、このリボンみたいに手を結んでいれば――きっと、天の上でも一緒だよ」
これにて完結です。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
『堕胎告知』は引き続き更新していますので、もし宜しければそちらもお願い致します。
1章2章完結、3章更新中のダークファンタジーです。
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