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【短編】しんあいなるあなたへ。★全話挿絵あり!  作者: ADPh.D.


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6/7

Happy End 親愛なるあなた達へ。

 海は、この夜も静かだった。

 水面は鏡のように穏やかで、星が一つ一つ、そこへ落ちていくように瞬いている。


 シアは入り江の岩の上に座り、胸の前で手を組んだ。潮の香りに、少しだけ不安の匂いが混じっている。


「ねぇウィン……ほんとに、来ると思う?」

 

「さあね。ヒトってのは、約束を守ることもあれば、波みたいに消えることもある」

 

「むずかしいね、ヒトって」

 

「まあ、君よりは単純じゃないさ」

 

「むーっまたイジワルいう!」


 頬をふくらませて、尾鰭でぱしゃんと水をはねさせる。そのたびに泡が立ち、星の破片みたいに砕けた。


「でも……ちゃんと話したいの」

 

「ほんとに、正体を明かす気なんだね」

 

「うん。だって、嘘のまま“あい?”してるの、苦しいもん」


 ウィンはため息をついた。

 それでも、止めはしなかった。


「……ヒトに恋をするなんて、愚かだね」

 

「“愚か”って、きれいな言葉?」

 

「ちがうよ。“どうしようもなく愛しい”って意味さ」

 

「ふふ、それなら、いいや」


 波がそっと岩を撫でた。

 遠くの水平線に、白い帆が見える。


「――来た、のかな」


 舟の影が、月明かりのなかに近づいてくる。

 揺らめく灯りの中、ひとりの青年が立っていた。濃紺のローブを羽織り、海風に金色の髪を揺らして。その瞳は、あの嵐の夜の色を覚えていた。


「……あなたが、あの手紙の――」


 王子の声は、まるで祈りのように柔らかかった。


「……ごめんなさい」


 シアは小さく俯いた。

 波が、彼女の指先を濡らす。


「わたし、修道女なんかじゃないの。

 海の底の、人魚なの」


 王子は、静かに(まぶた)を伏せた。

 その顔に、驚きも恐れもなかった。


「――やっぱり、そうだったんだ」

 

「え?」

 

「最初の手紙の返事を見たときから、なんとなく気づいていた。

 ――文の香りが、潮の匂いがしたんだ。」


 シアは、(ほう)けたように王子を見つめた。


「それでも……あなたが書いてくれた言葉は、

 この世界のどんな修道女の祈りよりも、美しかった。」


「……でも、わたし、嘘をついてたの」

 

「嘘なんかじゃない。君の書いた手紙は、すべてほんとうの気持ちだったろう?

 ――インクの海をあなたが泳いでいたよ?」


 シアの瞳に、涙が浮かんだ。

 それは海よりも澄んで、やわらかく光っていた。


「好き……です。

 たとえ、陸では息ができなくても、

 あなたのそばにいたいって思いました」


 王子は微笑み、海へ一歩踏み出した。

 冷たい波が、彼の膝を包む。


「――なら、僕が息を止めてあげよう。」


 次の瞬間、彼は彼女に口づけを1つ落とした。

 シアの髪が夜空に散り、尾鰭が月をはじく。

 そして王子は彼女を抱き上げる。


「わぁっ……!」

 

「やっぱり軽いな。海のひとだ」

 

「王子さま……くるしいでしょ?」

 

「平気だよ。君が笑ってくれるなら」


 シアは胸の奥で、海が鳴る音を聞いた。

 それは、彼の心臓の鼓動と重なっていた。


「ねぇウィン、聞こえる?」

 

(聞こえるさ。……まったく、もう知らないからね)


 風がやさしく吹いた。

 泡のようなキスが、二人のあいだに落ちた。


 ――それは、海と陸の境で結ばれた、

 一通の恋文の果て。


 彼の腕の中で、シアは笑った。

 世界のすべてが、波の音に溶けていった。


 ウィンは笑っていた。

 1人深海に沈み戻りながら――


 ……そうしていつか王子様とシアに向けて手紙を書こうと思っていた。

 

 「けど書き出しはどうしよう?

 そうだ……そうだな、こんなのはどうだろう?書き出しは――


 ――“親愛なるあなた達へ。”」


挿絵(By みてみん)

もうちょっとだけ続くんじゃ。

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