零れ落ちて拾い上げる
「......ホント、自由気ままというか、自分勝手というか......」
「えー? そうじゃないと面白くないたたたた!」
「ジッとしなよ。また怪我をしちゃってさぁ」
「ジッとするなんて言葉は、私の辞書にない!」
「自信満々に言わない」
「それならさ」
スルリと腕の中に潜り込んで、自分の顔を見上げるようにして彼女が言ってくる。
「私の事、捕まえておいてよ。どこにも逃げ出さないようにさ!」
「勝手に離れていく癖に何を言ってるんだか......」
「まっ、少しは考えておいてよ。私も君になら捕まってあげるから」
ニシシと笑う彼女の顔をこれからも忘れることは無いだろう。
「結局離れていったんだものな」
彼女が事故で亡くなってから、もう5年は経つ。
所詮は恋人未満の関係。
甘酸っぱい空気は時々あったと思うが、その程度の関係......だったはずだ。
これも自分に勇気が無かったからなのか、あるいは繋ぎ止められなかったからなのか。
「......また来るよ」
雨が振る中を再び歩いていく。
人の気配がない墓地はどこか重苦しく、死者と一方的に対話するには丁度いいと、この5年で実感していた。
「ん?」
視線を感じ辺りを見渡すと、少し離れた場所から子猫がこちらをジッと見ていた。
猫はあまり好きではなかったが、彼女が好きだった為何時しか好きになっていた自分がいた。
少し近づいてみたが、子猫は決して自分から離れることなくただそこに佇んでいた。
近くでしゃがむと少しだけ警戒するように、こちらに近づいてきた。
思わず手をかざすと、子猫は少しだけ驚いた素振りを見せたものの、離れることはなかった。
小さくて柔らかく、そして暖かい感触。
雨が降っているにも関わらずあまり濡れていないのはどこかで雨宿りをしていたのだろう。
首輪は......特にない。
恐らく野良猫なのだろう。
「......お前も、1人なのか?」
自分の問いに子猫は答えずただされるがままだった。
今住んでいる場所は確か、ペットを飼ってもいい物件だったはずだ。
「一緒に来るか?」
再び問い掛けるが、特に返事はない。
抱き抱えてもし逃げるなら諦めよう。
そう思って、抱き上げるとジッとこちらを見上げるようにして見つめていた。
その顔が忘れられない彼女とそっくりで、少し強く抱き締めた。
代わりにするつもりは無い。
が、何かの縁だと思って大事にしよう。
今度こそ、離さないように。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
ふと思いついて書き上げ、1000文字以下で頑張ってみたかった作品になります。




