94話 リフレクの威力
----(大島視点)----
亀のような体勢の清みんが勢いよく顔をあげた。
「あ、あのさ! リフレクどうかな?」
「リフレクを? しかし、この密着状態で飛ばすスペースは無いのでは……」
「だってさ、ここ迷宮の地下でしょ? 密閉された謎の空間じゃないなら、どこかに通路の先の空間はあるはず」
「なるほど、確かにそのとおりです」
「どれくらいの広さの空間で俺達が魔物に集られているのかわからないが、やってみる価値はある」
確かにそうだ。前後左右上下に囲まれていたせい、ついラッシュの電車のような密閉空間を想像していた。
だがここが密室でないなら、外側のどこかにスペースはあるはずだ。
「しかし班長、飛ばせますかね。かなりの量に付かれてますよ?
「大乃木さん、こんな時こそ、体力リフレクの出番ですよ」
「なにっ? 俺のリフレクが火を吹く時がきたか」
「いえ、リフレクは火を吹きません。が、リフレクションは反射です、反射。俺の防御ごしに大乃木パンチで周りのヤツらを刺激してください」
「なるほど、向こうの攻撃が激しければこちらの反射も威力が増す、と」
「そうです。桂さん、七海倉さんもお願いします」
「よし。大島、左右の壁防御をなるべく薄くしてくれ。清見君、思いっきりリフレクションを出してほしい」
「清みん、チョンな。リフレクチョン。力を込めて連発頼む。久瀬さんもリフレクションを試してみてください」
「ん?」
「ほら、防御とリフレクがセットじゃないかって話。清みんの仏間では仏間の謎の防御で清みんしか使えませんでしたが……」
「大島防御なら!」
久瀬さんの表情が晴れていく。
「久瀬さんも殴ってからですよ? 清みんもそこらを……清みんは素手で殴るのは無理だからこれで」
俺は持っていたマップを折りたたんでハリセンを作った。少し小さめだが、直接魔物と対峙し合うわけではない。壁越しにペチペチと刺激をして怒らせればいいのだ。
それを渡した。
皆が配置につく。俺は左右の壁を薄く、透明にした。びっしり付いた魔物の腹が見えて清みんはびくびくっと下がってきた。
「よし。威嚇開始ぃ!」
久瀬さんの掛け声で壁を叩き始める。くっつき止まっていた魔虫らがうぞうぞと動き出す。口を開きキバで防御壁に噛みつこうとしている。
「全員、リフレク開始!」
「リフレクーショーン! リフレクション!リフレクション!」
「リーフーレークーショオオオン! おらぁ!リフレクション!」
「どすこいリフレクション! どすこいリフレクション!」
「り、りり、ぎゃああ、虫ぃ! リフレクチョン! あっちいけばか!リフレクチョン!」
おっ?防御壁に付いていた魔虫が、たぶん飛んだ? すぐに他の魔虫が張り付くのでどのくらい飛んでいるのかはわからない。
しかし、動きはある。ラッシュの電車内を掻き混ぜている感じか。
「リフレクション! リフレクション!」
「リフレクションー!」
桂さん達も壁を叩いて刺激している。が、やはりリフレクの詠唱が影響をしているのは清みんと久瀬さんのふたりか。
リフレクションは『気力スキル』から派生した技だな。
「リフレクション!リフレクション!」
「リフレクション!」
「リフレクちょーん」
「おらおら、もっとこいや!リフレクるぞ」
皆汗だくになりながら防御壁の内側から魔物を刺激しつつ叫んでいる。いつの間に素手殴りではなく、皆ハリセンを作りそれ殴っている。清みんに至っては変なダンスを踊り出していた。威嚇か?
俺の防御内がカオス……。いや、ここは俺も参加すべきだよな。俺の防御だしな。
よし。うん、ゴホ。
「オオシマリフレクション!」(←何気に命名している)
バリバリバリボボボボッ、ドブハッ!
一瞬、防御の周りの魔物が全て飛んだ。直ぐに別の魔物に囲まれた。
防御内に沈黙が訪れた。
久瀬さんは清みんを見た。清みんは首をブンブンと横に振り俺を指差した。久瀬さんが俺を見つめる。俺は何も語らずにとりあえず頷いておいた。
「よし、右前方に空間を確認した。全員、方向を右前方に」
俺は右斜をむく。俺の両隣に全員が並ぶ。
「全員、前方を刺激、大島がリフレクを放つと同時に防御壁を押して進むぞ。地下通路の壁に到着するまで何度か繰り返す」
4回ほど繰り返すとどうやら魔物溜まりから抜け出せたようだ。
足の下に地面がある。魔物はそこら中にいるが、少なとも俺達はようやく迷宮の洞窟通路に出る事ができた。
洞窟の壁を背にしてひと息ついた。
穴に落ちるとは思わなかったので荷物など持ってきていない。食糧どころか水さえも無い。
だが清みんがポケットを探り飴を取り出し皆に配っていた。詠唱しまくりで喉が渇れまくっていたので助かった。
「清見君、魔法のポケットですか?」
「そうなのかな。いつもいつの間にか入ってるんだよね」
ああ、看護師長やママさん達だな。清みんを見つけるたびに清みんのポケットにオヤツを突っ込んでいるのを見かける。
清みんはリュックからポヨンさんらも出して袋から出した飴をあげていた。
「さて、螺旋階段を見つけて上に出るぞ」
「螺旋階段があっちでない事を祈りますね」
七海倉さん言った『あっち』とは、今俺たちが出てきた魔物溜まりのある方だ。
俺の防御でそっち側を塞いでいる。
「こっちは大丈夫なんですかね?」
「わからんが少なくともさっきのとこよりは少ないだろうよ」
「あの魔物達……遺跡の天井を破り地下3あたりまで落ちてきたんですかね」
「そうだろうな。ここは踏破済み迷宮だ。スタンピードで魔物が入り込むとしたら10階層の通路だが、そこは住民が避難をしてきたので魔物が居なかった事は証明済みだ」
「それ以外となると、やはり地上から天井をぶち抜いて落ちてきたってか」
「だろうな。そこに俺達も落ちた、と」
清みんがうへぇと嫌そうな表情になった。
「ひとりで落ちなくてよかった……。大島氏と一緒でよかったぁ」
「そうだよなぁ」
「踏破済み迷宮だ。螺旋階段は繋がっているはずだ。この通路の先に階段があれば上に戻れる」
「階段が、もしもさっきの所の先だったら?」
「階段への道は一本ではない。地下1階ならば一本道だったがな、それ以外の階層は階段までの行き方は数通りあるはずだ」
「それって、魔物達が階段に先にたどり着いている可能性もあるんですよね?」
「あるだろうな。居たら倒すしか無い」
なまじ踏破済み迷宮だったのが仇になるな。踏破済みは螺旋階段が出っぱなしだ。それは、魔物が簡単に階層を移動できてしまう。
が、何か引っかかった。
「あ、でもさ、魔物は階段を登れないんじゃない?」
「何でです? 清見君」
「ほら、4年前に居た遺跡迷宮、あそこに居た魔物、確か上にも下にも行けずに何百年か生きたんでしょ?」
「ああ、そうだった。大乃木は知らんか。ギルドが自衛隊だった時代だ。この世界で最初に身を寄せていた遺跡だが、地下1階層に避難民達が居た。そこの地下2階層に魔物が居たんだよ」
「そうでしたね。あの時も俺や清みんが穴に落ちたんだった」
「俺らよく落ちるね」
「けど、あそこに居た魔物は上にも下にも移動していなかった」
「そう言えば、踏破済み迷宮には一定のシールドが存在するとデスエのギルドで聞きましたよ」
「ああ、なんか、落ちた後にシールドが張られて地上に戻れなくなったんじゃないかと」
「スタンピードでさ、シールドがオープンされちゃうとか。シールドが戻るのにどれくらい時間がかかるんだろう……」
清みん、怖い事言うな。って事は今は魔物達も階段を登り放題か。




