89話 リフレクション
----(大島視点)----
仏間の屋根に魔物が大量に集っている。久瀬さん達が俺に寄ってくる。仏間が停まったら一旦外に出て魔物を掃討する。
「清見君、そこらで停めてくれ」
久瀬さんに言われ清みんは仏間を停止した。
清みんを残した俺たちは仏間から外へと出た。魔物に向かい構えたが、仏間の屋根に重なり合って載っていた大小の魔物達は上から降りてこない。
「大島、防御を透明にしてくれ」
今、俺らを包む防御を地面に似せた迷彩柄にしてあった。魔物達が俺らを認識していないのか。
「透明にしたら一斉に襲ってきませんかね」
「あの量が一斉にかかってきたら流石に捌ききれないぞ?」
物理攻撃が強ランクの桂さんと七海倉さんが久瀬さんを窺う。
「大丈夫だろう。やつらは目視で敵を確認してはいないはずだ。全員気配を消しておけ」
「「「はい」」」
気配を殺す……清みんが以前に言ってたな。地面になりきるとかなんとか。そう言えば元自衛隊でも大乃木さんは陸自だったと言ってた。地面と同化するのはお手のものかもな。だが、俺には少し難しい。まだフンガの方がやりやすい。
力を入れるのは楽だが力を抜くのは意外と難しいな。
「来ます」
七海倉さんが小声で囁いた。
俺の気配を察知されたか。そう思ったが違ったようだ。
「押されて落ちて来ますね」
仏間の上を見ると重なり合っててんこ盛りの魔物だが、何気に互いにいがみ合っている。噛みついたり蹴り合ったりで、屋根から蹴り出され魔物が結構いる。
仏間を引いていたウリ坊達はひと塊りになっている。いつもは魔虫やちょっとした魔獣に対しても気の強い態度なのだが、流石にあの数は多すぎるのだろう。
ウリ坊が襲われないかと清みんがハラハラとしているのが見えた。
「桂、近くまで引きつけてから、殺れ」
「了解。大島、合図を出したら俺を出してくれ」
「わかりました」
それにしても屋根から落とされた魔物は、また屋根に戻るでもなく、ウリ坊に寄って行くでもない。
今こっちに向かって来ている魔物もたまたま進路がこっちだった感じだ。俺たちを狙っている感はない。
もちろん、大騒ぎをすれば気が付かれて一斉に襲ってくるだろう。しかし、たまたま近くに来たヤツだけを討伐していたのでは時間がかかりすぎる。
ウリ坊を心配をした清みんが仏間からはみ出るのではと、こっちがハラハラするぞ?
「ヤツら、なんで仏間から降りないんでしょうね」
「わからん」
久瀬さんが俺を見たが俺にもわからん。いや、俺の方がわからないからな。アンタらの方がギルドで情報を持っているだろう。
「大丈夫かな、あれ……」
大乃木さんが仏間を指差した。
ああ、清みん、そんなに障子から乗り出すなよ!
「出る!」
桂さんの声に我に返り、桂さんを防御から『アウト』にした。静かに飛び出した桂さんが鈍器で魔虫を叩き潰した。近くにいた別の魔虫が気がつきこちらへと進路変えた。
桂さんが踵を返したのを見て『イン』を唱えた。
桂さんが飛び込んだのと同時に全員で息を止め気配を消した。
俺には息を止める事しか出来ない。気配をどうやったら消せるのか、考えれば考えるほどわからなかくなる。
「ヤバイぞ……仏間」
大乃木さんの小声に、皆が目だけを仏間に向けた。
清みんがウリ坊を気にして今にも開け放したガラス障子から身体がはみ出しそう、その上部あたりの魔物が触手だか腕だかを伸ばして来ているのが目に入った。
「一旦仏間へ戻りましょう!」
「仏間へ戻るぞ! 大島に密集隊形!」
「「「はい!」」」
俺たちは魔物に気が付かれるのも気にせずに仏間へと走り込んだ。俺たちの勢いに驚いた清みんが畳の上を転がった。
俺は急いで仏間とウリ坊を囲む大きさの防御を展開した。
俺たちの存在に完全に気がついた魔物達が仏間の上で激しく動きだしていた。
「大島! 防御を変形させて魔物を落とせないか!」
「やってみます」
俺はまず防御を丸型にしてみた。しかし思ったほど魔物は落ちていかなかった。次に、防御の天井を尖った状態にして突き上げてみた。多少の魔物は滑り落ちていった。だが、どうやっているのかやつら、俺の防御壁にへばりついている。
「何故落ちない!」
久瀬さんの焦った声がした。俺も内心かなり焦っている。
「粘り気のある手足なのかな……。それとも粘着……気質?体質?」
どちらも嫌だな。
「なんかベタベタしてそう。大島氏、防御壁って洗えるの?」
知らん。聞くな。洗えるものなら俺は洗うぞ。(涙目)
「大島、何度か繰り返してくれ」
久瀬さんの指示で俺は防御の天井部分を一旦平にしてから再度勢いよく尖らせて突き出した。魔物は意地でも離すもんかとへばりついている。
ふと、思い出した。
清みんのリフレクション。
何で忘れていたんだ。そうだよ、清みんの新わざ(っぽい何か)。確か魔物を吹っ飛ばしていたよな。
「清みん清みん! あれだ、あれをやってくれ!」
「えっ?えっ? どれ? あれってどれ?」
「ほら、あのリフレクションだよ! 魔物を吹き飛ばしただろ、リフレクション!」
「え……、ああ。うん。あ、リフレク……ションね? うん、わかった」
不思議そうな顔の久瀬さん達を横に、清みんが両手を振り上げなから叫んだ。
「リフレクー……ション?」
何も起こらない。
「疑問符じゃなく、ちゃんとハッキリ発音してみてくれ」
「は、はいー。リクレク……ション!」
奇跡は起こらない。いや、詠唱に間があるのがいけないんじゃないか?
「間を空けずにもう一度!」
「リフレク……ション、リフレクション!リフレクション!」
ダメ……か。あれは、あの時のアレは本当にただ一度の奇跡だったのか。
俺は項垂れそうになったが、ふと思い浮かぶ。
「清みん、ションじゃなくて……その、チョンで頼む」
「え、あ、うん。リフレク……チョォーン!」
ダバババババ
仏間に集っていた魔物達が一斉に四方へと飛んでいった。仏間の全員が一瞬呆気にとらわれた。清みん本人もポカンとしていた。
「全員、出るぞ! 大島、防御を頼む。清見君はここで待機」
久瀬さんの指示で我に返り皆が動き始める。俺の防御を仏間の大きさからチームの大きさへと小ぶりに変化させた。
さっきまで仏間に集っていた大量の魔物は結構な広さに飛び散っていた。魔物達も呆気にとられたのか、その場で動かずにいるのが見えた。
「近場から片付けていくぞ! 大島ブルドーザーを展開、引き潰せ。桂、七海倉、息があるヤツに片っ端からトドメを入れろ! 大乃木と俺のスライムで残った始末をつけていく。清見君、スライムを出せるか?」
清みんは自分に声をかけられた事に気が付かず黙っていたが、皆の視線が集中した事で気がついた。
「えと、あの?」
「ポヨンさんらを出してもらるだろうか?」
「あ、はい。はい、ええと。ポヨン君、ふるふるさん、パミュンちゃん、え?パミュンちゃんは残る? わかった。じゃあプルン君。外で……ええと、久瀬さん、ポヨン君達は何を?」
「今飛んでいったやつらを適当に片付けてくれ」
「わかりました。ポヨン君、あの辺に転がっているやつ、食べちゃって」
早かった。一面に散らばった魔物達をポヨン氏達がモッモッと食べて片付けていく。
俺たちが、仏間を中心に飛び散った魔物の四分の一ほどを片付けている間に、ポヨン氏らは残りを片付けていた。




