81話 打って出る
----(大島視点)----
「その若い迷宮からの湧きはイマイチな上に普段からコンスタントに処理していた。もしも氾濫が起こるとしても、たぶん、ショボイと思う!」
確かにそうかもしれない。迷宮が氾濫を起こす理由は解明されていない。そもそも今回のアレが『氾濫』かどうかも知らない。
だが、清みんの言う事には一理あるんじゃないかと、心の奥で納得している自分がいる。
普段から大して湧かない若い迷宮に、あれほどの魔物を排出出来るものか。
そう思いつつも一抹の不安はある。もしも、何か特別な力が働いて氾濫を起こしているとしたら?
「この世界がゲームだとしたらシステムで発生させているスタンピードかも知れない。氾濫イベントかも。ゲームシステムのイベントならどこの迷宮でも同じくらい大量に湧くかも。でも、俺、この世界がゲームとは思えないんだよね。だってさ、地味なんだよ。ゲームだとしたら何系のゲームなんだよ!」
清みんが立ち上がって叫んだ。いや、本人は叫んだつもりだろうが、ちょっと大きめの愚痴を吐いた程度だ。
「ゲームってだいたい戦闘系か生産系に分かれるじゃん。俺の修繕って何系?どっち? 生産してないけど、戦闘はもっとしていないよね?……これ、どう考えても現実系だよね。ゲームだとしたら現実系ゲーム」
現実系ゲーム……、それは、ゲームなのか?現実なのか?
それと清みんは修繕ではなく『回復』だからな。本来なら戦闘系ゲームでは?と思う。言わないでおくが。
「なるほど。つまりこの世界がシステムチックに氾濫を起こしているのではなく、現実として氾濫が起きている場合、あっちの迷宮の氾濫が起こる確率は限りなく低いと」
今ここに居るギルド員達も、なるほど言われてみれば的な顔つきになった。
「ううん。氾濫は起こると思う。けど、迷宮によって規模は異なる。そこは小さいと思う」
「ならば、デスエ近くの迷宮も、あそこはそこそこの大きさはあるが普段から活用している。あっちも普段から出し尽くしているんじゃないか?」
「デスエ近くのとこがそこそこ大きいなら、普段行かない階層とか、溜まってるんじゃない?」
「なるほど、それなりに出るかもしれないのか」
「うん。全く手付かずで溜めまくってる迷宮よりはマシだろうけど。あ、俺の勝手な想像です」
どうしてこのタイミングなのか、何故迷宮から魔物が一斉に湧き出すのか、本当にあの大量の魔物は迷宮から湧き出したのか?
考えると解らない事だらけであるが、結局やる事はひとつ。そして清みんの話で、進む方向が見えてきた。
「打って出ませんか?」
俺はそこに居た皆に向かって言った。清みんを除く全員がしっかりと首を縦に振った。清みんは『何で?』と言う顔つきでオロオロしていた。こっちが何でだぞ?そのつもりで言ったんじゃないのか。
「デスエ(方面の迷宮)へ?」
「いえ。まずは小さい方を片付けましょう。それからそちらへ」
「なるほど」
「踏破しちまうか」
「いや、それは後々に。今はボス部屋のコア残しで魔物を全滅で」
「えっ、え……乗り物ないし徒歩だと……」
清みんが気にしていたのは迷宮までの移動か。
愚図る清みんを体格の良いギルド員が担ぎ上げた。連絡係をひとり、そこに残して全員で足早に小さい迷宮への道を移動する。
到着した迷宮、そこの入口に居るはずのギルド員が見当たらない。
「入ったんでしょうか」
「おそらく氾濫が発生したのに気がついたか」
俺たちも中へと入る。ここが若い迷宮と言われているのは、この迷宮はまだ地上まで続いていないからだ。
便宜上俺たちが使う通路を『10階層』と呼んでいるが、この迷宮はここ10階層を中心に、上に3階、下に3階の層が作られている段階である。迷宮は誰がどうやってつくっているのかは知られていない。
「ボス部屋は7階と13階。コアは13階にあります」
気がつくと清みんが俺の腕に張り付いている。大丈夫だぞ? 昔と違い今は結構広い防御ボックスだからな。
「出るのも雑魚ばかりですよ。デスエからも冒険者に成り立ての子供が訓練で来るそうだし。ニッポンからも初心者の訓練で使っています」
「なんだ、そっか。あ、でも何系? 虫系だったら嫌だな」
「鼠や蛇ですかね。それも地球サイズに近いです」
清みんが、ネズミはいいけど蛇はぁとかなんとかぶつぶつ言っていた。
「どうします? 上と下、どちらから攻めますか?」
まず下から攻めるか、そんな話をしていたら通路の奥から数人の人が出てきた。
ニッポン街のギルドの職員だ。
やはり氾濫が起きたようで普段は魔物が出現しない10階層の通路にいくらか出てきたそうだ。
そこでそれを処理するために奥へと進んだそうだ。
「下の13階まで掃除はしました。ボスも。一旦入口を確認して上を攻めるつもりだったんですが」
「コアは残してありますか?」
「はい。悩みましたがギルドに意向を聞いてからと思いました」
「なら、一緒に上を片付けましょう。氾濫がどの程度の間隔で起こるか不明ですがとりあえず、一度綺麗すれば時間は稼げる」
「清みんのポヨンさんらも居るし時間はかからないと思いますよ」
「で、でも……通路の移動に時間がかかるんじゃ」
「大丈夫です。この迷宮はまだ中もそこまで広くないんです」
あっという間に清みんはまた担がれた。リュックから出されたポヨンさんらが通路内を無双していく。
普段から地上の森を闊歩するポヨンさんらにしたら、若い迷宮のしかも小物、雑魚中の雑魚だ。食べもしない。生きている迷宮なので放っておいてもそのうち吸収される。
地下9、8、7階をあっという間に綺麗にした。
元からそこを守っていたギルド員達は残して俺らは、デスエとの分かれ道へ戻った。
もちろん、デスエ近くの迷宮へ向かう。
「どんどん打って出ましょう。後手に回る必要はない。魔物が出る、俺らはそれを倒す、ただそれだけです」




