77話 ただいま
----(大島視点)----
魔物の尻を追いかける感じで俺たちはニッポン方面へと移動していた。
「まさかこんなに上手くいくとは」
「本当ですね。そろそろ目的地が見えてくる……、いや、見えてはこないか。邪魔な物体が多すぎる」
「少し距離をとりましょうか」
バスを運転する柴田美花さんの横には方向の指示を出しているギルド員達が運転席の前のウインドウに頭をつけている。
俺のボックス防御を丸くして濃い色をつけた。運転席の前方にあたる部分のみ、外が見えるように窓の色を薄くしてある。
これはパッシブ防御なのでラクだ。パッシブをセットした後はもう何もしなくて済む。
『箱型なのに丸もいけるんだ? どうぞ』
河田さんが無線機のマイクを俺に手渡してきた。何で仏間と無線で連絡を?
「スピードを落とす旨をマックと仏間へ伝えました」
うん? それはわかったが、何故俺に渡す?
『どうぞ、どうぞ?』
清みんの謎の催促が無線機からしてくる。無線機からさっき聞こえた独り言のようなアレは、質問か?
箱なのに丸がどうとか……。そもそも丸推しは清みんだぞ?
『見た目が丸でも底は平らです。どうぞ』
『そうなんだ。どうぞ』
『どうぞと言われても、どうぞ?』
『こっちも困ります、どうぞ』
まさか、用事はそれだけなのか?
『こっちも困る、どうぞ?』
『えー……これ、終わりにするタイミングってどうするのー』
こっちに話しかけたのではなく、仏間にいるギルド員に清みんが叫んでいるのが聞こえた。
そういや無線機なんて触ったことがなかったからルールがよくわからんな。
俺もマイクを振りながら河田さんを見る。
「以上で切ってください」
『以上』 ブツリ。
有無を言わさず無線を終了した。
バスがスピードを落としたからか、前にあった魔物の壁から少しずつ離れていく。
振り返りこちらへ飛んでくるやつもいたが無視だ。
「このままこの速度を維持します。そろそろニッポンの地上部に到着するはずです」
目の前の壁が無くなると割と遠くまで見えるようになった。
「あの黒い小山……、あのあたりかと思われます」
「やはり地上は第二波に襲われていたか」
俺たちはスピードを緩やかに落としていき、ニッポン街の地上部、空間建物が集まっていたあたりが目視出来る場所で停止した。
第二波、スタンピードの壁はそのままニッポン街の真上を通り過ぎたが、やはり建物に集った魔物はそのまま残されて小山になっていた。
「二波の壁がある程度離れたら、あの黒い小山を処理しましょう」
さほど待たずに波が去り、残された魔物をスライムやグリズリー達に処理して貰った。
病院や機体などの空間スキルの建物は問題なかった。しかし最近建てた諸々の物は無惨な残骸になっていた。
地上から迷宮へ入る穴も、多くの魔物に踏まれ地下1階層の通路の途中までは地面が崩れて通れなくなっていた。
だが、ギルドが幾つかの別口通路を迷宮に造っていた。
生きている迷宮は壁を削って通路を弄るのは難しい。魔物のリポップの際に、亡き骸を吸収しつつ壁や天井が変化するからだ。
しかし踏破済み迷宮はいくらでも弄ることが可能だ。地下10階層にニッポン街が造れたのも、それだ。
つまり、生きている迷宮は天井が崩れても一定時間後には元に戻る。しかし踏破済みは崩れたらそのままだ。こちらが自力で修復するしかない。
そして今、俺たちが暮らしていたニッポン街がある踏破済み迷宮、その地上にある入り口から地下1階の螺旋階段へと続く通路が崩落していた。
螺旋階段まで辿り着けないと、マックから連れてきた避難民がニッポン街へ行けない。
「入れないねぇ」
いつの間にか横にはポヨン氏を抱えた清みんが立っていた。
「H3番、H8番無事ですっ」
「H1、H2崩落」
「M5番大型入れます」
瓦礫でガタガタの足元をものともせず、周りに散っていた河田さん達が叫びながら戻ってくる。
「8番、確認後問題がなければそこから避難民を階段へ誘導してくれ。マック、バス、仏間は病院横に。テイム魔獣は5番から入れるぞ」
「M6番も無事です。グリズリーは5番では狭過ぎます」
「ではグリズリーのみ6番から、それ以外は5番から入れろ」
「清見君、ウリ坊達をこっちへ」
ウリ坊を引いた清みんがヨレヨレと瓦礫を越えながら連れて行かれた。……ウリ坊を引いた清みんではなく、ウリ坊に引かれた清みんが瓦礫の山の向こうへと消えていった。




