76話 急げ
----(大島視点)----
俺たちは準備万端でスタンピード第二波をやり過ごす事に成功した。
魔物達はドガドガと音立てて俺たちの頭上を走り抜けていった。
バスは窓にカーテンがしてあり、車内は消灯されて小さな灯りだけが点けられていた。
狭い空間に親と密着して布団に包まった子供達は怖がる事もなく、騒音や振動も気にせず寝ている子も居た。
外を警戒していたギルド員の合図に、関係者達は起き上がる。
「全員配置に付け、ニッポンへ向けて出発する」
俺は防御をまたスライム型へと戻した。ただし、清みんからの進言で、威嚇しているスライムではない。
「出来れば丸っと、それでスタンピードのしんがりにしれっと加わってついて行くとかどう?」
「丸くなると面積は拡げられないぞ?」
「うん。子供や避難民がいるバスが包まれればオッケ。マックと仏間はその後ろから、成り切りモンスターで」
「なりきりモンスター? 何ですかそれ」
「いや、なんかテキトーに、魔物気分で着いていく?みたいな?」
「何ですか、それ……」
「いや、どうせ屋根の上に魔物が乗っかってくるでしょ? だからそのまま乗せておけば全体的な魔物に見えないかな、って」
『見えないだろ』
たぶん、皆、心の中で突っ込んでいたと思う。
「ま、まぁ、確かに。屋根に魔物を乗せて移動する家……、妖怪って感じはしますね」
「でしょでしょ。妖怪座敷わらしがいるなら、妖怪座敷……語呂が悪いな、…………妖怪仏間座敷がいてもいいよね」
この世界の魔物に『妖怪』が理解できるかは別だがな。
「なるほど。マックはどうするか……、妖怪、妖怪……、妖怪真っ暗ー! マックと真っ暗をかけてみました!」
シフトマネジャーさん、真面目か!
俺たちはスタンピードの魔物の大群からある程度の距離を取りつつニッポン方面へと向かった。
進みが遅く置いていかれた魔獣や魔虫が、仏間やマックの上に集っている。
清みんの進言で丸型、しかもツルツルにしたおかげか、こちらに魔物は集らない。たまに乗ってもつるりと落ちていく。清みん、天才か!
ちなみに仏間とマックの上の魔獣は、上にとまっているだけで建物への攻撃はしていないようだ。
たまにグリズリーやウリ坊に攻撃をしようとしたやつが弾き落とされいる。
今は時間がないので聞けないが、どうもアレも清みんの新技らしい。
「4年あそこにいたマックならシフマネさんも出来るんじゃない?」
とか言って何かを伝授したようだ。
マックではシフトマネジャーとバイト青年3人(ひとり社員か?)が進行方向の前面の窓に横に並んで、その新技?を繰り出していた。
仏間を見るとそっちでも清みんが外を覗いては腕を振り回してウリ坊達を守っていた。むむ、知りたいぞ、新技。
ちなみに清みんの技発動の詠唱は『あっち行け!バカ』みたいだ。
----(その頃のニッポン、絹田)----
この世界へ来て5年目、初めてのスタンピードを何とか乗り切った。
ニュータウン浦安に住民を近場の踏破済み迷宮へと避難させた。
僻地1、2の住民は踏破済み迷宮へ、そこから地下道を通り現在はニッポン地下街に避難している。
光が丘パークタウンはスタンピードが向かってくる方角にあった事と近場に迷宮が無かった事で、スタンピード到着前の救助は間に合わないと判断された。個々の空間での避難を切望するのみになった。
スタンピードが通り過ぎ、遠征に出ていた大島達とも連絡が取れた。光が丘で死傷者が出た事は残念でならない。
だが、重傷者も無事病院に運び込まれた。
そう、地上の病院は無事であった。空間スキルの建物は総じて無傷であったが、のちにこちらで建築した建物は、やはり魔物の大群が通り過ぎる際に踏み潰されてしまっていた。
だが、地上で飼っていた魔獣達は無事に避難が出来た。テイム魔獣用の格納場所を地下1階に造ってあったのだ。
デスエに地上の情報は少ないのだが、全く無いわけではない。数年ごとに乾季と雨季が交互に訪れるらしい。現在は乾季だそうだ。どおりで雨が降らない。
が、ごく稀に寒季というのがあり地上が凍りつくと言われているとか。それを考慮して地上のテイム魔獣を地下1階に避難できる場所を建築していた。現在は地下2階にも作製中だった。
スタンピードの後片付けはこれから、という時にデスエに出向していたギルド員から早馬の知らせが来た。
「デスエ直近の迷宮でスタンピードだと?」
「はい、あちらでは現在ギルドが大混乱です」
「どういう事だ? デスエは地上を利用していないだろう? 近場の迷宮が溢れても地下は何ら問題は無いはずだが?」
「それが……スタンピードは地上に溢れるだけではないそうです」
「何だと? まさかっ!」
「はい。10階層の通路からデスエの都市や村へ溢れ出す可能性が高いそうです。そう言った文献が残っているとの事で、ギルドでは今態勢を整えているそうです!」
何という事だ、スタンピードの片付けどころではない。なまじ迷宮と地下で通路を繋げていたのが仇になるとは。
「至急、地上に出ているギルド員達を呼び戻せ! この階層の各方面への通路を一旦塞ぐぞ! 急げ!」
「ギルド長っ!」
指示を出した職員がこの部屋から出ていく前に、別の職員が勢いよく飛び込んできた。
「何だっ! もう通路から魔物が攻めてきたのか! どこの通路だっ!」
「はっ? いえ、スタンピード第二波を確認しましたっ!」
「第二波だとぉ? 地上かっ!」
「はいっ! 一波と同じ方角でしたので第二波と申し上げました!」
「地上の隊員を呼び戻せ! 急げっ! それから通路も塞げ!」
くっそぉ、次から次へと何だ!
この4年を何とか乗り切った、ここに来て魔物の大群のスタンピードだ。地上だけでなく通路もだと?
さらに地上で第二波とは!
「時間との勝負だ! 皆、急げ! 各自の判断で動いてよしっ!」
歩きながらも命令を出していく。ただの自衛隊員であった地球、日本での日々が懐かしい。誰か俺に命令をしてくれ、ギルド長などそもそも俺には向いていないのだ。見えない奥で命令だけしか出来ないとは。いや、俺も最前線に出るぞ!
そう思いながらデスエへ続く通路へ向かうと、そこにはデスエから来ていた冒険者のチームが居た。
「ここは俺らに任せてくれ!」
笑顔を見せる。
住宅街からはスライムを持った女性がふたり、やってきた。
「私達もここの守りに参加しますね。南東の通路口は郁未君ママたちが回っています」
「スライム持ちは通路の入り口を守る冒険者に加わりますね。テイム魔獣を飼っていない人達はいま、率先して住民を11階へ先導しています」
「あ、ちゃんとギルド員さんの指示の元ですよ? 子供や高齢者から下の階に避難させてます」
驚いた。ただ守られていた避難民達が今はここの住人として、各自が自分の判断で動いている。
そういえば住宅街も騒がしくない。
「ちゃんとおかしですから」
「? ちゃんとおかし?」
「押さない、駈けない、喋らない」
「あら? おかしもちって教わったわよ?」
「お菓子餅? えっえっ? お餅って何の略語?」
「押さない 駆けない、喋らない、戻らない、近寄らない」
「あらまー、それは確かにそうね。戻ったり近寄ったりしたら危ないわね。うちの子にも教えなくちゃ」
地下11階へ降りるための螺旋階段へ行く通路へ向かった。そこではギルド員や女性が住民を導いているのが見えた。避難している住民達も落ち着いている。
「はーい、おかしもちですよー。お、か、し、も、ち」
「押さない、駆けない、喋らない、戻らない、近寄らない」
なるほど、皆は黙々と前の人に続いて通路へと進んでいた。俺は壁沿いに一列に進む人々を横目に追い越して通路を急ぐ。
螺旋階段に辿り着く。
住民は下へ、11階へと静かにしかし足速に降りていく。上からはギルド員達が降りてきた。
「ギルド長! テイム魔獣は収納し終わりました。地上の入り口近辺は病院、機体、キッチン、バス、電車の車輌等で囲みました。が、上空からの侵入は防げません」
「入口は塞ぎましたが、土嚢や板なのでいつまで保つか」
「うむ、ごくろうさん。あとは10階層の通路の守護にまわってくれ。第二波到着までの予想時刻は?」
「およそ15分かと」




