71話 光が丘の掃除
----(大島視点)----
「集会所には駐在ギルド員と5名の住民が居た。住民の安否は不明のまま、だそうだ。それから……、ギルド員死傷者2名」
「え……」
「ギリギリまで避難しない住民が襲われたのを庇って1名死亡、もう1名と襲われた住民もかなりの怪我を負った」
最近、ニッポンでは死傷者は出ていなかったのでショックだった。
「そんな……」
「……くそっ! 早くから避難を呼びかけたそうだが、あちこちから外へ見に出て来るやつが途切れず、そうこうしている間に……」
黒い魔物の壁は遠くに見えていた時は進みが遅く見える。だが、近づいた時に初めて解るそのスピード。
住民達は一旦は避難したんだろう。だが気になり外へ見に行く人が増えた。そのため避難を呼びかけるアナウンスをし続けたんだろうが、それが魔物を呼び寄せる事に繋がってしまった。
間近まで来て初めて魔物達の動きの速さに気がついたんだろうが、近場の空間の逃げ込めただろうか?
集会所近くへ逃げて来た住民を助けるために、ギルド員が1名亡くなった。そしてもう1名は大怪我か。
「光が丘の駐在員は何名ですか?」
「3名だ。……いや、3名だった。今は2名、うち1名は重傷者だ」
「逃げ込んだ住民の怪我人はひとりですか? そちらも重傷?」
「腕の骨折がひとり、残り4名は打撲と擦過だな」
このパークタウンに病院か診療所はあったんだろうか? 仮にあったとしてもこの魔物に囲まれた中、そこまで運ぶのは無理か。
「光が丘に病院はない。そこの集会所が診療所も兼ねていたそうだ。病人が出た時はニッポンまで運んでいたそうだ」
「重傷者が1名なら私の車で運べるわ。後部がちょっとキツくなるけど」
けど、他にも重傷者が居るんじゃないか? 集会所以外の空間にも命からがら逃げ込んだ人が居そうだ。しかしこの状態だと確認に行く事も出来ない。
どうする? まずは重傷のギルド員をニッポンへ運ぶか? しかし、そのニッポンが無事がどうかもまだわからない。
「ねぇ、大島スライムで光が丘をひとっ走りしない? 私、料理は得意ではないけどこう見えて掃除は好きなのよ」
長谷川さんが口の端を上げて笑う。……それは、悪役の笑い方………?
「掃除……ですか?」
河田さんが恐る恐る確認したが、わざわざ聞かなくてもわかるぞ。
「うん、掃除。そこら辺のバッチィ黒いゴミ。とりあえずオラオラしてみない?」
ニッコリとだが、有無を言わさない命令と俺たちは受け取った。
「イエス! マム!」
「イエス!」
コクコクコク
俺たちは長谷川さんのバンで一丸となって、いや、いちスライムとなってオラオラオーラを出しまくった。
オラオラオーラ…………清みんあたりが使いそうな言い回しを言ってしまった。(恥)
シートベルトをガッチリ締めて、ミニバンがジェットコースターのように黒い塊をかき分けて行く。
運転手が居るジェットコースターは初めてだ。いや、上下はしないのでジェットコースターではないか。
物凄いスピードでコーナーを曲がる。S字カーブ?何ですか?それ。平面いろは坂ぁぁぁぁ。
「だ、だだだ、だひじょぉぉぶかぁぁ」
河田さんだか宗佐さんだかの後部席からの問いかけに答えるゆとりは、俺にはない。
「ちょっとお! ちゃんとスライムになってよねっ!」
「イエスマムー」
「まー」
「シュラー」
長谷川号の中では、あまりに振り回されてマジにスライムになりそうだった。
「ふぅ。とりあえずこんなところかしら」
停まったのか? 車は停まったのか?……………いや、俺はまだ動いている。地球って本当に回っているんだな。
「ちょっと、集会所に戻ってきたけど? あら?あらあら?」
目が回って気を失うという経験を初めてした。後部席からヨレヨレと降りた河田さんが、リバースしていた。
宗佐さんは地面を這っていた。俺は助手席と合体してしまった身体を動かせずにいる。とりあえず、もう一回気を失っておこう。
気がついたら集会所の中に居た。床で寝ていた。どうも3時間くらい寝てしまっていたようだ。
流石は元自衛隊でもあるギルド員達はキビキビと動いていた。長谷川さんの車で一緒にミキサーにかけられた河田さんや宗佐さんも颯爽と動いていた。俺はまだ膝がガクガクする。
「あれ? バスの……」
バスで待機していたはずのギルド員達も来ていた。
「大島君、目が覚めたか。大丈夫か?」
「大丈夫……では、ないです、が……」
「ああ、光が丘に集っていた魔物の大半が散った。なのでバスを寄せた」
長谷川さんのスライムミニバン掃討作戦が成功したのか。
「完全に散ったわけではない。が、住民の指示と避難は完了した」
掃討作戦といっても倒したわけではない、そこらへ追い払っただけだ。騒げばまた集まってしまう事も住民に伝えたそうだ。
飲料と食糧のある空間への避難、そこから出ない事、そして怪我人の収容。重傷者はバスへと運びこんだそうだ。
「ニッポンへ向かう」
「大島君は長谷川さんのバンへ乗車してくれ。バスも寄せる。スライムで走らせる。出来るだろうか」
あぁ……。パッシブなら問題ないと思う。アクティブで出入りさせながら移動は、ちょっともう無理だ。ブラックどころか燃え尽きて灰色に近いぞ?俺。
「完全に包み込んでパッシブ移動なら、可能です。…………可能ですが、長谷川さん、優しいドライブを希望します!」
少しだけ涙を隠せなかった俺の気持ちをわかってくれたのは河田さんと宗佐さんのふたりだけだった。
長谷川さん、ふふふふーの、その笑いはどっちだ?
パークタウン光が丘を後にした謎スライム……ではなく、俺ら一行。
長谷川さんが運転するミニバン、その後ろをマラミュート達が引くバス、中には重傷者も居る。
ただただニッポンへ向けてまっしぐら。と言いたいところだが、何も無かった荒地と違い、森はそこかしこに残っていた。
多少、木々は倒されて荒れてはいたが、森はそこにある。
ちょっと前までは仏間が作った道があったのだが、それは無くなってしまった。
バスではなかなかに走りづらくなってしまっていた。ミニバンは小回りがきくが大型のバスは難しい。
以前はあった『遠回りになるが安全な道』、森が小さく魔虫も比較的弱かった一帯も、今は魔物スタンピードで押し潰された樹々の合間に大物魔獣がそこかしこに居る場所になっていた。
時々出会う魔虫はマラミュートや桜さん達が処理をしていたが、それもそろそろ満腹のようで、手を出さなくなってきていた。
スタンピードに置いて行かれた魔物は多い。途中に残された歩みの遅い魔虫や魔獣はそこかしこにいる。ただ、群れてはいない。魔物達もお互い腹もだいぶくちたのか、地面の上でジッとしていた。かなり近くを通り過ぎても襲って来なくなった。
「あと少しでニッポン街地上区です」




