67話 スタンピードを追って
----(大島視点)----
スタンピードが地を這い、木々の荒地が一帯を覆いつくしていた。
「走りづらいんですが!」
バスを運転していたドライバーの女性がさっきから怒ったように何度も叫ぶ。
元は観光バスのバスガイドとしてこのバスに乗車していたそうだ。乗客には親子が何組が居たしドライバー(運転歴20年以上)も居たにも関わらず、何故か空間スキルの保持者になっていたそうだ。
普通車の免許は持っていたが大型なぞ勿論運転した事はなかったそうだ。
この世界に来てから、運転手から運転を教わったそうだ。この世界に免許センターはない。運転手及びギルド員のもと、『大型二種』の資格を貰ったそうだ。
今、横を走っている長谷川さん、彼女はミニバンに乗っているが若い頃からの車好きで大型免許も持っているそうだ。
今も十分若いのだが、彼女の言う『若い頃』がいくつなのかは怖いので聞かない。
長谷川さんはトラックを動かしていた事があるそうだがバスも運転出来ると言っていた。「人か荷物かの違いよぉ」だそうだ。が、この世界ではその空間スキルの持ち主にしか動かせないのだ。
俺も普通免許は持っていたが長谷川さんのミニバンを動かそうと思っても、車はエンジンがかからず、うんともすんとも言わない。
ガイドの柴田さん、長谷川さんが美花ちゃんと呼ぶのでギルド員もミカちゃんと呼んでいる。俺にはちょっと難易度が高いので、みかさんどまりである。
みかさんが元から慣れない大型バスの運転な上に、森の残骸に満ちた場所に入ってから、かなり悪戦苦闘している。
タイヤは残骸物に足を取られて思ったように思った方向へ進まないそうだ。
バスに寄せてきたミニバンから長谷川さんが大声で
怒鳴る。
「もっと!もっとアクセルふかして! スピードある方が進みやすいからっ!」
「わ……わかってるんですけど、大きい根っこがあちこちに残ってるからあ!わわわ」
急停車で車内に居たギルド員も俺も前方へ飛んだ。俺の完全防御内なので怪我人は出ていないが、慣性の法則なのか視覚マジックなのか、とにかく俺も含めてバスの通路を転がってしまう。
立ち上がって運転席へと近づいて行くとミニバンがUターンしてバスへと付けてきた。
運転席ではみかさんがハンドルに顔を伏せて息も絶え絶えになっていた。
「少し休憩しましょうか」
ドアを開けて入ってきた長谷川さんがみかさんの肩優しく叩いていた。
「私のバンは小さいから小回りも効くけど、ミカちゃんのは大きいから避けるのは難しいわね」
「そうなんですぅ。もう、誰か運転かわってほしいぃですー」
「うんうん。そうだよね。大型取り立てだもんね」
いや、取り立てうんぬん以前にこんな荒れた森走らせる方がおかしいだろ。俺だって嫌だぞ。
「自分に出来れば代わって差し上げたいです」
ギルド員、元自衛隊だったか、何か凄いのを走らせていたとか聞いたな。
「せめて、マラミュートがミカちゃんの魔獣だったらよかったのにね。引いてる魔獣も他人がテイムした魔物だしねぇ」
「自分も、目がまわるかと思いました」
本来ならバスガイドが座る助手席(若干後ろにある)にいた気力スキル持ちのギルド員もぐったりとしていた。
バスに合わせてマラミュートの進行方向とスピードを操作しないとならないのだ。それはそれでかなり精神疲労するだろう。
スタンピードに少しでも追いつくために、ニッポンへの直線コースを走っているのだが、森の中にあった仏間で引いて作った道はおろか、森さえもくだくだの状態なのだ。
仏間を連れてきた方が良かったか。仏間なら引いているのは清みんのうり坊達だ。
逆にバスをマックと共に残してくれば良かったか。
今更だな。もうここまで来たのだ。このまま行くしかない。
「10分休憩にします。各自トイレを済ませて水分と何か軽く腹に入れてください」
ギルド員の指示で皆がよろよろと動き出す。
「大丈夫? ミカちゃん」
「ふぅ………。大丈夫です。まだやれます」
まだ、か。まだって事はそれなりにキツいとこまで来てるって事だな。
かなりのスピードで走ってきた。そろそろ陽が落ちるはず。夜間はどうするのだろう。
スタンピードは昼夜問わずに進行していそうだ。
「この後あと少し進んだらそこで今夜は止まります。出発は明日の日の出で」
「ご、ごめんなさ、い。私運転が、遅くて」
みかさんが泣き出してしまった。疲れも溜まっていっぱいいっぱいだったんだろう。
ギルド員達がオタオタしている。
「ミカちゃん、ミカちゃんのせいじゃないわよ。皆疲れている。マラミュート達もうちの桜さん達も。少し休まないと。私達がダメになったら他の人を救えないじゃない」
「でも、急がないとニッポンが……」
あー。
「いや、元からあのスタンピードには追いつけない。追いついても俺はそこに突っ込みたくない」
冒険者でありギルドで働いてはいるが、俺はハッキリ言っておく。
「冒険者として、完全防御のスキル持ちとして、助けられる命は助けたい。けどそれは、自分の命と引き換えじゃない。目の前で子供が魔物に食われかかっていたら自分の命と引き換えに突っ込むかもしれないが、絶対に無理な魔物の大群に何を助けるでもなく突っ込む気はない」
顔を上げたみかさんが俺を見た。長谷川さんもギルド員も。
「間違えないで。命を差し出す時は、その命で救いたいものがある時だ。俺たちが生贄になっても日本人全員が救えるわけではない」
「そ、うですね。そうですよ。だから、今日はもうここで休憩のまま休みましょう。続きは明日」
「そうよ! 乗ってるだけの人にはわからないと思うけど、運転って結構疲れるんだからね! ねっ?」
「はい。私、疲れました」
「自分も疲れました! マラミン達も疲れてます!」
うんうん。うん? マラミュートのテイマーのギルド員、今、マラミンとか言ったか? マラミュートの名前か?……安直な。清みんと似た匂いを感じるぞ。
その後は、マラミュートとコアラ達に食事を与えて、建物から放す。近場に居るよう言って聞かせていた。
長谷川さんもバスへ来た。
全員で食事を摂る。元観光バス、しかも割と高級なやつだったので奥はソファーになっているし、各席も広くて思いっきりリクライニングになる。一階の後部は荷物置き場だが、中央にトイレがある。夜間はそのトイレを使用する。一階の前半分にも座席はあるがエコノミー的な感じだ。そして運転手用に寝台が2室。
一階の寝台は長谷川さんとみかさん用に、ギルド員と俺は2階の客席で寝た。
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その頃のマックでは、どこから獲って来たのか、ポヨンさんが狩ってきた魔物、カニの実食で沸いていた。
毛蟹に見えるが蜘蛛である。




