66話 死んだふり
----(清見視点)----
「んーんと、どこから話そうかな。…………長くなっても、いい?」
「はい。どうせ救助が直ぐにくるとは思えません。時間はたっぷりあります」
俺は、この世界へ来てからの事をポロポロと話した。
「絶対、ではないし、……勝手な俺の、推測……妄想もあるんだけど」
そう、前置きを忘れない。
この世界、森では木の上に居る魔虫も大きな音をたてなければ降りてこない、地面にいる魔虫もこちらから刺激をしなければ襲ってこない事がこの4年でわかった。
もちろんイレギュラーはある。だが、概ねそうだった。
それもあり、ギルドでも迷宮では『隠密行動』は徹底していると聞いた。こちらから攻撃する時は静かになんてしていられない。しかし無視して通り過ぎたい時には、『そぉっと』が合言葉らしい。
「そうですね。ギルドでは割とメジャーな行動になってすね」
「スキルに隠密とか、あるんですか?」
「えっ? 知らない。あるの? スキルはギルドの方が詳しいし」
シフマネ君が俺に向けた質問をギルド員にパスで回した。
「自分が知っている範囲ですが、今のところ隠密スキルを持っている者は知らないですね。もしかして清見さん、お持ちなんですか?」
「いやいや、持ってないです。俺は空間仏間と回復だけ」
誰に知られて困る事でもないので正直に答えた。
「回復なんてスキルもあるのか……」
シフマネ君は目を見開いて俺見ていた。たぶんだけど、君が想像している『回復』とは違うから。
ギルド員は俺の心を読んだように軽く吹き出した。
失礼な。いいけどね。
気を取り直して話を続ける。
「でね、隠密スキルはなくても、それに近い事は可能かな。ほら、日本には古来から忍者が居るでしょ?」
「いたんだ?…………今は居ませんよね」
「昔は居たんでしょうね。伊賀とか甲賀とか聞いた事ないですか?」
「忍者が居る居ないはともかく、子供達と隠れんぼする時にこれが役立つんだ」
「忍者が?」
「隠密が?」
俺はふふん、と笑う。
俺が見つけた隠れんの極意、それは『何かに隠れて相手から見えない』だけじゃダメなんだ。
「見つかる見つかる」って思っていると必ず見つかってしまう。
俺は、木の陰に隠れる時は木の一部になりきる。『俺は木、俺は木』、心の中でそう念じる。
押入れに隠れる時は布団になりきる。
そうするとね、意外と見つからないものなんだ。見つからないというか、気がつかない? それでスルーしてくれる。
「それが魔物相手でも通じる、と?」
俺を見つめていたギルド員は疑いの目なった。
「100%じゃないけど、俺、結構森でやってる」
仏間を引いて地上の森に行った時とか、近くにキバウサギを発見すると地面に倒れて地面に同化するよう念じる。
キバウサギがどこかに行くまで転がってる。
ポヨンさんらがいるとさっさとウサギを倒して食っちゃうけど、たまにうっかり全員を食事に出した時とか。
「危険な!」
ギルド員が目を剥いた。
あ、でも仏間もあるし、大丈夫だよ?
たまに、たまぁにだよ。仏間から離れた時によく死んだふりする。
アイツら、相手の認識って、視覚でも嗅覚でもないみたい。
赤外線センサーみたいなモノで体温察知をしてるようでもないな。一番は音に反応。でも音を出さなくても反応してくる事ある。
勝手な想像だけど『気』かなと思っている。
俺ら人間が出している『気』。まぁ、人間だけでなく魔物同士で戦っているのもお互いの闘気みたいのかな?
俺たち人間もさ、目の前に魔獣が落ちて来たら恐怖するだろ?
動かず声も音も出していないけど、『怖い』とか『殺されるかも』とか、俺は弱いからそういう気持ちが出ちゃう。
ギルドの人とか強い人は、例えば迷宮内で『魔物を倒すぞ』って無意識に闘気を出してない?
『気』ってよくわからないけど、この世界のスキルに『気力』があるくらいだから、なんかあるんだよ。うん。
「気……」
「確かに、気力スキル……気力とは」
「でね、目の前に魔物が見えちゃうと怖い気持ちを抑えられないじゃん。だから『死んだふり』。見えなければ怖くない」
「死んだふりをしなくても目を閉じればいいのでは?」
「ええー、目の前に敵がいるのに目を閉じられる? まぁ、食われる瞬間は目を閉じると思うけど。目を瞑って見えない方が恐怖が倍増しない?」
「死んだふりも同じでは?」
「微妙に違うんだよなぁ、死んだふり。だって死んでいるんだよ?見えないし、そこに敵がいるのかどうかもわからない。とりあえず死んでおく。最も、距離が近すぎると失敗する事もあるけど」
「失敗したんですか?」
ギルド員が仰天した。魔獣を目の前に失敗は人生ENDだもんな。
俺は慌てて言い直した。
「あ、かくれんぼの話。近すぎると死んでいても発見される。ちょっと遠いと何にも隠れて無くても落ちている物体と思われる」
流石に魔物相手に超至近距離での死んだふり実験はできない。やった事ない。だが離れているとかなり成功率は高い。
子供らとはしょっちゅう隠れんぼをしているし、保育園でも取り入れているみたい。
ニッポンの地下都市大人達よりも子供の方がソレは進んでいるな。魔物の危険について早くから学んでいるし実践もしている。
保育園の子供達の地上散歩もソレが目的でもあるみたい。
怖い事から避けて隠れて生きるのもありだけど、怖い事を知ってから逃げる隠れる戦うを覚えた方が良いって、園長先生が看護師長と話していた。(のを聞いた。盗み聞きじゃない、たまたま聞こえちゃったんだ)
そうだよなぁ。だってさ、もしもゲーム画面が……。
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隠れる ◀︎
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一択しかなかったら、なんかなぁ。
やっぱり選択は欲しい。
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隠れる◀︎
逃げる
戦う
死んだふり
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うん、4選択くらいはあった方が良い。…………待って、俺の人生『隠れる』一択だった?
違う、違う。
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自室に篭る
仏間に篭る
押入れに篭る
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違う! 最近は地上散歩にも行ってた! あ、あぁぁ、でもあれ仏間ごとだった。
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仏間に篭る
地下の自室に篭る
仏間に篭ったまま地上散歩
仏間に篭って修繕
救助が来るまで篭って待機
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俺と言うゲームの選択肢……篭るしかない。篭りゲー。
「清見さん?」
シフマネ君に肩を揺さぶられて我にかえった。
「あ、ごめんごめん」
そんな話をギルド員とシフマネ君は最後まで聞いてくれた。
ここで救助を待つ間、まだ時間はあるので店内の皆にその話をしてくれた。うん、ギルド員がしてくれた。俺に話せと言われても無理だからな。
マックに居た子供達はそんな練習はしていない。まさかスタンピードに襲われるなんて思いもしなかったからな。
救助を待つ間、子供らとかくれんぼ(死んだふり)をする事になった。大人は言葉の説明で済むが子供、特に幼い子に理解してみらうのは難しい。ならば実践(隠れんぼ)あるのみ。
もちろんマック店内か仏間内のどちらかだ。外は危険すぎるからな。それに荒地すぎて隠れる木や岩も無い。
この周りはうりゆ君やポヨン君、グリさん達の活躍で残った魔物は綺麗に狩られていた。
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同じ頃、ニッポンへ向かう大島一行。
バスを引くマラミュート隊、バスの中にギルド員、大島。
ミニバンを引くコアラパンダ、ドライバーの長谷川。
お互いが速度を合わせつつ荒地を走り抜ける。ニッポンまでの直線最短距離を選んだ。
と言うのも予想していたとおり、本来あったはずの森が、バキバキのボロボロになっていた。砂や土の荒地とは違う、スタンピードが地を這いつくした木々の荒地が一帯を覆いつくしていたのだ。




