64話 通り過ぎたスタンピード
----(清見視点)----
俺達は助かった。
荒地のずっと向こう、地平線からやってきた魔物の津波、逃げ込んだ森ごと飲み込まれたが不思議空間は無事に残った。
仏間もガラス障子を一部開け放していた割に、中へ飛び込んでくる魔物はいなかった。
リュックからポヨン君らを出した。ポヨンポヨンしたりプルプルしたりしていたが、普通そうで良かった。
うりゆ君達の様子も気になったが、マック駐車場がすっぽりと大島氏の謎空間に包まれていて中が見えない。一面赤だの黄色だののチューリップで埋まっている。
地面にはまだ魔虫がそこら中に蠢いていた。通り過ぎた魔物の津波に置いて行かれたのか、それとも元からこの森に居たのか。
仏間越しに外を覗いていたら、マックに居たギルド員が外へ出て来た。彼らのスライムが地面の虫の駆除を始めた。
俺もポヨン君らに、この付近の掃除をお願いした。パミュンちゃんは俺の横についていてくれるみたいだ。
大島氏の壁画は魔物だけでなく人間も外から入れないようで、ギルド員は叩いて合図を送っていた。
大島氏が気がついたのか、次々とギルド員が大島御殿へと入っていった。
まもなく防御が解除されてバスが姿を現した。マラミュートやグリズリー達が見えた。うりゆ君達も無事そうで良かった。
俺が見ている事に気がついたのか、ピギャピギャと鳴き始めた。
スライム達による魔虫駆除も終わり、俺は外へと出た。うりゆ君達を撫でてまわった。
ギルド員によると全員無事、怪我人もいないそうだ。
「悪かったな」
大島氏が近づいてきて俺に頭を下げたが、何を謝っているのかわからなかった。
「ん? こっちこそ、うりゆ君達守ってくれてありがとう」
「バスを守っただけだった」
「うん、わかってる。それでもありがとう」
大島氏の防御のおかげで助かったのは確かだから。それにしてもさすがだな。防御の拡大もだけど、あの絵。
絵の下手さが大島氏の唯一の弱点と思っていたけど、それは間違いだった。
あの時、子供達が泣き叫び続けたら、必要以上に魔物を呼び寄せてしまったはずだ。
けれど、あそこに描かれた絵はまるで保育園の園児の作品(しかも下手な子)のようであった。おかげで怯えていた子供達もリラックス出来たんじゃないかな。
大島氏……意図してあの絵にしたんだよな?
----(大島視点)----
なんだろうか? 清みんがひとりで何か納得している。
それはともかく、無事にやり過ごせて良かった。俺の防御で全部を包み込むのは無理だ。仏間とマックが気になったが無事で本当に良かった。
「もしかすると、スタンピードでしょうか」
「スタンピード?」
ギルド員の口から出た言葉に数名が反応した。ファンタジー小説や異世界のバトルものに造詣が深い連中だ。
もちろん、俺も清みんも、ソレがなんだかは知っている。
「迷宮が存在する世界です。スタンピード、魔物の氾濫があってもおかしくない」
「さっきのあれは、どこかの迷宮が氾濫したのか?」
「デスエの情報ではそんな話は聞いた事が無かったですね」
「デスエは地下都市だからな。地上の氾濫なぞ知らんだろう」
それよりも、もっと大きな問題がある。もちろん、ギルド員達もそれに気がついている。
「スタンピードだとして、さっきの魔物の群れ。ニッポンの方角へ進んで行きましたよね」
「ニッポンの、と言うか全方角だな。どこかの迷宮で魔物が溢れたとして、それはその迷宮から360度、全ての方向へ魔物が散ったと見ていいんじゃないか?」
「って事は遠ければ遠いほど魔物は散らばっていくはずだ」
「それにしてもあの数ですよ?」
「荒地を過ぎると森が増える。そこでバラけてくれる事を願うが」
「バラけるどころか森の魔物も一緒になって進んだらアウトですね」
「いや、でもニッポンは地下都市だから大丈夫じゃないか? 上を通り過ぎてくれれ……」
「地上部の動物園やカフェ……、あの大群を防げるか?」
お互い見合って無言になった。皆が不安を感じていた。
「病院とか……。入院患者も居ましたよね」
「光が丘や浦安、僻地地区も地上にあるぞ? 早くに気がついて避難をしていればいいが」
そうだ。
ニッポンは踏破済み迷宮の地下10階層に造られた街だ。だから地上を魔物の群れが通り過ぎてもそこまで混乱は起きないはずだ。
しかし浦安や光が丘は地上に集まって出来た街。それよりも危険なのが、『僻地1』『僻地2』という地域だ。
あそこは浦安とは違い、さらに小さい集まりだ。
「浦安は確か踏破済み迷宮の近くに移動済みだったな」
「ええ、ですが光が丘は移動を拒否していて未だ何も無い地上ですね。それと僻1、僻2は近くに迷宮があるにはありますが、ニッポンへ移動計画が進んでいたと思います」
「追うべきか……追って知らせに走るか」
「今からですか? 間に合いませんよ。それに追いついたとしても群れが振り返ったらこちらが襲われますよ?」




