63話 やってみるもんだ
----(清見視点)----
もうそこまで魔物の壁は迫っている。
俺が出来る事。唯一出来る事……。あ。
ある。俺がって言うか……。
死んだふり。
「うりゆ、うりい、うりま、うりり、うりっしー! 仏間にくっついて死んだふりしろー! みんなも伏せてぇぇぇ! 倒れて! ジッとして! 死んだふりして! 長谷川さーん、死んだふりー! マックの店長さん! 全員床に伏せて動かないでー!」
俺は叫んだ。今までの人生でこれほど大声を出した事がないってくらいの大声で叫んだ。
聞こえたかどうかの確認をする時間はもうない。
ゴゴゴゴという地鳴りが近づく。
地震のような揺れも今や震度4以上あるようだ。俺も畳に伏せた。伏せたが畳の上をバウンドした。
「清みん、何で死んだふりなんだ」
「しっ、今死んでるから。生き残ったら説明する。どっちみち今できる事はないでしょ! 大島氏も早く伏せて!」
揺れがいよいよ激しくなる。震度6は超えてそう。知らんが。
地響きがすごい。その音に混ざって子供の鳴き声もする。小さな子に死んだふりは難しいだろう。きっと泣き出しているだろうが周りの音に掻き消されていく。
「いたっ」
バウンドして転がった拍子に柱に頭をぶつけた。
やばい、うっかり声が出た。
俺は死んでます。死んでる死んでる。
ポヨン君らが入ったリュックを押し潰さないように背中から下ろして右手で持っていたので柱から伸びた紐を掴むのが左手だけになる。大島氏が俺の腰に紐を縛ってくれてなかったら仏間から転がり出ていたかも。
大島氏が自分の紐を解いて仏間から飛び出したのが見えた。ちょっと!死んだフリをしてって言ったそばから!
俺は転がったまま薄目を開けていると、大島氏は仏間からバスへと走って行くところが見えた。
----(大島視点)----
俺は清みんと仏間に居た。地平線に見えた黒い壁はどんどんと大きくなり、魔物の集まりだとハッキリわかった時には俺たちが逃げ込んだ森も飲み込もうとする位置まで迫っていた。
揺れる大地に、バスの中では恐怖で混乱が起こり、叫びが飛び交っていた。
清みんの言った『死んだふり』、きっと何か意味があるはず。だがバスでは真逆の状態に陥っている。
俺は仏間から飛び出してバスへと飛び込んだ。
仏間もバスもスキルの空間なので、魔物の攻撃もある程度なら防ぐだろう。
そして俺にはスキル完全防御がある。
清みんとバスの子供を天秤にかけたわけではない。ただ、清みんにはスライムもウリ坊もいる。それに何故か『清みんは助かる』、そんな気がした。
なので、俺はバスの親子らを助けるために動いた。
「ボックス拡大!」
完全防御の箱型の範囲を最大限に拡げてバスを包み込む。
「壁面絵画! 天井絵画!」
バスの屋根の上の空間に広がる夜空に花火。周りは黄色とピンクで一面花畑だ。
実は最近の完全防御のパッシブオンオフ使い分けで経験値がかなり貯まっていたのだ。
範囲拡大や箱型の模様(迷彩色や草木の絵)、防御ボックスの変形による攻撃なども訓練していたところだった。
バスの窓から見える風景。上は夜空に花火、周りはカラフルな花畑だ。
振動はあるが迫ってくる音はかなり小さくなった。泣き叫んでいた子供がポカンとなった。
----(清見視点)----
仏間の開けてあったガラス障子から見えていたバスが、謎の空間に包まれた。
バスはマックの駐車場に停まっていた。隣に停まっていたミニバン、コアラパンダやマラミュート、グリズリー、そしてうちのウリ坊もその中に隠れた。大島氏の防御だ。
一瞬、死んだフリも忘れて見入ってしまった。
その謎空間にマックと仏間までは隠れきれなかった。
揺れと音がこれ以上ないくらいになった時、世界が闇に包まれた。かと思ったくらい仏間上空や周りを魔虫が、魔獣が、魔物達が密集して過ぎていく。
黒い津波、その正体は大量の魔物だ。
魔物達がただ過ぎて行ってるのではない。
追われている、逃げているようにも見える。移動スピードが遅いやつは速く強い奴に喰われている。ぶつかり合い飛ばされて仏間にぶつかってくる衝撃が何度も繰り返された。それでも仏間は壊れることはなかった。
真っ暗な闇の中、弾かれて仏間にぶつかる魔物達。ハッキリ見えなくてよかった。
だが少しずつ、隙間が開いてくると徐々に見えてきてしまう。
仏間を通り過ぎる時に走ってジャンプして、空中を飛んで逃げるやつ、ソレを追うやつでそこらじゅう絡み合い団子になっている。
地面に落ちた死体に喰らいつくもの、それを奪おうと襲いかかるやつらもいる。さっさとどっかにいってくれ。
黒い波が通り過ぎると、森はまるはげになり地面近くに折れた木々や残された根っこがあるだけになっていた。あと食べ残し?
あ、仏間は剥げずに残った。マックもバスミニバンも無事だった。




