62話 魔物の波
----(清見視点)----
魔物の津波が地平線からこちらへと一斉に押し寄せてくる。
俺らが隠れるように身を寄せたのはそれほど大きくない森だ。
どう見ても迫ってくる地平線の横幅から、この森などひと飲みにされそうだ。
空間を寄せ合った。仏間からバスの窓が見える。震え上がる人々が見えた。ギルド員さえも強張った表情だ。
黒い地平線の壁が近づくほど、それが魔物の大群である事が見える。
怖いは怖いんだけど、俺は何故かさっきより落ち着いていた。
壁の正体がわかったからだ。
「清みん……大丈夫か?」
大島氏の顔の方が怖い。
「うん。あの、津波がさ、水とか砂嵐とか土でなくてよかった。スキルの空間は魔物は入らせないけど水や土は防げない、と思う。洪水とか雪崩れとか山崩れには、たぶん、対応出来ない、んじゃないかな」
「自然は防げないって事か」
「うん。大島氏の完全防御はどうなんだろ? ボックスで海に潜れる?」
「いや、試した事ないが……、どうだろうな」
「でも、あの壁が魔物なら、仏間空間でやり過ごせる気がする。あ、でも大島氏と違って完全防御じゃないから、わかんないや。もしかしたら仏間が壊されたりするかな」
自分で言ってから追いかけるように震えがきた。でも今更どうしようもない。目の前の黒い壁はどんどんと巨大になっている。この森ごと飲み込まれるのは確実だ。
森で大量の魔虫が頭上から落ちてきた時も、迷宮で通路いっぱいの魔獣に襲われた時も、なんとなく負けない気がしていた。それにいざとなれば大島氏のボックスがあった。
完全防御のボックス。でも今、そこに入れる人数は限られている。大島氏が怖い顔をしているのは、それが原因かな。
もしかして、自分だけ助かってしまうかも、とか?
目の前、森のすぐ近くまで迫っている壁は、全てが魔物である事が見てわかった。
ギルド員が叫ぶ声が聞こえた。
「何があっても空間から出るなあああ」
「なるべく奥へ、真ん中へ集まれ!」
「衝撃で飛び出したりするな」
色々な指示が叫ばれていた。森へ突っ込んだ場所で俺らの空間建物は纏まっていた。
マックと仏間。一番大きいのはこのふたつ。これを背にしてバスとミニバンが密着して停まっている。
「そうだ! ウリ達、ウリ達はどうしよう、仏間に入らない」
俺は今更ながらに気がついて慌てた。
「コアラパンダもです、逃しますか」
「いや、逃しても追いつかれてあの波にのまれたら最後だ。ここで固まった方が生き残れる可能性は高い」
「バスは絶対に窓を開けるな! 座席の下、頭を下げさせろ、床に伏せれる者は床に」
マックは、窓のブラインドを下げ、動かせるテーブルと椅子は入口や窓の前に積み上げているようだ。
中に居る人はできるだけ店舗の中央、注文カウンターを挟んだあたりにしゃがみこんでいる。
地響きが近づいてくる。
「迷宮は?」
この近くに迷宮があったらそこ逃げ込んだ方が安全じゃないか?俺はふと思いついた事を口にした。
「無理だ。一番近い迷宮まで逃げきれない」
「俺らが行くはずだった迷宮、そこならどうかな」
「どっちにしてももう無理だ。猛スピードでそこまで辿り着いても全員がまごまごとしている間にあのスタンピードに飲まれる」
そうだよな。壁はもうそこまで来ている。森の手前くらいか。
ここまできたらもう祈るくらいしかない。大島氏が外したガラス障子の柱に紐を巻きつけている。仏間は掴める場所が無いからな。
吹き飛ばされたら外へ飛ばされるだろう。俺の腰に巻きつける。
ポヨン君らはリュックに入れて背負った。
俺は、ポヨン君に助けてとお願いしない。したらポヨン君は絶対あの大群に飛び込んでしまうから。
ウリゆ君達もだ。逃してあげたいけどそれも間に合わない。ごめん。
俺が出来る事。唯一出来る事……。あ。




