40話 うり
----(清見視点)----
大島氏が勢いよく体を起こした。思わずのけぞった俺の膝に乗っていたポヨン君が転げ落ちた。
「そういや、ウリ坊って迷宮で手に入れたんだよな?」
「う、うん。最初は手のひらサイズだったのに、俺が寝ている間に今のサイズになった。そういえば、あれから3年経つけどあれ以上大きくならないな……」
異世界元年、迷宮の中で見つけた小さなウリ坊、あまりに可愛くて思わずリュックに入れて持ち帰ったんだ。
それが熱を出して寝ていた3日後に目を覚ましたら軽自動車くらいのサイズになっていたんだ。
3日でそこまで成長するのに、その後の3年は全く成長していない。したように見えない。
ウリ坊が大人の猪になったのではなく、ウリ坊のままサイズアップした感じなんだ。模様も手触りもそのまま。
でも、賢いし可愛いし力持ちだ。5頭で仏間を引いてくれる。もちろん人が乗ったままでだ。
あれが成体なのか、それともまだ幼体なのか?
大島氏は何かを考え込んでいる。
「確かにカフェ専用なら弱くてもいい。迷宮なら小型サイズはいくらでも居る。だが、ウリ坊のように地上に出した途端にデカくなられても困るな」
「腕ウータンとか、あまりサイズアップしてないよね? 大きくなるのとならないのと、何が違うんだろうね。種族……かな?」
「ギルド員がテイムした迷宮魔獣は、若干のサイズアップはあったが、原型のままだな。逆に清みん、なんであんなに大きくした?」
えっ、いや、俺が大きくしたわけでは……。と言うか俺、熱で寝込んでたし、どちらかと言うと俺は全く関係なくない? 犯人は俺じゃないよね?
「あの時面倒見てくれた自衛隊の人に聞いてみてよ。その人ってギルドには居ないの?」
「いや、今もテイム課に居る。確かあの後、ウリ坊が欲しくて迷宮内を探したけど見つからなかったとか言ってたな。大人の猪は割とよく目にするそうだ」
「ふうん? 猪って子供の期間が短いのかな。3日で大人になるとか」
「いや、短すぎだろ、3日って」
「でもさ、見つかるといいね、猪」
「何でだ? カフェじゃ飼えないぞ?」
「カフェ用じゃなくてさ、有事の際に空間を引いてくれて、森の魔虫も怖がらない。それが迷宮でテイム出来るなら、空間スキル持ちの人もゲットしやすくない?」
地上の森は切り拓いちゃったから、これから中くらいの森に育つまで時間がかかる。
それを待つか、危険な古い森へ行くか。
それなら迷宮を探索した方が早い気がする。迷宮は魔物が謎の力でリポップするから、地上で待つより早いと思う。
もしも謎のスキル『テイム』が、一生に一度だけ、しかも一体しかテイム出来ないとしたら、絞りに絞って魔物を選ばないとならないだろう。
けど、今のところ複数体のテイムは問題なく出来ているんだ。用途別にテイムしても大丈夫じゃないか?
「テイム課の人って何体くらいテイムしているの?」
「そうか、そうだな」
大島氏は俺の質問の意味がわかったみたいだ。
「今テイム出来る人が何人いるのかしらないけど、1番多くテイムしてる人って何体?」
「俺も課が違うんで詳しくは知らないが、前に15体って聞いたな」
「15! 多いな」
「いや、清みんだって9体だからな。スライム4体にウリ坊5体」
「そうだけどさ、うちはほぼ外飼いというか放し飼いというか」
「放置の建物を引けるような大型が8体、それから小回りが効く小型が7体と聞いた。が、確か小型のは魔虫に喰われてその時2体しか残らなかったと。迷宮の小型は地上の魔虫より弱いからな」
「えっ、迷宮産は地上の虫に食われちゃうのか。ウリーズ達、放し飼いにしない方がいいかな」
「そうだな、けど、前に森の中で見た時は側にスライムが居たぞ? 一緒に行動させているのか?」
「ううん。自由だけど、ふるふるさん達交代でついていてくれたのかな」
----(大島視点)----
この世界は謎だらけだが、特に迷宮は謎だ。
迷宮産の魔獣が地上産の魔獣より弱いのは確かだ。
スライムやコアラパンダは地上産の魔物だ。当たり前のように放し飼いにして近場の森で勝手に食事をさせている。
なのでつい同じように考えていたが、清みんのウリ坊達は迷宮産の魔物だ。
迷宮産の魔物は地上で放し飼いにしても森には行かない。それどころか、地上の建物からあまり離れたがらない。それは保育園の園長先生の猿型魔物もだ。清みんが腕ウータンと呼んでいるアレは、園長先生が迷宮でゲットした魔物を地上に連れて行った。
以前に保育園横の病院の駐車場から出ないと聞いた事があった。もちろん命令をすると従うが、自ら離れたりはしない。
それはギルドのテイム課の魔物もだ。迷宮でテイムした魔物は地上の森ではほぼ役に立たないそうだ。
スライム持ちと同じ感覚で森に入り、連れていた魔物が全滅した話も聞いた。
迷宮産と地上産、何が違うのだろう。もちろんそもそも種類は異なる。
単に種類の問題だろうか。
「どっちにしてもさ、上限がまだ見えないなら迷宮の小型の魔物をどんどんテイムしてもらえば? 出来るだけ可愛いやつね。それでカフェを運営して、早くママさん達のスキルをマックスにしてあげてほしいかな」
清みんは相変わらず呑気だ。だが、それが得てして事の本質をついている事が多い。
「マックスになったら20日間は離れても大丈夫だから子供との時間も多く取れるし。他の手伝いしてくれるよ?」
「他の手伝い?」
「うーん、わからないけど。コアラパンダが出る森はもう無いと言うか復活に何年とか何十年とかかかるかもでしょ? だから遠方に大きいの探しに行くツアーに参加してくれるかも」
「そうだな」
「大島氏はとりあえず迷宮で可愛いのを沢山ゲットしてきて」
「俺はゲットできないけどな」
「わかってるって。ギルドのテイマーの防御箱係で」
とりあえず出来る事はソレか。




