4話 あれから4年目に
----(清見視点)----
この世界に転移したあの日から3年半が経った。
この世界へ転移したのは2026年(令和8年)3月27日金曜日の8時27分だったそうだ。
たまたま直前に時間を確認していた者が複数いて、かつ、その時刻が共通していた。
実際には全員が同時というわけではなく、8時30分やら32分、41分、57分、9時2分などとまちまちであった。
そんな中、一番速い時間かつ多かった証言が8:27だったのだ。
俺も仏間に掃除機をかけはじめたのが8時過ぎで仏壇に手を合わせたのがその頃だったかもしれない。
ママさん達や看護師長さんや園長先生も同じ時刻だったそうだ。空間スキル持ちの転移は同時刻、それこそ8:27同時に転移だったのかもしれない。
他の人は例の黒い雨みたいな物に襲われた時刻だからな。多少のズレはあるのかもしれない。
そしてあれから丸三年、……三年半が経った。俺ももう20代を名乗れない。
27歳でこの世界へ転移してきて、今はもう30代に突入してしまった。
当時は生後9ヶ月だった裕理君も今は4歳だ。お話もするし歩くし走るし好き嫌いもなくお利口だ。
好き嫌い……、俺にはたまにどうして食べられない食材があったりする。けど、食糧を手に入れるのが大変な世界なのは理解しているので、残したりは………しない。
時間はかかるが頑張って食べ……食べようとは、思っている。でも、ちっちゃい芋虫みたいのが、その、味が良いのはわかってる。みんなそう言うからな。
え?芋虫じゃない? 何かの魔虫の内臓?
でも、うー、皿の上でコロコロしていると脇からにょっと腕(?)を伸ばしたポヨン君がそっと食べてくれる。頼もしい。たまに兄貴に見つかるが兄貴はため息だけで見逃してくれる。
産院や保育園の子ども達もだいぶ育った。
あの時産院に居た新生児は皆3歳になった。保育園に居た子らも今は3歳から8歳だそうだ。
あの時大島氏と一緒に来た小学生だった杏と紬も今や14歳、日本だったら中学生だ。ドドやクサと倉田女子も当時高2になる春休み中だったが、いまや20歳、立派な大人だ。ちなみに俺と同い年の大島氏も30歳になっているはず。
今、地上の保育園は物資調達だけの存在だ。地下10階層のニッポン街に子供のための保育園が造られた。
もちろん色々な物資は地上の保育園から調達しているらしい。おもちゃとか日々量産しすぎて余ってしまい、デスエに出店していると聞いた。
地上の産院は、物資調達だけでなく、病院としても機能している。医師や看護師は夜勤として地上で寝泊まりする者も居れば、地下から通勤する者もいる。
ニッポンの地上部の森はかなりの広さで切り拓かれた。その中央に空間スキルの建物が置かれている。その周りにテイムされた生き物の小屋が造られた。
大小の岩や石を敷いたスライム達の居るスペース。スライムは高い木にも登れるが石の下とかが好きみたいだ。
たまに手頃なサイズの石を包み込んでいる。溶かしているわけではなく石を抱え込んでいる感じだ。
大福で例えると石が餡子で周りの餅がスライムだな。そして俺は発見した。スライムが抱え込んで数日経った石は軽石のようにスカスカになっている。
なんだろ……何を吸っているんだろう。ちなみに「お肌に優しい軽石」「踵がツルツルになる」と奥様がたに大人気だ。
他には太めの丸太を立てたり寝転がしたり斜めに置いて小型のアスレチックにしたコアラパンダの部屋、草や藁を敷き詰めたり小さい池のある猪部屋。他にも色々とある。
まるで小さい動物園のようだ。夜間は周りの森へ放し飼いにしている。自由な食事タイムだ。おかげでこのあたり、ニッポンの地上部へ来る魔物は最近はかなり減っている。
恐れて寄ってこないのか、来てもポヨンさんらに食べられているのか。だた、絶対に来ないわけではないので油断は禁物だ。
そんな感じなので、地上の産院勤務の医師や看護師もかなり安心して過ごす事が出来る。
勿論、地下10階層のニッポン街にも病院は造られていた。そこではちょっとした怪我や病気を診ているんだって。
手術や入院が必要な場合は地上を利用する。何しろ謎の電力で動く機器が今のところ存在しているらしいので。地下はいわゆる街クリニックのイメージだ。
それと医師や看護師さんはデスエに研修にも行くらしい。この世界の薬草とか薬の知識を学んでいるって。うん、大事だよね。
大人達はデスエに学びに行くが、子供達はまず地球の教育に近い事を学ばせるそうだ。
とはいえ子供達は小中高と合わせてもそれほど人数がいない。なので、小学生でひとクラス、中学生でひとつ、高校生でひとつと区切りそれぞれ授業が行われている。
教材など無いので住民が持っていたものをかき集めて手作りで教科書が造られた。それと、各自の記憶だな。
なるべく覚えている限りを何かに書き出す作業が行われた。
何しろスマホやパソコンを持っていてもどこにもアクセスできないのだ。だが、それらはメモ帳としてかなり役立っている。
キチママさんのキッチンや病院で充電が可能なのだ。
俺はうちのウリ坊の赤ちゃん時代の写真を撮った自衛官のスマホを俺のスマホで激写した。データが送れないからな……。
が、その手の画像交換がよく行われている。『うちの子自慢』でもある。人に限らず魔物もだ。
紙やペンは限られている。再生出来る物資にも限りがある。だが、スマホは殆どの者が持っていた。
書いたり写したり出来る手段であるが、いつかは壊れる物でもある。スマホに限らないが、皆、物を大事に扱うようになっている。
「清見くん、スマホを修理できませんか?」
よく頼まれるが、申し訳ないけど出来ない。
スマホ画面の割れたガラスは直せる、が、それだけだ。衝撃で動かなくなったのは無理だ。
「回復スキルじゃ出来ないんじゃないかな」
「機械修理は何スキルになるんでしょうかね」
「ラノベだと鍛治スキル……とか? あとは修理スキルみたいなのがあるのかな?」
「デスエで聞いてみますか」
いや、デスエにスマホがあるとは思えない。あったらアーティファクト扱いになる気がする。
それから年号が新しく改訂された。
こちらの世界へ来た西暦2026年、令和8年を『異世界元年』と呼ぶ事になった。
あれから3年半、今は『異世界4年』にあたる。
最初の年(異世界元年)は、スキル石が限られていたため、自衛隊を中心にスキル取得がおこなわれた。
『物理攻撃』は余っていたので国民も習得をした。
それ以外のスキル石『体力』『気力』『魔力』など。
異世界二年には、希望する一般者へ厳正な試験により取得出来る者が選ばれた。
異世界三年には、年2回の抽選でスキル石が配布された。
そして異世界四年(今年)は、在庫がある限りは希望者へ配布されている。
そこで、未成年のスキル取得についての話し合いがされた。
「スキルに慣れさせるためにもスキルの取得は早い方がいい」
「デスエでも子供は歩けるようになる頃には覚えさせると聞いた」
「訓練は4〜5歳から始めるそうだぞ」
「訓練するかどうかは置いておいて、数があるなら中学生13歳から取得すべきでは?」
「親子で転移してきた母親の意見を聞きたい」
ママさんらは、この世界でも死なずに生きていけるように他の都市の子らと同じようにしたい。現在はまだ石の数が足りないと言うなら、石が入手出来てからでもよい、という意見が多かったそうだ。
ある日の晩、うちの近所で開かれた花笠井戸端会議。
「地球での教育はこの世界では役に立たないんじゃない? あれは平和な日本でこその教育よねぇ」
「戻れる事を期待して何もしないよりも、今はこの世界に馴染んでおいたほうがよくない? 地球の教育は戻れたら戻ってからどうにかすればいいわよ。何もしないで生きていけるほどこの世界は甘くないわよね」
「石が足りないなら、私が娘の石を取りに迷宮に潜るわ」
「あら、私も行くわよ。ご一緒させて。うちの郁未の分も」
「うちだって」
「お母さんがいない子の分は私が取りにいきます!」
保育園の保育士さんたちも井戸端に参加していた。あれ?別の町会じゃなかったっけ? えっ?自由参加OK?
「保育園でも普段からスライムやコアラパンダと遊ばせていますし、外に出る散歩はうりゆ君達にのせてもらってます。魔虫や魔獣の危険は早くから見せて学ばせています」
なるほど。保育園ではすでに異世界教育が始まっていたのか。俺は追い抜かされる予感がする。
裕理君はきっと勇者になる、そしてうりゆに跨って地上を駆け抜ける勇姿が見える。(叔父バカ)




