36話 浦安と光が丘
----(大島視点)----
ニッポン街の地上部にある空間建物、その持ち主のスキルを経験値マックスまで底上げする計画を知らされた。
「経験値の底上げ計画は、この街だけですか?」
この街、つまりニッポン街の事だが、あの日この世界に来た人達はまだまだあちこちに点在している。
ここニッポン街が1番大きな集まりだが、他にも被災民の集落はいくつかある。
中でも『ニュータウン浦安』と『光が丘パークタウン』、このふたつは、地上の建物だけならニッポン街の地上と比べ物にならないくらい大きい。
ニッポン街は迷宮の地下10階層に街を作り、集まった被災民の多さでは1番だ。
その中で空間スキルの建物持ちの建物が幾つか地上部に置かれている。
しかし、『ニュータウン浦安』も『光が丘パークタウン』も、空間スキル持ちの数で言うとかなり多いのだ。
何しろ、あの日、マンション内に居た親子が、あの時に居た空間ごと転移してきた。近場にポコポコとマンションの居間だの寝室だのキッチンだのが、やってきたのだ。
もちろん来なかった家庭も多い。が、子育て世帯を応援している市に新しく建ったマンションである。
幼児の居る家庭が多かったのだ。
縦長マンションが平置きの空間の集まりに。そこに身ひとつで転移した被災民が集まった、そんな集合体が浦安と光が丘だ。
あまりの空間建物の多さと幼い子を抱えた母親達、長距離の移動は難しい上に、ニッポン側でもその数の建物を設置出来るスペース造りが難しかった。
なので、転移した場所で今日まで頑張って暮らしていた。
勿論、ニッポンからギルド員の派遣はしていたし、あちらの情報も常に掴んではいたようだ。
俺ら迷宮チームはあまり地上勤務はなかったので、浦安や光が丘に足を運んだ事はなかった。俺は、なかった。
うん、あっちは空間スキル持ちがうじゃうじゃと居るんだよな。彼女らってテイムとかしているのだろうか?
もしも、全員がテイム済みなら、無敵の街が出来ていそうだ。まさにテイム課の垂涎の的じゃないか?
「あちらはほとんどテイムに力を入れていないのですよね」
誰かの発言にひっくり返りそうになった。
そうなのか?
力を入れていない、つまりテイムをしていないって事か。
「実のところそうなのです。ここニッポンと比べてあちらはほぼ全員がテイム出来るスキルを所持しているにもかかわらず、魔獣はうちのギルドから派遣されているテイマーのみです」
「それは、経験値が足りなくて?」
経験値はテイムには関係ないよな。清みんとか移転初年度にはもうテイムしてた。
「経験値は無関係です。単に、この世界の魔獣や魔虫に慣れない、恐怖心などからですね。テイムの必要性も何度か説明はしているのですがなかなか」
あぁ。浦安に光が丘か。あそこらへんは確か中々のお値段のマンションだよな。
中流の上あたりの奥様達か。アニメやゲームからは遠い人達かもなぁ。間違っても『俺つえー』とか『私、悪女ですのよ』なんてのはいないのだろう。
「経験値はどうなんです? 毎日そこで生活をしているならもしかして100超えているかたも多いのでは?」
「そうなんです。実は皆さん100を超えていらっしゃいます。遺跡の石版で確認したわけではないので、本人からの申告になりますが」
えっ、スキルマックス集団? うわっ、こえぇ。全員テイムしたら本当に無敵集団の出来上がりだ。
「と言う事は、浦安と光が丘については経験値の底上げでなく如何にテイムに導くか、ですね」
「それがなかなかに難しくてですね。ここ3年である程度の生活の循環が出来てしまっている。タウン内で食糧も回るようになりました。タウン内のスーパーも転移して来てますからね」
「スーパーか、それは凄い……けど、よく親子が居たな。まだ8時半では開店前だろう?」
「ええ、それがですね、そこ子育て支援とかで子連れ出勤するお母さんが多かったようです」
「なるほど。そういやうちの地上にも保育所付きの職場から転移した来た建物があったな」
「あとは、仏間で発見された再生方式でかなり増やしているようです。魔物を食糧にしなくともやっていける。やっていけてしまっているんですよ」
「それは……」
「うむ」
なるほどな。周りが怖くてタウンから離れなかった事が、スキル消滅の危機から逆に救われた事になったな。
そして食糧まで足りているなら尚更テイムの必要は感じないだろうな。
「一応説得は続けますが、そのふたつのタウンは後回しとする予定です。地上でも他の集落に力を入れる方向ですが、とりあえずここニッポン街の経験値マックスとテイムにご協力をお願いします」
そう言って頭を下げて会は締められた。




