33話 要らないスキル
----(清見視点)----
風呂ママさんの空間スキルが消えて、リコちゃんママになった翌朝。
俺はもっと寝ていたかったが兄貴に起こされた。わかってる。地上の仏間の修繕屋の仕事だな。
休みたいなぁ。オデコに手を置いてみる。熱は全くない。残念ながら平熱だ。ズル休みしたい。ズル休みしたい。
だってGWも夏休みも無かったんだ。ずっと修繕屋はフル回転。ニートって365日夏休みのはずなのに。
「ほら。清見、さっさと朝飯食っちまえ。今日は飛行機メシだぞ?」
えっ、機内食クーポン使ったの? 裕理の誕生日まで取っておくって言ってなかった?
俺は慌てて被っていた毛布から頭を出した。
「きぃちゃん、ごはんだよ! 早く早く!」
お泊りに行ってたはずの裕理も戻ってきている。あれ? 今何時?
「もう8時だぞ? さっき裕理を迎えに行った帰りに飛行機メシのクーポンを使った。お前、あれ好きだろ?」
「うん。でも、まだ裕理の誕生日じゃないのに……」
「誕生日の時はまた何か考えるさ。それより、今日も修繕屋は休みだ」
えっ? 修繕屋が休み? 何で?
「俺、熱無いよ? ズル休み?」
「ああ、いや、そうじゃなくて、今日はギルドで空間スキル持ちが招集されてる。9時からだからメシ食ったらいくぞ?」
昨日の今日でもうギルドで会議? 早いな。ギルド職員たちは昨夜あれから徹夜だったのか?
俺はリコママのスキルが消えて、その後あたりから記憶が曖昧だ。結構早くに寝落ちしたのかもしれない。
せっかくの機内食なのでゆっくりと味わって食べていたら、あっという間に9時直前になっていた。
「兄貴、先に行ってて」
俺は歯磨きセットを掴むと水場へと猛ダッシュした。歯磨き大事。
とは言え水場までは結構な距離がある。往復を考えると9時にギルドは無理だが、モブの俺が居なくとも問題はないはずだ。俺はしっかりと歯磨きをしてからギルドへと向かった。
「清見君、おはよう」
「早くないわよwおそよう」
「あ、すんません。遅くなりました」
俺はペコリと頭を下げつつ、入口近くの空いている椅子に腰掛けた。入って直ぐに兄貴を探したら、最前列に居たからだ。
兄貴の隣に空いた席がひとつあり、兄貴はそこを指差したが俺は首を横に振った。
ヤダよ、1番前の席なんて。
そう言えば今日は何の集まりだっけ? 司会者(?)の横のボードに目を向ける。が、遠すぎてよく見えん。まぁいいや。参加する事に意義があるからな。
ドドとクサが俺の横にコソッと移動してきた。
「昨夜、リコちゃんママのスキルが消えた事の報告がされたとこです」
会議の部屋には結構な人数が集まっていた。こちらをチラ見する人も居る。
「経験値が100を超えても、一定距離、一定期間をおく事でスキル消滅する事が確認されました。期間においてはあくまで経験値100の者としますが、20日までは安全期間、21日になった時点で消滅となりました。ちなみに距離は今回2kmで検証いたしました」
誰か知らないけどボードで説明をしているギルド員が言い終わるのを待って別のギルド員が話し始める。
「仏間スキルの清見氏からの情報ですと、距離限界は15mと伺いましたが」
その言葉でこの部屋に居たほぼ全員が振り返り俺を見た。
えっ?変な無言の空気が流れている。これって俺の発言待ち? 何を言えばいいの?
「あー、あの……えっと、テキトーに測ったので絶対とは……」
「15メートルとは! 意外と狭い範囲ですな」
「あくまで経験値100ランクの話です。この階層に降りた時にたまたま風呂とトイレを水場の横に設置しましたが、あの頃ですと5メートル未満だったようですので水場へ行く事でトイレ、風呂は図らずとも範囲内になったようです」
うん、トイレママさんと風呂ママさんのを地上から持って降りて、水場の横に置いたんだよな。
あそこは排水にも適していたから。…………でも、よく考えてみたら謎の上下水道施設だった。あの風呂もトイレも外に排水してなかった。
けど、水場には調理だけでなく、洗面や歯磨きでも毎日訪れるしで、ママさんたちはスキル保持のためにあの空間にわざわざ接触しなくても大丈夫になったんだ。
「清見君の検証では、距離が初期で5m、100が15m。10ごとに1mの範囲が拡張される事がわかりました。そして杉山さんの協力の元、経験値100でスキル消滅まで21日なのがはっきりしました」
ん?誰? 杉山さん?
「シショー、リコちゃんママっすよ」
ドドが小声で教えてくれた。そうか、風呂ママさん、改めリコちゃんママは杉山なにがしさんだったのか。覚えないけどね。
「今回の検証は経験値100の場合です。本日空間スキルをお持ちの皆さんにお集まりいただいたのは、ご相談させていただきたいと思ったからです」
皆が前を向き直り少しだけ騒ついた。何の相談だろう。空間スキル持ちに……、俺もかな。
「空間スキルは、あの日、突然何かが起こった時に自然に入手していたスキル、つまり皆さん自身が選んで手に入れたスキルではないはずです」
うん、俺もわざわざ『仏間スキルを取るぜ!』とは思わなかった。あの時にガチャスクロールを回して取ったのは『回復』だったな。
「そこで、今ここで空間スキルについてしっかりと考えを決めていただきたい」
「考えを決めるとは?」
「何を決めたらいいの?」
周りのザワザワが大きくなった。
「ギルドでは、今後二点に力を入れようと考えています。まず一点、それは現在まだ経験値が100になっていない空間スキルについて、100を目指していただきたい。その手伝いをギルドが行う予定である」
「あの……それは空間スキルを持っている人、全員ですか?」
恐る恐る手を挙げた女性が小さな声で質問をした。何スキルの人だろう?
「あの……、私、電車を使いこなせる気がしなくて」
「一緒です。私も……」
「電車とバスのかたですね。まさに今からその話をしようと思っていました。経験値100を目指すのは、まず本人の希望がある場合、それからギルドからの要望で今後も再生物が必要な場合。もちろんどちらもギルドからのバックアップがあります」
「あ、なら……私が持ってるバスは……ただの循環バスで再生物資もないし……」
「はい。この世界へ来た当初は魔物から身を守る空間として十分にお役に立っていただきました。被災民になりかわりお礼を申し上げます。ですが、今、地下都市で安全もある程度保たれる、内田さんがおっしゃったように、空間を不要と感じる方もいるでしょう」
少数ではあったが、首を縦に振る女性が居た。
「ですので、空間スキルが不要と思われているかたには、是非ともスキル消滅の検証にご協力をお願いしたい。杉山さんの協力で経験値100が21日に消滅する事がわかった。では、他の経験値ランクは?」
皆の前で話していたギルド員が、小さな声で話した女性の下へと近づいた。
「内田さんは現在経験値は……」
「あ、あの、1.200831です……すみません」
あの人、バスって言ってたな、経験値がまだ1なんだ。
「あの日バスに乗ってた親子さんか。バスの運転手でも何でもないから空間は持て余すよなぁ」
隣でクサが小声で話してくる。
「ほら、バスでも観光バスとかは再生物資も多いけど、街中循環バスだとなぁ」
「だよなぁ。結構要らないお荷物だな」
あちこちで囁きが聞こえた。
「私も、スキル消滅でお願いします」
「バスの内田さん、電車の三原さん、と、羽田さんもバスと。わかりました。スキル消滅希望は3名ですね。他にいらっしゃいますか?今直ぐ決めなくとも後ででも結構ですよ」
話していたギルド員は周りを見回して他に手があがらないので次に進める事にしたようだ。
「勿体ないなぁ。俺が欲しい。スキルの譲渡とかないのかなぁ」
クサが少し残念そうだった。
「さて、さきほど二点の話があると言いました一点はスキル消滅検証。100を目指す方へは後日ギルドの補助のお話を個別にさせていただきます。そしてもう一点。実はこれも空間スキルと大きく関わってきます」




