26話 風呂
----(清見視点)----
「ねぇ、お風呂いる?」
風呂ママさんが同じ言葉を繰り返す。
「え、今日はいいわ。明日シャワーの日だし……」
「うん。うちも。明日、愛菜達とシャワーするから今日はこのまま飲んで寝る」
「違う違う。空間スキルのバスルームって必要かなって思ってさ」
皆が押し黙った。
風呂ママさんが言った意味を考えている。
そう、風呂ママさんは、風呂スキルの必要性を口にした。スキル消滅の検証が出来ないという話をした直後だ。
それは、風呂ママさんの空間スキルで、スキル消滅の実験をするって事か?
誰も話し出さない。
「だってさ、汚れを落とすなら病院のシャワーが使えるじゃない?うちはバスルームって言ったってさ、結局はマンションのバスルームでたいして広くもない家族風呂だし」
「でも、バスタブがあるのは助かるわ」
「そうよ、日本人はシャワーだけよりやはりバスタブよ」
「うん、でもさ、今はニッポンの街に2箇所露天風呂が造られたじゃない? うちの家族風呂を予約で半年待つくらいなら街の露天風呂や共同浴場で十分じゃない?」
確かにその通りだ。
この世界に来たばかりの頃、まだ何もなかった森の中にいた時は風呂ママさんのとこの風呂はとてもありがたかった。交代でも一日おきには入っていた。
けれど地下にニッポン街ができて、最初は風呂ママさんのバスルームは予約殺到の大混雑だった。
地上の病院でシャワーを浴びれても、日本人はやはりゆっくりとバスタブにつかりたい。
そして自衛隊が真っ先に取り掛かったのがトイレと風呂の設置だ。まずは水場の近くに。それから離れた場所まで水路を延ばしていった。
今は共同トイレは街で7箇所。共同風呂は2箇所。露天風呂が2箇所ある。それでも風呂ママさんのバスルームは日々予約はあるそうだが、以前のような混雑ではない。
「私のスキルなら100を超えているから、スキル消滅の実験もやりやすいと思うのよ」
「でも、消えたら再生物資もでなくなるし……」
「うん、うちの風呂場で再生するのってシャンプー、コンディショナー、ボディソープくらいじゃない? それって、病院でも十分再生しているし。失くなっても困らないかなーって」
そう言って風呂ママさんは俺の顔をジッと見た。
えっ、俺に振る? 俺が答えないとダメ?
みんなも俺がなんて答えるのか待っているみたいだ。
「ええと、ええと。お風呂が無くなってもリコちゃんと風呂ママさんが居なくなるわけじゃないし……、あの日からずっと、お風呂を使わせてくれてありがとうございました。あの森で出会った人は全員風呂ママさんに感謝していると思う。ありえないような日々でもお風呂に浸かるとまた頑張れる気持ちになれた、なれました。どうもありがとう」
どうしよう、これ以上、何を言っていいかわからないよ。
「そうだな。璃子ちゃんママ、長い間お風呂を使わせていただきありがとうございました」
「ほんとねぇ。ありがとう」
「ありがとうございます」
皆が風呂ママさんを取り囲んでお礼を言っている。
そうだ、これからは風呂ママさんではなくなる。もしも風呂が消えたら何ママになるんだ?
皆が呼んでいるみたいにリコちゃんママと呼ぶべきか。
「検証の件は橘さんからギルド本部へ話していただいていいかしら」
「ええ、もちろん。それと、再生したい物は今のうちに全再生をしておきましょう」
「いえ……。バスルームを手放してからはもう再生もギルドへ任せているんですよ。時に個人的に思いがある物はないですし」
「そうねぇ。うちのトイレもギルドに任せているし、正直私が個人的に欲しい物もないのよね。トイレも100いってるから消滅検証しようかしら」
「待った! トイレはあったほうが……」
「ええ? トイレはたくさんあるじゃない」
「でもでもでも、地下の街にあるウォシュレットはあそこしかないもん!」
「そうです。あそこは今は女性専用トイレになっています! 失くなると色々困るんです!」
倉田女子(あ、もう二十歳過ぎた女性を女子呼ばわりはないか)や鮎川さん、杏に紬も騒ぎ出していた。
「他のトイレにウォシュレットが付いたらいいけど」
「ウォシュレットなんて付かないわよ。だって地下に電気ないもん」
「水魔法でウォシュレット出来ないかな」
「それ、自分のみウォシュレットかー」
「だったら誰か電気魔法を覚えればいいんじゃない?」
「電気魔法! そんなのあるの?」
「そもそも魔法スキルがあまり聞かないですね」
ハッキリとは言わなかったけれど、風呂ママさんのスキルは、消滅検証で決定な感じになった。
異世界転移において、『風呂』のありがたさは『仏間』よりずっと上だった。
本当にお世話になりました、リコちゃんママ。
ちなみにTOPは『トイレ』である。




