20話 町内会のイベント②
----(清見視点)----
地下10階層のニッポン街、花笠通りのうちの町会は20軒かそこら、兄貴が町会長をやっている。
そして地下の巨大な鍾乳洞のような迷宮内に造られた街は、空が無いので家の屋根もない。雨が降らないからな。
両隣やお向かいさんとの境である壁も低い長屋造りだ。わざわざ一軒一軒に声をかけにいかずとも、大きな声で集合をかけると聞こえたうちの人はやってくる。(近場の別町会の人も来てしまうが)
狭いので自宅前の通路にシートを広げて座れるようにした。それから果実を水に混ぜて作った果実水を用意した。コーヒーやお茶を入れる設備が無いからな。振る舞うのは大概はただの水か果実水がせいぜいである。
ちなみに、地上の設備ではコーヒーやお茶を飲む事が出来る。が、今あそこはギルド経営の喫茶やカフェになっている。機体や病院の再生物資を使用した店舗であるが、配給チケットと引換になる。
現在このニッポン街では、働いて貰える賃金は現金ではなく配給チケットだ。
チケットは多種多様の種類があり、使用者が選べる仕組みだ。
水はこの街の炊事場で自由に利用が出来る。もちろん飲料用もだ。そして果実は外の森で入手した物だ。酷い傷ものはギルドに卸さずに持ち帰りオッケーなので、自宅用及びご近所さんに配っている。
ここに避難をしてきた時は、まだニッポン街も造り始めたばかりであったし、暫定的に決められた場所に全員がとりあえず配置された。
しかし、1年以上経ちだいぶ落ち着いたあたりから、引越し希望を受け入れて、街内での移動がちらほらと行われているらしい。
うちは、最初のここから動いていない。特に希望もないからな。水場が遠いとか、地上階段が遠いとか、言い出したらキリがない。そもそも便利な場所などないのだ。
日本にいた時のように『駅近希望』や『コンビニまで3分以内』などと言う人もいない。てか、駅もコンビニも無いからな。
階段近辺は毎日使用するギルド本部系の宿舎が8割型占めている。ただでさえあの長い階段を毎日登り降りして物資を運んでもらっているのだ。階段の近場に住んでもらうくらいいいじゃないか。
…………あれ? 待って?
それを言うなら俺も毎日、地上で働いているんですけど?
まぁ、いいや。どこでも。疲れた時は地上の仏間に泊まるって兄貴にも言ってあるし。
気がつくと花笠町会の人がうちの前に集まり、座って談義をしていた。
しまった!ぼぉっとしていて話を聞いてなかった。
「…………というわけで、うちの町会でも催し物をしたいと思っています。何でもいいのでとりあえず案をいただきたいと」
えっ、えっ、どういうわけ? 町会の催し物???
町会の催し物って言ったらアレしかないよね?
「盆踊り……」
俺がボソリと呟いたのを皮切りにそれぞれが色々と口に出し始めた。
「盆踊り! いいわねぇ。夏祭りと言ったら盆踊りよね」
「クリスマス」
「ハロウィンとか子供が喜ぶわぁ」
「餅つきはどうだろう」
「待って、待ってください。ちょっとメモしますね」
兄貴は平たい岩盤のような物に白い石で書き始めた。
1月 正月、成人式
2月 節分、バレンタイン
3月 ひな祭り、お彼岸、卒業
4月 お花見、イースター、入学
5月 こどもの日、母の日
6月 父の日、紫陽花、夏越の祓
7月 七夕、海の日、丑の日
8月 お盆、盆踊り
9月 十五夜、お彼岸
10月 ハロウィン
11月 七五三、文化の日、勤労感謝の日
12月 クリスマス、大掃除、忘年会、除夜の鐘
「ええと、一応、月順にしてみました。こんなところですかね」
書き出されたイベントは毎月のようにあった。日本人ってイベント好きだな。
あれ……? 夏コミケ、冬コミケが無い。
町内会の奥さまがたの顔を見回して、うん、町会では却下だな。あとで大島氏にコソッと話してみよう。ギルドの元自衛官あたりで小規模なのは開催できないかな。
「新年、年末の除夜の鐘、成人式、入学や卒業式はギルドの仕切りで行いそうですね。もちろん、うちの町会でも別途にイベント化しましょう」
大掃除……イベントらしからぬ物も混ざってるな。いや、ある意味、年一回の大イベントかもしれぬ。
「では、うちの町会は、これらのイベントを前向きに検討すると言う事で。イベントにはデスエの住民さんも参加する事を念頭においてください」
「橘君、いつからやるのかね」
「そうですね。それほどかしこまったものではないので、準備が間に合いそうなら、ええと、今は9月なので十五夜、お彼岸か」
「ここから月は見えないぞ?」
「あら、いいのよ。月は作り物を貼っていけば。みんなで祝うのがお祭りよ」
「ですね。けれど、今からだと準備時間が足りなそうです。ギルドへの補助金申請もありますし。来月……10月からのイベントにしましょうか」
「ハロウィン! いいわねぇ」
あの転移した日が異世界元年3月だった。それから3年半。
現在は異世界4年の9月末……。イベント実行は10月からが良いだろう。
ハロウィンかぁ。陽キャのイベントだよな? よくニュースになってたな。押入れ界隈の住人である俺には関係ないが。
「清見も昔やってただろ?」
いやいやいや、兄貴? 俺はそんな陽キャイベントはやった事がないぞ?
「覚えてないか? あーそうか、俺が小学校前だから清見はまだ2、3歳か?」
えっ? 何だ、ガキの頃の話か。
「ごめん……全く覚えてない」
「子供の仮装って可愛いわよねぇ。うちも家ごと来てたら収納にあったのにー」
「あ、もしかして仏間の押入れにないか? 押入れの物資はギルド管理かぁ」
「あら、あったら複数に再生して、あちこちに配れるわね」
「すでに普段着として配給されてるんじゃない? 橘さん、何の仮装か覚えてる?」
兄貴が少しの間俯いて考え込んでいた。
「何かの幼児番組の着ぐるみ……系だった気がする。全身緑色のモサっとした……、あれは何の仮装だ?」
「ああ、それ、再生物資で複製されて保育で園児に配られていたわ。パジャマか遊び着扱いになっているはず。2〜3歳児だからもしかしたら裕理君も持ってない?」
「緑の……、あったな、それ。アレは清見の仮装衣装だったのか」
「枝豆の着ぐるみ、可愛いわよねぇ」
「えっ、あれ、枝豆なの? 恐竜かと思ってたわ」
「河童だと思ってたわ、全身緑色だから」
「2歳児がアレ着て並んで寝ているとテーブルに並べた枝豆そのものよ」
はたして『枝豆』の仮装などあるのだろうか。
それはさておき、ふと思った事を口にした。
「仮装……の、材料、手に入るかな。裁縫道具とかも」
「確かに。何でも手に入る世界じゃないからな。どうするか……」
「今年はこじんまりとする? 例えばほら、同一カラーをその日の衣装に入れるとか」
「ああ、いいわね。ブルーなら青い物を一点身につければいいわね」
「地味じゃないかしら。せめて子供に何か着せたいわね」
「ふむ。ギルドに確認してみます。衣装などの貸与が可能かどうか」
その日はそこでお開きになった。
その後兄貴から聞いた話によると、複数の町会から『ハロウィンイベント』についての問い合わせがあり、ニッポン街で大々的に行う事になったそうだ。
子供は町会ごとに決めたカラーの布を身につける。大人はデスエから仕入れたデスエ民の服を、つまりその日は全員がデスエ民に仮装する事になった。
もちろん衣装はギルドから貸与される。
その日ニッポンに招待されたデスエ民やニッポンで仕事に就いていたデスエ民達は、逆に日本人の仮装だ。
この世界に転移してきた時に自衛官が着ていた服を提供するそうだ。
もちろん綺麗に洗濯されて、新品のように補修をされた物だ。
そう、俺はハロウィンまで大量の迷彩服に囲まれる事になった。
「シショー、ギルドからの追加分、ここに置いておきますのでよろしくー」
回復スキルのレベルが上がっているとはいえ、短期間にかなりの量だ。忙しいのは俺だけでなくママさん達もだ。裁縫を得意とする者が集められてサイズ直しをしている。日本人に比べるとデスエ民は体格がいいからな。
大人達は裁縫作業だけでなく、お菓子作りやお菓子入手でてんやわんやだったそうだ。
ハロウィン当日、大名行列でニッポン街を練り歩く。その後は、街のあちこちでお菓子を配っている。お菓子が貰えるのは20歳未満だ。ドドクサや倉田さんは残念ながら貰えず。
裕理君達は大興奮だった。
俺は燃え尽きた。MPも尽きた。




