表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/10

小さな手

-


眠りに落ちる瞬間まで、何も特別なことはなかった。高校時代バイトしていた名残りでずっと働かせてもらっている喫茶店の営業を終え、迎えた普通の夜。ベッドに倒れこんで、スマホを置いて、ただ目を閉じただけのはずだった。


――なのに。



目を開けたとき、世界は変わっていた。


見知らぬ天井。

息を吸えば、空気が甘い。微かに聞こえるカラスでもスズメでもない鳥の声も、異様に感じた。

慌てて身体を起こそうとして、思うように身体が動かないことに気がついた。自分の身体のようで自分ではないみたいな感覚だった。今までに経験したことない感覚なのに直感で良くないことだと理解してしまったのか心臓がバクバクしているのがわかった。



ゆっくりと自分の手を見た。



小さいくて、細い。子供みたいな…



「え、なに……こりぇ……?」



ここは夢?

それとも、まだ寝てる?



[コンコンッ]


「まあ、お嬢さま。お目覚めになられましたか。

ただいまお顔をお清めする用意をさせていただきますね。」


目の前の女性が優しく微笑みながら、そっと抱き上げようとする。その体温が、現実を決定づける証拠みたいで、逃げ場がなくなった。



頭の奥で何かがきしんだ。

昨日までの私の部屋、スマホ、朝の車のハンドルを握る時間、全部が遠のいていく。そんなものは初めからなかったかのように。

ああ、戻れない。ここ、どこ……?



「……いや、いや……!」


小さな喉から絞り出した声は幼児のそれで、

次の瞬間、視界が真っ白にかすんだ。


22年間生きてきた自分の、坂本(さかもと)穂乃香(ほのか)の身体ではないこと。それだけはいやでも理解出来た。



現実を受け入れられず、私はそのまま後ろに倒れ、

優しい笑みが焦りの表情に塗り替えられたのを最後に、糸のように細かった意識が、ぷつりと切れるみたいに闇に落ちた。


-

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ