心が変われば、見える景色
作ろうとしたんですけど、少し趣旨が変わってるかもしれません。恋愛要素が...ちょっと。
ガッツリ恋愛をみたいっていう人は、ブラウザバック推奨です。
「ねぇ、私...海に行こうと思うの」
彼女は、真剣な瞳で俺を見た。
まだ冬なのか?と、疑ってしまうほど寒さで体が凍えそうな春の初め。
彼女は、最近では滅多に見かけないつばの大きな白い帽子を片手に、白いワンピース姿で言った。
彼女と出会ったのは、ほんの数日前の事だった。
今思えば、変な出会いだったと思う。
公園のブランコに座って、夜空を眺めていた女の人にふと、興味を持って声掛けたら、たまたま意気投合してしまったみたいな感じだ。
今日も、またブランコに座っている彼女は、ギィギイと錆び付いた鎖を響かせながら、後ろ髪を揺らす。
「今日も来てくれたんだ。」
「来ちゃ悪いかよ。」
「そんなことはないけどさ。」
薄く微笑んだ彼女に、内心ほっとしながら定位置であるブランコの傍のベンチに座る。
彼女の、隣でブランコに乗りたい。という思いがないわけではない。けど...どうしてか、恥ずかしさを感じてしまうのだ。
「今日は、当たりだな。空が澄んでる。」
「そうだね。雲ひとつない。」
「どうして海なんかに行きたいんだよ。別に...ここでも十分だろ」
「君は、ここが好きなんだね。」
「別に...」
そういうわけじゃないけど...彼女が、俺を見てきて、そっと目をそらす。彼女が、ここに居てくれる。それだけが、嬉しかった。
わざわざ、景色を変えても...どうせなにも変わらないだけだろ。
なら...ここで、二人でこのまま...静かに空を見ていたい。
明日も、明後日も
「でも、ダメだよ。」
「なん...で」
「だって、君はずっと変わらないままだから」
パチパチと、街頭の明かりが揺れ、虫が一匹地に落ちていく。
ゴクリと、唾を飲む。俺が、変わらない?なにを...言ってるんだろう。
「変わらないのは、そんなに悪いことなのか?」
ふるふる顔を振る彼女。なにが、言いたいのか分からなくて...でも、彼女はそれから言葉を紡ぐことはなかった。
ザァーと、砂が揺れる。
パチリパチリと瞼を閉じる。
「聞こえた?」
「いや....聞こえない。」
「そう。」
不安そうな声で聞いた。
彼女のサンダルが、地面を擦る。砂同士が音を立てる。
やがて、鼻歌を歌い出した。
やわらかなメロディに、耳を傾ける。
「綺麗な歌だな。なんて言う歌なんだ?」
「ん?そうだね。別れ....とか?」
「そんなに悲しそうなメロディじゃなかったような気がしたけどな」
「いつだって、別れが悲しいわけじゃないよ。」
「それは.....そうだけど」
再び、ザァーという海が引いていく音が聞こえた。
俺は、ブランコの付近にある小さなベンチに腰をかける。
「君のこと好きだったよ。」
ポツリと呟いた。唐突な彼女の言葉に目を丸くする。
よいしょっ、という小さな声を弾ませて、ブランコから降りる。
「結構好きだったなあ...ここも」
「お、おい。」
「空は、綺麗だし..ここに来る子どもは、みんな楽しそうでね。私のことを指さしていつも言うんだ。なんで、ブランコが勝手に動いてるっ!!って....」
「ま、待って、くれ」
俺は、急いでベンチから立ち上がる。
なにが言いたいのか分からない。伝えたいことを一気に伝えすぎて、容量を得ない。
「ごめんね。」
「い、いや...いいんだけどさ」
申し訳なさそうにした彼女の顔に、少し...ドキリと胸が弾む。
「海見えた?」
「いや....見えない。けど」
「まだ、見えてないの?」
嘘だ。ハッキリと、くっきりと見えている。白いさざ波を立てる海が....でも、見えたくなんかない。
真冬のような寒さが、肌を撫でてきてはぁ...と、息を吐く。
悔しさで目元に涙を滲ませる。
「ま、だ....まだ、見えないよ」
「.........そっか。見えない.....か」
ぼんやりと、耳に残る声....。
少しだけ間を空いた彼女は、納得したように清々しさを含んだ声音だった。
「今夜は、肌寒いな。」
そうだね。ちゃんと、温めないとね。きっと、そうやって言ってるだろうか。
気の抜けたようなクシャミをして、予約していたホテルへと足を進める。
夜明けの朝に、日の出を見つめる。
ふと、砂浜の上で、元気に手を振ってる真っ白な君が見えたような気がした。
「元気してるようで...よかったよ。」
俺は、振り返って、地平線の果てにある消えかかってる一つの星を空中で握ると、離れていった光に..ふぅと白い息を吹きかけた。