茨城の首切場(くびきりば)
ご当地の怪談? へー、あんた、そういう話を取材してるの? それで、わざわざ茨城に来たって? 物好きだねぇ。まあ俺が知ってる、というか体験もした話なら、あるよ。
でもさ、先に言っておくけど、俺は霊感なんか無いからね。だから俺が幽霊を見たとかいう話じゃないし、誰かが変死したとかいう話でもないよ。田舎では、よくある現象っていうか、大したことではないんだ。でも俺は確信してるけどね。あれは霊の仕業だったって。
まず俺自身の話を軽く、しておこうか。俺、三十代の頃、東京で働いてたんだけどさ。職場と合わなくて、クビを切られたの。で、東京が嫌になって、お袋の実家がある茨城に移ったんだよ。そこで、しばらく過ごして、また東京に戻ったんだけどね。東京が嫌になってた分、茨城が気に入っちゃって、週に一度はお袋の実家に入り浸るようになってさ。
例の感染症騒動の時は、帰省を自粛してたけど、今もこうして茨城に帰ってきてるって訳。お盆の時期だしね。これから話す怪談?というか体験談は、感染症騒動より前に起きた出来事さ。
田舎では、というか都会でも、よくある現象なんだろうけどさ。店を出しても流行らないエリアってあるじゃん? まるで呪われたかのように、客が来なくて店が潰れるっていう場所。大体は単純に、立地条件が悪いんだろうね。例えば、道がカーブになってて、目立ちにくい場所に店があるとか。そういう場所は、いくつも知ってるよ。
でもね、これから俺が話す場所というかエリアは、そういうのじゃないんだ。一本道でさ、近くには飲食店が多いんだよ。その一本道の、半径二百メートル周辺くらいのエリアだけ、飲食店が上手くいかないんだ。そのエリア、俺の実家に近いんだよ。
俺の実家から、その一本道を歩いていくと、とんかつ屋やラーメン屋があってね。そこから更に歩いていくと問題のエリアがあって。そこに昔はファミレスがあったんだ。全国チェーンで東京にもある、誰でも知ってるような店が。当然、客は入るんだよ。周囲には大したライバル店も無いしね。普通に考えれば周囲の店の方が先に潰れて、ファミレスの方が長続きするはずなんだ。
ところが、実際に起きたのは逆の出来事だよ。ファミレスの方が先に無くなっちゃったんだ。潰れたのか、チェーン店が規模を縮小したのかは知らないけど、とにかく閉店しちゃってね。こっちは訳が分からないよ。俺も何度も店に通ってて、それなりに客は入ってたからね。
ただ思い返すと、店員の様子がおかしかったなぁ。何だか鬱っぽいというか、病的な感じで。店員がそんな感じだから、当然、店の雰囲気も悪くなるよね。客も雰囲気に当てられて、居心地が悪くなって来なくなったりしたなぁ。俺も閉店直前の頃は、あまり行きたいとも思えなくなってたね。
で、有名ファミレス店が無くなった後、お袋にその話をしたんだよ。そしたら、お袋が「あんなところに飲食店を建てても、失敗するよ」って言って。「何でよ? だって立地条件は悪くないぜ」って聞き返したんだよ。その答えが、こうさ。
「あの辺りはね、江戸時代の首切場だったんだよ。つまり処刑場。そんなところの飲食店なんか、潰れるだけさ」