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イタヅラ? いいえ、ケフィアです。


「だ〜れだ」

「え?」ドキッ。

 野太い声が背後からしたと同時に視界が覆われた。瞼から伝わってくる温かさ。それは優しく指を添えていて、相手を思い遣る感じが取れた。

なわけがなく。

「ちょっと、こら。アンタこそ誰だよ!」

 声をあげながら、晶子はその手首を掴んだ。が、太い。己の指先と指先とが合わさらない。そして皮膚から伝わる肉の張り。

 これは、尋常ではない。

 晶子、蒼白!

 だからといって、このまま舐められてたまるものですか。

「ぬぬぬぬ……」

 離れろ。離れろ。

「ぐぬぬ……」

 後ろの男が抵抗する。

「ぬあああああっ!」

 晶子が雄叫びと共に力を全て開放した。万力の如き腕を解いて、素速く脱出。歩道に身を預けて転がり、片膝を突いてその方向を睨み付けた。するとそこには、目を疑う者が。

 白い肉の塊?

 いいえ、ケフィアです。

 ロシア人です。

 たわわに実った筋肉。

 分厚い胸板。

 豊かな胸毛。

 丸太のような腕。

 樹の幹の如き太股。

 股毛、臑毛は雑木林。

 キュッと締まったお尻。

 えくぼがチャーミング。

 股間の『もっこり』。

 長方形の輪郭と割れた顎。

 彫りの深き造形。

 スキンヘッド。

 そして、もみ上げからケツ顎へと美しいUの字を描いて繋がる太いラインの顎髭は見事な物だ。オマケに白いレスリングタイツを着用していた。

 何だ? この気持ち悪さは。

「何なんだよ、アンタは!」

 立ち上がって指を差した。

「気持ち悪いなぁ、もう……」

 顔を肉塊の白人から逸らして、声を漏らす。

「聞き捨てならぬ!」

 今度は、晶子の左右から同じような野太い叫び声を聞いた。慌てて顔を右に左と振れば、そこにはスキンヘッドと似た白人を発見。

「ひっ……!」

 身を仰け反った。

 反射的に気管支に声が詰まって、悲鳴が出た。鳥肌も全身にゾワゾワと立ってゆく。が、そんな晶子の反応にはお構い無しに、三人の肉―――でなくて、ロシアンが晶子の前に並んだ。

 また目を疑った。

 クローン?

 いいえ、ケフィアです。

「み、三つ子っ?」

「ダー!」

 白人が三人揃ってニカッと歯を煌めかせ、腰に拳をやりムキッと上腕二等筋と胸筋と歯を剥き出した。

「ペトリャコフ!」

 スキンヘッド。

「スーホイ!」

 マッシュルームカット。

「ヤコレフ!」

 テクノカット。

 頭以外は全く同じ規格の三人だ。顔の形にその部品の配置とケツ顎。体格至るまで寸分の狂いも無く、お・な・じ。ペトリャコフ、スーホイ、ヤコレフの三兄弟は真横に整列して腕を組むと腰を落として両膝を前方に出して、爪先立ちになる。そして、一斉に踵を突き出した。

 交互に。交互に。

 交互に。交互に。

 ロシアの筋トレ?

 いいえ、ケフィアです。


 コサックダンスです。


 程良い弾力を持った三つ子の筋肉が、ダンスと共に揺れ動いてゆく。プルプル。プルプル。徐々に加速してゆくダンスと、滲み出てくる汗。それは輝きを増して煌めき、脚の振り上げによって飛び散っていく。

 キラキラと。キラキラと。

 キラキラと。キラキラと。

 ハラショー!

 ハラショー!

 ハラショー!

 ロシアの大道芸人?

 いいえ、ケフィアです。


 迷惑防止条例に当たります。


 結果、野次馬が集まりだして歩道は通行止め状態に陥った。晶子は具合の悪さを感じながらも通報する。五分足らずで現場に到着。警察官が四人、颯爽と現れて拳銃を構えた。

 とあるひとりの警察官が晶子に注意を促す。

「早く離れて」

「え……」イイ男ーー。

 トキメキつつも、それに従って後退する。

『そこの三人組。ダンスを止めておとなしくしなさい!』

「ダー!」

 無線で警告された三兄弟は、意外にあっさりと踊りをやめて起立した。 それから現行犯逮捕。

 ロシアン三兄弟の処分は?

 国外追放?

 強制送還?

 いいえ、ケフィアです。

 厳重注意です。



 ―ー劇終ー―


このような拙作を読んでいただきまして、ありがとうございました。この三兄弟、何がやりたかったのでしょうね?(←イタズラでしょ。

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして ケフィアがあまりにもすばらしく、感想を書かせていただきます。 全体的にツボにはいりました!! それにしても……本気でいたら恐ろしいです。 やはりケフィアで育ったからなのでしょ…
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