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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界恋愛・短編

神様を辞めて不良になる!〜僕のお気に入りの少女を虐める奴らなんて助けてあげない・短編

作者: まほりろ

【短編】「婚約者に冤罪をかけて国外追放したら国が滅んだ〜神の手のひらの上で転がされていたことに気づかない間抜けな俺」https://ncode.syosetu.com/n5112hv/

上記の作品の竜神ルーペアト視点の話です。

――竜神ルーペアト・サイド――

 


『竜神ルーペアト様、俺たちの犯した罪を謝ります。

 心から反省しています。

 どうかいま一度、俺たちに竜神の加護をお与えください』







「や〜〜だよ。

 エルマを傷つけた奴らなんか知らないも〜〜ん」


「ルー様、どなたと会話しているのですか?」


「ううん、独り言だよ」


オープンカフェでエルマとまったりお茶を楽しんでいたら突如不快な声が聞こえてきた。


三百年も神をやっていた後遺症かな。


あの国から遠く離れた場所にいるのに時おりあの国の民の悲痛な叫びが届く。


二年前、僕はエルマに与えた光魔法を一時的に取り上げた。


エルマには使用人の振りをして、

「光魔法を失ったあなたはお城には住めません。

 新しい家を与えるのでついてきてください」

と言って城から連れ出した。


あまりにも素直に僕の言うことを信じるのでエルマの将来が不安になった。


彼女は典型的な悪い人間に騙され骨までしゃぶられるタイプだ。僕が守ってあげないと。


エルマを僕の隠れ家に案内し彼女のことを配下の妖精たちに預けた。


エルマに妖精の姿は見えず声は聞こえない。妖精たちには彼女が外に出ないように見張りを頼んだんだ。


隠れ家には水と食料を多めに用意しておいたから当面の暮らしには困らないはずだ。


僕はエルマの姿に変身して城に戻った。


彼らが光魔法を失ったエルマにどんな仕打ちをするのか知るために。


城に戻った僕は使用人に冷えて腐ったご飯を食べさせられ、冷たいお風呂に入れられ、ベッドメイクのされてない粗末な簡易ベッドに寝かされた。


エルマは毎日こんな仕打ちを受けていたのか。もっと早くに助けてあげればよかった。


それからパーティで王太子に公金横領と伯爵令嬢を虐めた冤罪をかけられ、婚約破棄され、国外追放を命じられた。


エルマに化けた僕に罵声を浴びせた貴族の顔を全員覚えた。


そのあと衛兵に拘束された僕は罪人用の荷馬車に乗せられた。


荷馬車は人通りの多い道を通り、沿道の民衆に罵声を浴びせられ、石を投げつけられた。


たどり着いた森に隣国の悪徳商人はげデブがいて、彼に売られた事を知った。


僕が身代わりを務めて本当に良かったと思う。


エルマにこんな辛い経験をさせられないもん。


エルマに化けた僕にいやらしいことをしようとした悪徳商人の大事なものを消滅させ、彼にリウマチ痛風になる呪いをかけた。


僕を森まで運んできた衛兵にも同じ呪いをかけておいた。


悪徳商人は奴の罪状を調べ上げ奴の体に罪状を書いた紙を貼り付け、逆さ吊りにして隣国の城の前に吊るしておいた。


衛兵は記憶を消して森に放置した。獣に食べられてないといいけど。


そして僕は元の姿に戻って考えた。


エルマを傷つけてきた奴らへの罰をどうするかを。


全員にリウマチと痛風の呪いをかけてやろうかな?


エルマを傷つけたのは国王と王太子と伯爵令嬢と城の使用人と司教とパーティ会場にいた貴族と石を投げてきた民衆と……いっぱいいるな。


でもただ呪いをかけるだけじゃつまらないな。


そういえば悪徳商人が「幸せの絶頂から突き落とされたとき人はとても良い顔をする」と言っていたな。


僕も真似してみようかな。 


王太子とその婚約者が平和な日常を満喫していたらある日突然呪いがかかって不幸のどん底に突き落とされる……面白いね。


執行猶予期間は王太子と伯爵令嬢が結婚するまでの一年間。


奴らの結婚式の翌日僕は神を辞めると発表し国を守っていた結界を消滅させ、エルマを虐めていた人たちにリウマチと痛風になる呪いをかける。 


ついでに王太子と伯爵令嬢の罪も映像と音声付きで暴露してやろう。


僕の配下の妖精たちは噂話を集めて来るのが大好きだからね。


それに一年あれば善良な人たちを他国に逃がせる。


そういえば神様なんて面倒くさいことなんで始めたんだっけ?


三百年前、僕があの国を通りかかったとき。


そこには痩せた田畑が広がり、貧しい身なりの村人がモンスターの脅威に怯えながら田畑を耕していた。


素朴で優しい彼らに触れ、助けたいと思った。


だから僕はモンスターの侵入を防ぐ結界を張り、枯れた大地に雨を降らせ、配下の妖精たちを使い土地を豊かにする魔法をかけた。


最初のうちは皆、僕の与えた加護に感謝していた。


だけど最近はそれが当たり前になってきたのか、誰も僕に感謝しなくなった。


僕への感謝の意を示す祭りの規模は縮小され、それに伴い供物も減った。


国は豊かになり他国からの移民も増えたけど、豊かになればなるほど人々の心は荒んでいく。


荒んでいく人たちを見ているのが辛くて、何度神を止めようと思ったか分からない。


それでも極稀に、貧しい家に生まれながら、優しく清らかな心をもった少女に出会うことがあった。


そんな人たちが僕に神の仕事を続けさせてくれたんだ。


清らかな心の少女が幸せに暮らせるように、僕は彼女に光魔法を授けた。


少女の周りにいた人たちは彼女の持つ光魔法の恩恵を受けたくて、少女に親切にしていた。


少女も快く光魔法で周囲の人たちの怪我を治療していた。


だけどしばらくして少女を聖女と崇め利用しようとする輩が出てきた。それから少しずつおかしくなっていった。


初代聖女は生涯独身で、神殿からほとんど出ることができなかった。


二代目の聖女は、聖女として初めて王族に嫁いだ。


だけどそれは白い結婚で……暇を持て余した彼女は城を抜け出し精力的に貧しい人の治療にあたっていた。


先代聖女も正妃だったけどやっぱり白い結婚だった。


彼女は王妃の仕事に追われ、それでもなんとか時間を捻出しては貧しい人に無償で治療を施し……過労死した。


彼女たちは聖女になって幸せだったのか?


僕は彼女たちに余計な力を与えてしまったんだろうか?


そんなときエルマに出会った。


彼女は五歳で親を亡くし、教会が運営する孤児院に引き取られた。彼女は同じ境遇の子供たちを励まし、誰かが熱を出すと献身的に看病していた。


僕はエルマが幼いときから彼女をずっと見守ってきた。


でも彼女に光魔法を与えるかどうかは迷っていた。


光魔法が彼女を幸せにするとは限らないから。


エルマが十歳のとき孤児院の子が何人も流行り病にかかった。


しかし孤児院には全員を医者にみせる金はなく、彼らは死を待つだけだった。


そのときエルマは病気の友達を助けたいと神に願ったんだ。


僕は迷ったけどエルマに光魔法を授けた。


孤児院の子供たちは全員治ったけど、教会にエルマの力が知られてしまった。


彼女はすぐに聖女として認められ、あれよあれよと言う間に王太子の婚約者になった。


無邪気な笑顔がチャームポイントだったエルマは王太子妃教育が進むほど笑わなくなり、表情が消えていった。


そんな彼女を見ているのは辛かった。


それでも彼女は泣き言一つ言わずに王太子妃教育に励み、教会に言われるまま貴族の治療を続けた。


エルマは貧しい人たちの治療を望んだが、教会に却下された。


教会はエルマが患者を治療する見返りに貴族から多額の治療費を得て私腹を肥やしていた。なのにエルマには一銭もやらない。


教会の人間だけでなく城の人間のエルマに対する扱いも酷かった。


特に王太子がしたことは許せない。


奴はエルマの顔を見るたび「グズ」「ブス」「陰気」「地味な髪の色」と悪口を言いエルマを虐めた!


エルマの髪と目の色は僕と同じなので腹が立った。


それにエルマはブスじゃない! キュートでとってもチャーミングな子なんだ! 


歴代の国王や王太子は、愛していなくても聖女に敬意を持って接していた。


だけどあの王太子は違う。


結婚前からあれでは先が思いやられる。


あんな奴がいずれ国王になるのか。あんな奴が国王として統治する国なんか守りたくない。


王太子、あいつだけは絶対に泣かす!


それには「竜神」という肩書きが邪魔だった。


酒場やギルドで不良が気に入らない奴を殴っているのが羨ましかった。


「ああ、いっそ神を辞めて不良になれたら……」


思いっきり王太子に復讐できるのに。


『嫌ならやめちゃえばいいの〜〜』

『ルー様、最近つまらなそうなの〜〜』


妖精たちに愚痴を聞かれていた。


「そうだね嫌なら神など辞めてしまおう。

 そして不良になろう!」


僕はそのとき神を辞めて不良になると決めた。


その時から僕は人を欺くことをなんとも思わなくなっていた。


不良だから人間をペテンにかけて国を破滅させることもある。


人間にリウマチと痛風になる呪いをかけることもある。


不良って楽しい〜〜!





☆☆☆☆☆







過去のことを振り返っていたら目の前に座っていたエルマがいなくなっていた。


「エルマ! どこだ!?」


「こっちです!

 ルー様!」


エルマは店の前の道路にしゃがみこんでいた。


「心配したよ」


「すみません。足を引きずった猫ちゃんを見かけて」


「猫?」


「宿屋に戻って治療したいのですが」


「いいよ」


「ありがとうございます!

 前みたいに光魔法を使えたら猫ちゃんを一瞬で治せるんですが」


そう言えばエルマに光魔法を返してなかったな。


でもまたエルマの力を悪用しようとする奴が現れたら嫌だな。


今は僕がエルマの側にいるんだし、そういう奴らが現れたらその時はそいつらを消しちゃえばいいか。


僕はエルマに光魔法を返した。


「猫ちゃんの足の怪我よ治れ〜〜!

 痛いの痛いの飛んでいけ〜〜!」


エルマが謎の呪文を唱えると彼女の手が光り猫の足が動くようになっていた。


「ルー様、見ましたか!

 私はまた光魔法が使えるようになったみたいです!

 猫ちゃんの怪我を治せました!」


エルマは野良猫を抱っこして嬉しそうにほほ笑んだ。


それはエルマが孤児院にいたとき見せたくったくのない笑顔と同じだった。


エルマを笑顔にできるなんてこの猫はすごいな。


可愛いから飼ってもいいかな。


「良かったね、エルマ」


二年前、光魔法を失ったエルマに「何をしたい?」と尋ねたら、

彼女は「医術を習いたいです。困っている人の助けになりたいから」そう答えた。


だから僕はエルマを祖国から遠く離れた国に連れていき、医術を習わせた。


時がきたらアイリーから光魔法を取り上げてエルマに返す予定だったから、医術を習得しても無駄になるかもしれないけど。


僕は彼女が医術を習いたいという気持ちを邪魔したくなかった。


エルマは王太子の婚約者になってからずっと、何一つ自分の意思で決められなかったんだ。


これからはエルマが望むことをやらせてあげたい。


「習った医術が無駄になっちゃったかな?」


「そんなことありませんよ、ルー様。

 聖女をしていたとき一日に使える光魔法に限度があることを知りました。

 なので軽症の患者さんは医術で重症の患者さんは魔法で治していきたいと思います!」


エルマは屈託のない笑顔でそう言った。


『ルー様、隣町で土砂崩れが起きたの〜〜』

『怪我人がたくさん出てるみたいなの〜〜!』


そのとき妖精が血相を変えてやってきた。


この子たちはまた村人の話を盗み聞きしていたのかな?


「教えてくれてありがとう。

 急いで隣町に向かおう」


僕は小声で妖精たちにお礼を言った。


エルマには妖精の声は聞こえないので彼女は無邪気に猫と戯れている。


「エルマ、次の目的地が決まったよ。

 隣町のがけ崩れが発生し怪我人がたくさん出たらしい。

 助けに行こう」


「はい、ルー様。

 あっ、でもこの子は……」


エルマは抱えていた猫を見て眉を下げた。


「一緒に連れて行こう」


「飼ってもいいんですか?」


「うん、いいよ」


「ありがとうございます! ルー様!」


エルマを笑顔にした猫だからね、特別に飼ってあげるよ。


宿屋に荷物を取りに戻らなくてはいけない。


「ねえ、エルマは光魔法を授かって聖女になれて幸せだった?」


「幸せですよ。

 孤児院のお友達を助けられましたし、病気や怪我で苦しんでいる人を助けられましたから」


「一度失った光魔法が戻ったことに不安はない?」


「それはあります。

 いつかまた消えてしまうかもしれない力ですから。

 だから光魔法を過信せず、もっと医術を学び光魔法なしで人々を助けられるようになりたいんです!」


キラキラした表情でそう言ったエルマの言葉に嘘はないだろう。


「でもルー様、どうして急にそんなことを聞いたんですか?」


「ううん、ちょっと気になっていただけ。

 さあ急いで宿屋に戻ろう。

 土砂崩れに巻き込まれ怪我人が心配だ」


「はい!」


宿屋を引き払い荷物をアイテムボックスにしまった僕は、エルマをお姫様抱っこした。


「きゃあ」


エルマが顔を真っ赤に染める。


「急いでいるから飛んでいこう。

 エルマは猫をしっかり抱っこしておいてね」


「はい!」


『魔法のじゅうたん持ってるのに〜〜』

『竜の姿になって背中に乗せることもできるのに〜〜』

『セクハラ〜〜セクハラ〜〜』


妖精たちが何か言っているが聞かなかったことにした。


隣町に着くと土砂崩れの現場は騒然としていた。


僕たちを見かけた村人が険しい顔で「女、子供が来るところではない!」と言った。


「女」はエルマのことだし「子供」は僕のことだよね。


竜族の欠点は成長が遅いところだ。


この前も宿屋の主人に「ご姉弟で旅ですか?」と言われた。


エルマと旅をしていると弟にしか見えないのが辛い!


僕の方がエルマより五百歳近く年上なのに!


やはり魔法で大人に変身して旅を……。








そのとき、



『助けて……!

 反省してるので助けてください……!』



という声が聞こえてきた。


この声はぼんくら王太子か。


しつこいな、僕はもう君たちの国の神様を辞めて不良になったんだ。


だから君を助ける義理はないんだよ。


それに僕は心の綺麗な人しか助けないって決めたんだ。







「ルー様、どうかされましたか?」


「なんでもないよ。

 僕は魔法で土砂をどかすからエルマは怪我人の治療にあたって」


「はい!」


役割分担してテキパキと人を助けていく。






『助けてくれーー!

 死にたくないっっ!』




はるか遠くで王太子が喚いている。


国王や宰相や王太子妃の声もかすかに混じっているな。


僕は神を辞めたんだ。


今さらそんなことを言われても、僕には関係ないよ。







――終わり――





読んで下さりありがとうございます。

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【完結】「約束を覚えていたのは私だけでした〜婚約者に蔑ろにされた枯葉姫は隣国の皇太子に溺愛される」

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地味だけど健気な令嬢が主人公のお話です。


【完結】「不治の病にかかった婚約者の為に危険を犯して不死鳥の葉を取ってきた辺境伯令嬢、枕元で王太子の手を握っていただけの公爵令嬢に負け婚約破棄される。王太子の病が再発したそうですが知りません」 https://ncode.syosetu.com/n5420ic/ #narou #narouN5420IC

婚約破棄&ざまぁものです!


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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白かったです。 エルマさんが過去作のブルーナさんと重なりました(的外れならごめんなさい) 楽しく読ませていただきました。 ありがとうございました。
[良い点] わがままな神様は基本ですね [一言] 神は存在しない。存在するのなら、神は間違うし、理不尽で、優しく、残酷なはず。 とか考えてます。 ちなみに自分、時折、神のような何かは存在するのではない…
[良い点] 2人とも重荷を下ろして伸び伸びできているようで何より [気になる点] 往生際が悪いな王太子 [一言] 故郷からの追放、まさかちっとも効いてないな? 好きな人と一緒ならそれで良し、結構結構
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