元カノが家族になった。そして元カノの妹とキスをしている所を元カノに見られた。
元カノが家族になった。そして元カノの妹とキスをしている所を元カノに見られた。
あらすじにも書きました通り続編をアップしたので興味のある方はぜひ……!
中編↓
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後編↓
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「何か遺言はある?」
「……ございません」
「そっちは?」
「……ね、姉さん……落ち着いて……!」
鬼の形相を浮かべて僕と葉月ちゃんを見下ろす女。
それがこの僕の元カノ、竜胆 七海。
あ、葉月ちゃんはこの女の妹ね。
……引いては僕の義妹でもある。
僕の名前は緋色──竜胆 緋色だ。
さて、このややこしい状況を説明しようと思うのだがまず前提として言っておこう。
──僕はまだ童貞だ、と。
「緋色……君、さっき……葉月と何をしようとしてたの?」
僕の名前を詰まりながらも君付けで呼んだ七海は、腕を組んで指をトントンとしている。
……何をしようとって言われてもなぁ。
僕は横目で僕と同じように正座して冷や汗を流している葉月ちゃんを見た後、葉月ちゃんの部屋で仁王立ちする七海に視線を戻した。
「別に……何もしようとしてない。ただ、欧州的な挨拶をしていただけだ」
「……唇にはしないでしょ……!!」
「……そう……ですね……」
あーやっべ、段々指トントンが激しくなってるぅ。
はぁ……本当にどうしてこんな事に……
僕は1時間前の出来事を七海の視線から逃げながら思い返した。
※
「お兄さん、今お時間良いですか?」
「ん?葉月ちゃん、どうしたの?」
高校2年、秋の昼下がり。
夏休みも早々に終わり木々が赤く染まり始めた土曜日の我が家。
事件はそんな日に起こった。
僕には高校生に上がった時から新しい家族が増えた。
その家族が目の前に居る葉月ちゃんとその姉の七海、そしてその両親であり継母に当たる美里さんだ。
……これがただの再婚なら僕も喜べた。
だが事はそう単純では無かった。
葉月ちゃんのその姉、七海は僕の元カノだ。
中学生時代、お互いに気持ちを通じ合わせ好き合った関係。
けれど所詮は子供の恋愛、僕達は僅か1年でその関係に幕を下ろした。
──筈だった。
何の運命の悪戯か、僕達は再び巡り合う。今度は家族として。
僕にはあの頃の気持ちは既に無い。
お互いに決めた"親には迷惑を掛けない"という約束を守る為、今日まで壁を作って暮らして来た程だ。
その甲斐もあり父さんや美里さんにはそこそこに仲の良い義兄妹として見られてる。
だが、約一年半そうやって均衡を保ってきた壁は遂に崩壊を迎えようとしていた。
天使のような笑顔を浮かべるこの子、葉月ちゃんによって。
「……お兄さんが良かったら少し私の部屋に来て欲しいんです。大丈夫ですか?」
「あぁ、構わないよ」
「! ありがとうございます」
僕が了承すると、頬を染めて嬉しそうに笑う。
はっきり言おう。僕はこの子を溺愛している。
まだ中学3年生なのにあの姉の妹とは思えない程丁寧な物腰、言葉遣い。
背は低く、華奢な体は僕が守ってやらねばならない!そう思わせてくれる。マジ天使。胸もあるしな。
持ち前の綺麗な黒髪を肩の辺りで切り揃え、前髪も目に掛かる辺りで斜めに揃えられているのがポイントが高い。可愛すぎる。
そんな僕の義妹はニコニコ微笑みながら僕の手を引っ張って廊下を進む。
すぐに葉月ちゃんの部屋に着き、僕は彼女の部屋へ招かれる。
部屋に入った瞬間、繋いでいた手が離れたのが少し寂しい。
「お邪魔します」
「ふふっ、いらっしゃいませ。お兄さん」
可愛いすぎんだろーー!!
なに、自分の部屋に招いただけで赤い顔で対応しないでー!!
危ないぞ、僕はこの子となら一線を越えれる自信がある!!
……まぁ度胸は無いけど。
僕は昂るテンションを抑え、綺麗に整理された物の少ない部屋の中央に鎮座する。
が、しかし。
「あ、お兄さん……そっちじゃなくて、あの、こちらへ……」
「えっ?」
彼女が左手で示したのは自分の隣、ベッドに座る彼女の隣だった。
「分かった」
「……ありがとうございます」
……本当にどうしたんだろう。
まさか、告白か!?そうなのか!?
僕は少しドキドキしながらも葉月ちゃんの隣に座った。
「それで……どうしたの、葉月ちゃん?」
「……変、ですよね。すみません……でも私どうしてもお話しておきたい事があって……」
「……ど、どうぞ?」
え、これ本当に告白なんじゃ……!?
だ、駄目だよ!僕達は家族、血は繋がらないけど──
「姉さんとの関係について、お話があるんです……」
「……七海との……」
……期待なんてしてなかったからね?
「お兄さん、姉さんといつまでこんな関係続けるんですか……?」
僕が下らないことを考えてる間に、葉月ちゃんは本気で心配そうに僕の顔を見上げていた。
「姉さんとお兄さんがお付き合いしていた事は知っています。ですがこの一年と少し、ずっと他人のように振る舞うお二人をもう見てられません……!」
必死に言葉を紡ぐ葉月ちゃんの瞳は濡れていた。
……分かってるよ。言われなくたって。
僕達は両親に自分達の関係を知られないように、不干渉の約束をした。
表面上は仲良く、だが見る人が見れば違和感に気付いてしまう。そんな関係。
諍いを起こさないで済む簡単な方法、関わらない事を貫いてきた。
葉月ちゃんはそれを心配しているんだろう。
家族なのに喋らない、関わらない、そんな僕達の。
僕は優しい義妹の頭に手を乗せ、苦笑を浮かべた。
「ごめんね葉月ちゃん、心配掛けて」
「……この家でお二人の関係を知ってるのは私だけです。だからこそ……私は……」
「……ありがとう。でも仕方ないんだ」
「……仕方ない……ですか?」
「あぁ……」
僕はあの頃を少しだけ思い出し、とうとう泣いてしまった葉月ちゃんをあやすように話した。
「あいつと……七海とはもう今の関係以上にはなれない。マイナスだったものをゼロにしただけ偉いだろ?」
「でも、それでは──」
「居心地は悪い、な。でもそれが僕らが選んだ道なんだ。ごめんね葉月ちゃん」
「……私……は、私は……お兄さんと姉さんがまた……仲の良かったお二人になって、欲しい……です……!」
「葉月ちゃん……!?」
葉月ちゃんは泣きながら僕の体に抱き付いて来た。
「どうすればまた仲の良いお二人になってくれますか……!そうじゃないと私は……この気持ちを伝えられない……!」
「……この気持ち……?」
「!」
僕の胸の中でハッ、とした反応をした葉月ちゃん。
思わず聞き返してしまったがまずかったか……?
「……」
「葉月ちゃん……?」
彼女は僕の胸から離れ、泣き腫らした瞳で僕を見つめた。
「……お兄さんは……姉さんの事をどう想ってますか?」
「どうって……」
七海は憎たらしい女だ。
家事だって出来ない、口だって悪い。
ほんと、なんであんな女と付き合ったんだろ。
でも──
「……家族、かな」
「……」
「……あいつの事なんか大嫌いだ。別れたのだってあいつがいきなり……それでも、例えば僕はあいつが死んだらめちゃめちゃ泣くと思う。家族だからな」
葉月ちゃんは僕の答えに少し間を空けた後、無理をしたような顔で笑った。
「……お兄さんは嘘つきですね」
「え……嘘って──」
僕がその続きを口にする事は無かった。
──葉月ちゃんの唇が僕の唇を塞いだからだ。
「……んっ……」
唇を離さないまま、数秒が経過する。
正直言って僕の頭はパンク寸前だ。
ただキスを終えるほんの少し前、僅かによぎったのはあいつ──七海とのキスだった。
同じ柔らかさの唇、涙の味だって同じ。
キスをして息苦しくなるタイミングだってな。
「……ほら、お兄さん……今も姉さんとの事考えてる」
「……!」
キスを終えると同時に、葉月ちゃんは悲しい笑顔で僕の両頬に触れていた。
「いい加減、自分の気持ちに素直になった方が良い……です……よ…………」
「葉月ちゃん……?」
尻すぼみに声が小さくてなる葉月ちゃんは凄く青ざめた顔をしている。
ん?なに、僕とのキスが思ったより良く無かったの──
「ねぇ二人とも……今、何してたの???」
僕が振り返るとドアの隙間から天使の姉、鬼のお姉様がこちらを見ていた──
※
「そろそろはっきりしなさい。緋色君、葉月、あなた達、どういう関係なの?」
さて、現在に戻ってきた訳だけどなんて言い逃れるのが正解だと思う?
七海の奴がどこまで話を聞いていたかも分からないし……
だいたいあのキスの意味もはっきりとは分かってないし……
僕が冷や汗を掻きながら黙っていると、葉月ちゃんが慌てて立ち上がった。
「姉さん……!誤解なの、私がお兄さんを誘って……!」
「誘う?へぇ……あなた達、お互いに誘ったり誘われたりする関係なんだ」
「ち、違うぞ!?お前はとんでもない誤解をしている!」
「誤解……ねぇ……」
七海の威圧感に思わずごくり、と喉を鳴らしてしまう。
七海ははっきり言って美人だ。スタイルだって抜群に良い。胸も高校になって凄く大きくなった。
それに切れ長の目に葉月ちゃんと同じ漆黒の髪。
彼女はそれを腰の辺りまで伸ばし、お姉さんキャラまっしぐらな美人になってしまった。
……中身は子供のくせにな。
だが、そんな女の一睨みは強烈にクる。
本当に恐ろしい女だ。
僕達を非常に不愉快極まりないと言った表情で見下ろす七海は、僕ではなく葉月ちゃんの目の前に座り込んだ。
「……ねぇ、葉月。こんなのお母さん達にバレたら悲しむって分かるよね?」
「は……はい……」
「だったらさ、どうしてあんな事したの?」
僕は姉に怯える葉月ちゃんをこれ以上見ていられなかった。
気付くと口を挟んでいた。
「七海!責めるなら僕にしろ!葉月ちゃんは何も──」
『あんた(お兄さん)は黙ってて!』
「えぇ!?」
いや七海は分かるが、どうして葉月ちゃんまで!?
女の争いには口を出すなって事!?
「姉さん……私、ずっと言いたかった事があります」
「へぇ?なに?言ってごらんよ」
葉月ちゃんはさっきまでの怯えた様子から一転、立ち上がって今度は七海を見下ろした。
「お兄さんの事がまだ好きなら、さっさとそう言って下さい!!」
『は、はぁ!?』
今度ユニゾンをかましたのは僕達だった。
七海はすぐに顔を赤くして、ちらちらと僕を見ながら再び立ち上がった。
「ば、バカ言わないで!あたしがまだこの男を好き!?そんな訳ないでしょ!?」
その物言いに何故だか少し腹が立ったので、僕も立ち上がって葉月ちゃんを見る。
「葉月ちゃん、いくら何でもこの女が僕に未練が有る訳ないよ。……僕達が別れたのは七海が……」
「はぁ!?あんたのせいでしょ!?私、信じてたのに……緋色は浮気なんてしないって──」
「浮気……?なに言ってるんだ、僕がそんな事する訳──」
「そこまでです」
『!』
僕達の間を割くように葉月ちゃんが手を叩く。
「お二人とも、分かったでしょう?お二人はきっと話し合い不足だったんです。ほんの僅かなすれ違いだったんですよ」
「……どうかしら、この男はすぐ嘘をつくから」
「それは七海だろ。僕は嘘をついた事なんか無い」
「だったら……だったら何であの時……私は今でも……!」
葉月ちゃんがその先を口にさせるのを止めた。
「姉さん」
「……っ……!」
七海が今にも泣きそうな顔をして僕を見上げている。
随分久しぶりに目が合った気がするな。
……ったく、可愛いさばっかり磨きが掛かって。
僕はあの頃の、まだ垢抜けて無い君が──
「……くそ」
捨てた筈の想いが溢れそうになった所で蓋をする。
そんな僕の心情なんて七海には伝わる筈もなく、彼女は声を荒げていた。
「な、何よ!?文句があるなら言いなさいよ!」
「無いよ。それと葉月ちゃんとの事は誤解だ。キスの練習だよ。唇を重ねてしまったのは事故だ」
ペラペラと言ってて気付く。
あぁ、僕って意外と嘘つきなのかもしれないな。
そしてまぁこんなの信じて貰える訳はない。
「そんなの誰が信じるの!練習相手が必要ならあたしだって──」
「いや練習が必要だと言って迫ったのは僕だ」
「お兄さん!?」
……そこで葉月ちゃんが驚いたらバレるだろう。
しょうがない義妹だよ──
「七海、練習相手は別に誰でも良い。葉月ちゃんが駄目ならお前が相手してくれよ」
「なっ!?」
僕が一歩七海との距離を詰めると、彼女は同じように一歩後ろへ下がった。
「あ、あんた練習なんて必要……ない、でしょ……!あたしと何回も……!」
「そんなの一年以上も前だろ。ブランクが有りすぎて相手にヘタだと思われるのも嫌だしね」
言いながらどんどん距離を詰めて行った。
気が付けば七海を壁際まで追い込んでいた。
僕は七海の顎を手で引き、真っ赤になった彼女と見つめ合う。
「……ちょ、緋色……約束……あたし達、普通の義姉弟になろうって……キスなんかしたら……あたし……!」
「大丈夫、これは練習。僕達がまた恋人になるなんてそんなの──」
僕はそう口にしながら七海の唇に顔を近付けた。
もちろん途中で止めるつもりだったし、断じて興奮なんかしてなかった。
──だけどそんなのこの子には分からなかった。
「お兄さん!駄目です、やり過ぎですっ!!」
「おぉっと」
後ろからの葉月ちゃんの抱擁が僕と七海を引き離す。
ようやく距離を取れた安堵からか、七海はその場に座り込んだ。
「……ハァっ……ハァっ……」
七海は大量の汗を掻いたのか、額を腕で拭っている。
「あ……あんた……こんなの葉月にもやってたのね……!」
お、どうやら頭がパンクして良い感じに誤魔化せたみたいだな。
冷静になった時、思い返して葉月ちゃんが迫って来てたのを思い出さない事を祈ろう。
「も、もう良いわ……!あんた達……くれぐれも家の中でこれ以上変な事しないでよね。それと緋色……君」
「……なに」
七海は赤い顔を僕から隠しながらドアノブに手を掛けた。
「……キス……どうしてもしたいなら、葉月じゃなくあたしとしなさい。妹に手を出すな」
「妹を守る為、ねぇ?」
「そ、そうよ!別にあんたとのキスなんか数の内にも入らないんだから」
僕はチラリと葉月ちゃんを見た後、七海の背に向けて返事をした。
……分かったよ、ちゃんと話をするっって。
「……七海、また部屋に行く」
「! こ……このケダモノ。キスまでだからね……」
「違うよ。一度ちゃんと話をしよう。葉月ちゃんが心配するからな」
「……分かった」
そうして七海の襲来は終わった。
やれやれ……この生活が始まって一番ドキドキしたよ。心臓に悪いったらありゃしない。
「あの……お兄さん」
僕が床に座り込むと、ほっとしたような顔をした葉月ちゃんが僕の隣に正座で座る。
「姉さんと仲直り出来そうですか?」
「どうだろうね、ただどうやらお互いに誤解がありそうなのは確かだ。でもね」
「……?」
僕は葉月ちゃんの方を見ず、天井を見上げた。
「……僕らがやり直すってのはたぶん無理だ」
「……そうですか」
あれ、てっきり「どうしてですか!?」とか言われると思ったのに。
まぁ良いか。
僕は続きを口にした。
「……どんなにやっぱり好きだと言っても、どんなにやり直したいと思っても、あの日の言葉は消せないから……」
「構わないですよ」
「え?」
やっぱり今日の葉月ちゃんは変だ。
いきなりキスしてくるし、仲直りはして欲しいと言うのにやり直せとは言わない。
けれど七海への気持ちを再確認するように促してくる。
たぶん聞いても答えは返って来ない気がした。
だから僕ははぐらかす為にさっきのキスについて聞くことにした。
「ね、ねぇ葉月ちゃん、ところでさっきのキス……だけど、結局あれは──」
トンっ、と背中に重みを感じる。
葉月ちゃんが後ろから僕に抱き付いているんだ。
背中に彼女の姉譲りの豊満な胸が当たる。
「は、葉月ちゃん!?さっき七海に言われた事……!」
「関係ありません、私……怒ってるんですから」
「どうして!?」
ちょっと意味が分からな過ぎるよ!?
葉月ちゃんは段々と僕を抱き締める力を強くする。
「私、姉さんと仲直りして欲しいとは言いましたがやり直して欲しいとは言ってません」
「そ、そうだったね」
「はい。なのにあんな事して……お兄さん、次姉さんの部屋に行って何するつもりなんですか」
「な、なにって──」
ただ話し合うだけだろ?
キスなんてのは冗談と言うか、あの場を濁す飛び道具と言うか……
「絶対キスする事になりますよ。姉さん、頑固ですから」
「……ど、どうだろうね」
本当は分かってる。
あの女はあんなやり取りでも一度口にしたらやるだろうな。
本当に面倒な女。
「お兄さん……私、仲直りはして欲しいですけど、やり直しては欲しく無いんです。この意味分かりますか?」
「さ、さぁ……?」
あれ、言ってくれるのか?
葉月ちゃんはそのまま僕の耳元に口を寄せて囁くように呟いた。
「……お兄さんに私の気持ちを諦めさせて欲しいからですよ」
「……え?それってどういう──」
振り返って確認しようとすると、葉月ちゃんは既に僕の背中から離れていた。
そして泣き笑いのような顔をして僕を見下ろしている。
「キス……気持ち良かったですよ、お兄さん♡」
※
ドキドキが止まらない。
お兄さんとのキスがベッドに入っても頭から離れない。
……私はずるい女だ。
姉さんとお兄さんとがお付き合いするなんて見たくないのに、仲直りはして欲しいだなんて。
でも仕方ないんです。
お兄さんは私の初恋だったから──
お兄さんと姉さんがお付き合いしている頃、お母さんが夜遅くまで働いているのを良いことに、お兄さんは度々うちに来ていました。
要領が良いのか、必ずお母さんが帰って来る前に家を出てましたけど。
だからこそ家族になってからもお母さん達にお二人の関係は知られてないんですが。
さて、これはそんな風にお兄さんがうちに来ていたある日の事です。
お兄さんはうちに来た際、必ず私の相手もしてくれていました。
きっと本当の妹のように思っていたんでしょうね。
私も悪い気はしませんでした。
お兄さんが来るのを毎日楽しみにするくらいには。
「姉さん、今日はお兄さん来ないんですか?」
「もう少しで来るわよ。でも葉月……あなたあまり緋色にくっついたら駄目よ?」
「え、どうしてですか?」
そうです、私はお二人が会っている間のほとんどを一緒に過ごしてたんです。
今にして思えば邪魔だったんでしょうね。
この時の私はあまり気付いてはいませんでしたが。
「どうしてって……緋色はあたしの彼氏なのよ?少しは……」
「い、良いじゃないですか!それともお兄さんが嫌がってるんですか?」
「……緋色はあなたの事、気に入ってるわよ。だからこそ少し距離を……」
さすがの私もここまで言われたら理解します。
姉さんは私の事をお兄さんを誑かす女として見ている、と。
「分かりました……ごめんなさい姉さん……」
「う、ううん。ただちょっと、ね?もう少しだけ二人きりになりたいの。分かって貰えると嬉しい」
「……はい」
この頃、まだ私はお兄さんに対してのこの気持ちが何なのかを分かっていませんでした。
ただ年上のお兄さんが遊びに来てくれるというのが、凄くワクワクしてドキドキしてたんです。
それが姉さんの大事な人だと知って居ながら。
私は少しだけしょんぼりしながら自分の部屋へと戻りました。
いつもならリビングでお兄さん達とお話するのに……
「はぁ……」
思わずため息が溢れます。
そうして15分程スマホをいじっているとお兄さんがリビングに入った音が聞こえました。
リビングからは姉さんの幸せそうな声と、楽しそうなお兄さんの声が聞こえてきます。
いつもならあそこに私が居て、あの空間が私はとても好きでした。
そうして小一時間程二人の談笑を聞いていると、急にリビングが静かになりました。
もしかしてお喋りが終わって、今なら私が入っても怒られないかも知れません!
私はこそっと部屋を出て、リビングへ向かいました。
「お兄さ──」
私がドアノブに触れた瞬間、声が聞こえます。
『んっ……』
体が固まりました。
その光景に、姉さんの赤らんだ顔に。
──とても幸せそうにキスをする二人に。
私は慌てて自分の部屋へ戻り、ベッドへと飛び込みました。
嗚咽が聞こえないように布団で体全体を覆います。
涙が止まらなくて、そもそもなんで自分が泣いてるかも分かりません。
それでも次第に自分の気持ちに気付き始めます。
「……私っ……お兄さんの事が好きなんだ……!」
きっかけなんて無い。
ただあの優しくて少し意地悪なあの人に恋をしてたんだと気付いてしまいました。
そして同時に知りました。
「……胸が……痛いです……!!」
失恋はこんなにも苦しいんですね。
私はこの日、初恋と失恋を同時に味わいました。
この日から私はあまり二人の空間には近付かないようになりました。
この気持ちは伝えられない。
姉さんを悲しませてしまうから。
お兄さんを困らせてしまうから。
でも運命は悪戯で、なんと私をお兄さんの義妹にしてしまいました。
……こんなのあんまりですよ……!
どうすれば諦められるでしょう。
辿り着いた結論は一つでした。
お兄さんと姉さんに仲直りして貰いましょう。
けれど二人がまた付き合うのは気に入りません。
だからお兄さんには姉さんの気持ちを知って貰って、私は私のほんの少しのワガママを叶えよう。
そうすれば諦められるから。
例えまた二人が付き合ってもまぁ仕方ないとも思いますし。
だけど私は知ってしまいました。
諦め……られるでしょうか。
お兄さんとのキスはあまりにも甘美で、私の脳裏にこびりついて離れません。
ねぇお兄さん、教えて下さい。
どうすればこの恋を諦められますか?
お読み下さりありがとうございます!
少しでも良いと思って頂けましたら☆☆☆☆☆を★★★★★にして貰えたり、いいね、ブックマーク等頂戴出来ましたら幸いです!