心の声が聞こえる悪役令嬢は、今日も子犬殿下に翻弄される
読んでもらえたら、それだけで感謝。
『ぼん、きゅー、ぼーーーん』
美しく波打つ黄金色の髪と、鮮やかなエメラルドのアーモンド型の瞳。流し目で男性を見つめれば、その心を射抜くと言われる美貌の持ち主。そんなエレノア・ローンチェストはアプリの中の悪役令嬢である。
イラストはとても美しく、アプリの最初の画面には悪役令嬢であるエレノアに黒色の翼が生えたような絵が描かれていたのが印象的だった。
ヒロインよりも目立っていたような気がする。
イケメン貴族相手に心を奪いまくっている小悪魔な悪役令嬢であり、ヒロインは、そんな悪役令嬢に心を奪われたヒーロー達を攻略し、自分の方へと好意を向けるシステムである。
一部では略奪ゲームと呼ばれていたこのゲームだが、私はこのゲームの悪役令嬢、エレノアへと転生した一般的なユーザーである。
そして、エレノアへと転生した私は、今、心を病みそうな状況にある。
『まぁ、エレノア様ったらあんないやらしい体をして、男性を今にも誘惑しそうだわ』
『あー。いい。本当に、いい。エレノア様に夜相手をしてもらえたら、どれだけ幸せかな』
『美人美人と言われているが、これは小悪魔だなぁ』
『ぼん、きゅ、ぼーん』
頭の中を様々な声が駆け巡っていく中、私は大きくため息をついた。
エレノアに生まれ変わってから知った、裏設定。それは、エレノアには人の心が聞こえるということ。そしてそれらは大抵、エレノアにとってよくないことを知らせるのだ。
転生した私が最初に聞いたお母様の声には驚いた。
「まぁ、とっても可愛らしいわ」
『何で女の子なのよ。くそくそくそ。女の子じゃ意味ないわ』
最初は意味が分からなかったけれど、口では優しく私に愛情を注ごうとする女性が、心の中では男児を産めなかったことへの罵詈雑言を並べ立てていた時には、本気で泣いた。
そして、私はこれまでの十六年間の間で、人間とは本当に、内面と外面が違う生き物なのだなということを学び、何故ゲームの中のエレノアが、あれほどまでに男性の心を奪って遊んでいたのかについて、考察することができた。
エレノアはその容姿と美貌もあって、男性のむき出しの好意を向けられることが多い。
だからこそ、それで遊んでいたのかもしれない。
ある意味、エレノアの心は、今の私同様に病み、壊れていたのかもしれない。
『本当に、どうしてこの子は、こんな見た目なのかしら。母親の私が恥ずかしいわ』
『我が娘ながら、体と美貌はなかなかのものだな。王子殿下も気に入ることだろう。体を使い、王子殿下を篭絡してくれればいいのだが』
そんなことを考えている両親の横に並びながら、私は内心でため息をつく。
十六年間生きて来て、両親が自分を本当に愛していないことには気づいていた。
毎日並べ立てられる言葉と、その裏の自分に向けられる感情。
それらを知って、私の心は静かに冷めていた。
ゲームの中のようなエレノアになるつもりはない。けれど、人を愛せる気がしなかった。
「私は、ずっと一人で生きていくしかないのかしら」
私は小さな声でそう呟く。
シャンデリアの灯りが美しく輝く広いホールの中。
楽器の美しい調べと、人々のざわめきによって私の声はどこへ届くこともない。
第一王子殿下の婚約者を選定する、この舞踏会の会場内で、私は自分は一体これからどうなるのだろかという不安を感じていた。
ゲームの途中で転生した私は、このゲームの結末もしらない。
その時であった。
先程まではざわめいていた会場内が静寂に包まれ、盛大なファンファーレが鳴り響く。
空気が揺れる音を感じながら、両親に倣って頭を下げる。
「皆、よく集まってくれた。今宵は、我が息子、アシェル・リフェルタ・サランの婚約者を、美しい花達の中から考えていくつもりだ。この時間を楽しんでくれ」
『ふむ。まぁ第一候補はローンチェスト公爵家の妖艶姫か。あれだけの美貌の少女か。アシェルが羨ましいな』
ローワン・リフェルタ・サラン国王陛下の声が会場内によく響き渡る。
私の頭の中にはローワン陛下の心の声も同時に響いて聞こえる。
筆頭婚約者候補であることは、父からも聞かされていた。第一王子殿下アシェル様が私を気にいれば、この婚約は成立するだろうと、皆が思っている。
私は、不安で胸がいっぱいになる。
大丈夫だろうか。自分はちゃんと上手くやっていけるだろうかと思っていた時であった。
会場内に拍手が鳴り響き、夕焼けのように鮮やかな髪色をしたアシェル殿下が姿を現すと、澄んだ菫の瞳で会場内へと視線を向ける。
背の高いすらりとしたアシェル殿下は、会場内の令嬢の心を射止めていく。
私は、息を飲んだ。
「今日は、集まっていただき、感謝します。どうか、楽しい一時を一緒に過ごしましょう」
『緊張するなぁ。ふぅー。どうにか、頑張らないと。よーし。頑張るぞー』
アシェル殿下の声は、思いの他、とても少年らしい声色だった。
同じ十六歳ではあるが、その外見は第一王子として相応しく、凛々しく、溌剌としている。
貴族の令嬢達はもちろんその見た目にうっとりとしながら、頬を赤色に染めていく。
会場内を挨拶を交わしながら歩いていくアシェル殿下の姿を、私も目で追っていく。
「素敵な方ね。きっとファーストダンス、誘われるでしょうから、楽しんでね?」
『まぁ、素敵な殿下。私が若かったら、虜にしてみせたのに』
「エレノア。しっかりな」
『まぁ、殿下も年頃だからな。お前の体は大層気に入るだろうなぁ』
両親の言葉に、私は微笑を張り付けると。アシェル殿下がどんな声を心の中で囁こうとも、しっかりとしなければと思う。
そして、アシェル殿下が私の前の前へと進んでくると、にっこりと優しげな微笑を浮かべて言った。
「エレノア・ローンチェスト嬢。よろしければ、最初のダンスを踊る栄誉を、私にいただけないでしょうか?」
『わぁぁぁ。噛まずにいえたぁぁ。良かった。わぁ。ドキドキしたなぁ』
一瞬、噴き出しそうになるのを私はぐっと堪える。
見た目はキラキラとした王子様である。
微笑む姿は、どのご令嬢も頬を赤く染める。
「よろこんで」
どうにか私がそう言って手を取る。
「では、行きましょう」
『わぁぁぁ。緊張するなぁ。それにしても、エレノア嬢は可愛いなぁ。うん。わぁぁぁ。緊張する。手、ほっそ。これは折れるよ?折れちゃうよ?えーー。女の子ってもうちょっと太った方がいいと思う』
私は奥歯をぐっと噛む。
手が震えそうになるのを堪えて、ダンスホールへとアシェル殿下と進んで行くと、向かい合わせになり、そして手を添え、そしてアシェル殿下の手が腰へと触れる。
「よろしくお願いしますね」
『腰ほそぉぉぉぉぉ。どうしよう。折れちゃう。折れちゃうよ』
折れません。内心、奥歯をぐっと噛んで堪えながら私は音楽に集中する。
はっきり言えば、ダンスは完璧である。
アシェル殿下は何一つ問題なくダンスのステップを踏み、しっかりと私をリードしてくれる。
見た目には微笑を携え、完璧なる王子様である。しかし、その心は嵐のように、雄叫びを上げていた。
『わぁぁぁ。ダンス上手いなぁ。僕、大丈夫かな? しっかりリード出来てる? わぁぁ。下手くそとか思われてたらどうしようかなぁ。えぇぇ? 大丈夫? え? 僕、大丈夫?』
私は奥歯がいつか折れるのではないかと言うくらいに、ぐっと力を入れる。
可愛い。
うん。可愛い!
アシェル王子殿下、本当に可愛い!
私はこの世界に生まれて初めて、男性を心から可愛いと思った。そして私は、これからこの心の声の可愛らしい子犬殿下に翻弄されていくのであった。
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