7.オレだって傷ついた
7.オレだって傷ついた
「……ほんと、何、してるの」
菫咲く宵闇色の瞳が、少し呆れたような色を浮かべてミウを見下ろす。
後ろに倒れたミウをサラが抱き止めたらしい。
おかげで後頭部を強打する事もなく、ミウは無事に生還した。
そっとサラが抱き止めたミウの肩から手を離す。
「えと……。ありがとうございました」
少しよろめきつつ体勢を立て直し、ミウが離れる。
「サラ先輩、何でここに?」
「携帯端末に、メッセージ、送った、のに、無視、した、でしょ」
「あ」
確かにサラからメッセージが入っていたが、ミウとしては例の嫌がらせめいた交際提案に気が立っていた事もあり、サラの言う通り無視を決め込んでいた。
思わず気まずさにミウの視線が泳ぐ。
「…………それと、ルーちゃんから、視察の話、もらったから、打ち合わせ、しとこうって、思って」
職場で帰ったと聞いて家の方に来たらしい。まだ帰っていなかったから、探しに来たようだ。
「そしたら、こんな事に、なってる、し」
「う。すみません……」
ジト……という視線が痛い。
あちらこちらと視線を彷徨わせ、やがてミウは黙って自分を見ているサラへと恐る恐る目を向けた。
「サラ先輩……怒ってます?」
普通に考えて、怒られても仕方ない事をした自覚はある。嫌われる可能性だってある。
ミウの問いにサラが視線のジトリ感はそのままに、口を開く。
「怒ってるよ。オレだって傷ついた」
そりゃそうだ。いくら人形じみていても、サラは生きているし、心もある。あれだけ無理とか嫌がらせとか友人に連呼されたら、メンタルがいくら強靭でも少しは気になるだろう。
――八つ当たり、し過ぎちゃったよね……。
いくら失恋に気が立っていたとはいえ、言い過ぎたし、大人気ない態度を取りすぎた。
「ごめんなさい」
改めて謝るミウに、サラは一つ息を吐く。
「いい、よ。ルーちゃんの事、本当に、好きだったの、知ってるし。ショックも、わかる」
いつもの視線と声に戻ったサラに、ミウも少しだけ身体から余計な力が抜けた。
自業自得とは言え、やはり友人に嫌われるのは嫌だから。
「でも。無理、は、納得、してない、から」
「……いや、それは言い方は変わりますけど意味は変わりませんよ?」
「なんで」
何でと言われましても。
「サラ先輩ですし」
「存在、否定されてる、ように、思えるんだけど」
真顔で返してしまったミウに、サラがやや面白くないという表情を浮かべた。でも無理なものは無理。
「そういうわけじゃないですけど、サラ先輩はデリカシーが無さすぎです。あんな時にあんな提案してくるとかあり得ないですよ」
――いくら行き遅れるのにあたしが遠い目をしたとしても、失恋した女の子にすぐ次、しかも軽い感じで自分をすすめるのは無い。
「そういう基本的なデリカシーがない人は無理です」
「…………」
「でも、まあ、あたしも強く言い過ぎました」
そこは反省しよう。自分もデリカシーがなかったな、とミウは溜め息をつく。結局、どっちもどっちだった感があり、何か疲れた。
ふと、ミウはサラを見て首を傾げる。
「……怒ってたのに、助けてくれたんですね?」
割りと酷い事を言ったと思うし、怒っていたのならなおさら。そんな相手をわざわざ助けてくれたのが、少しだけ不思議で。
そんなミウの言葉に、サラは軽く眉根を寄せた。
「あのね……。確かに、怒ってた、けど」
先程よりも明確に、サラが不機嫌そうに、拗ねるように言う。
「それは、友人を見捨てる理由、にはならない、でしょ」
「え」
「まして、それが大切な子なら」
それだけ言って、くるりとサラが踵を返す。
「じゃあ、ね。今度は、無視、しないで」
「あ」
それだけ言うと、転移石で転移し、サラの姿がそこから消える。
「友人……」
――サラ先輩、あたしの事、友人て思ってたんだ。
勿論、ミウは友人としてみていたが、てっきりサラにとってはシェルディナードのオマケ的な認識かと思っていたので、ちょっと驚いた。ちゃんと人扱いされていたらしいのが驚きという所は何かが間違っている気がしないでもない。
大晦日。今年もお疲れ様でした。
明日の元日も更新予定です。良いお年を。