4.寝言は寝て言って下さい
4.寝言は寝て言って下さい
「無理って、何」
「いや、無理は無理です。サラ先輩寝ぼけてるんですか?」
寝言は寝て言って下さい。
「寝ぼけて、ないけど?」
「なお悪いです。ほんっとに、昔っから、デリカシーが無いですよね!」
「答えに、なってない」
ムッとした声なのに表情は作り物みたいに変わらないのが人形ぽい。
「何がですか!」
本当に人形のようで、血が通ってないみたいに思えて。
「無理って、何」
「サラ先輩そのものがデリカシーはないし、何考えてるのかわからないし、いつもいっつも!」
顔と頭に血が上る。無意識に両手でスカートを握って、覗き込んでくるようなサラの紫藍の瞳を睨み付ける。その人形みたいな男性はいつだって変わらない。
「サラ先輩にはあたしの気持ちなんてわかりません!」
◆◆◆◇◆◆◆
――自分の気持ちを、オレがわからない、と。彼女は言った。
「それなら、教えて、よ」
「はい?」
深く濃い森の色をした大きな瞳が、湖面に風が走ったように揺らいでいる。泣く寸前の、彼女の顔だ。
「オレ、が、ミウの気持ち、わからないって、言うなら。教えてよ」
逃げられそうな気がして、片手を頬に差し伸べると、その小さな肩、身体がびくりと震えた。
「ひぇっ」
そんな声のオマケつき。
「な、なな、なん!?」
「わからないって、言うなら、ミウがオレに、教えて」
「そっ、んなのは! 相手を見て聞いて理解して自分で考えるものなんですぅっ! そういうトコですよ! サラ先輩がわかってないのは!」
「相手を、見て、聞いて、……考え、る?」
「そうです!」
「じゃあ、オレが、ミウのこと、見て、聞いて、考えれば、良いの?」
「他に何があります!?」
ふぅん……。
じゃあ、と。サラは緑の髪に隠れていたウサギのような長い垂れ耳の端を片手の指先で軽く捉える。
「ひぎゃ!? ちょっと! 何すんですかー!!」
「じゃあ、デートしよ」
「はあ!?」
パッと手を離し、サラは再び一歩離れて距離をおく。あまり近いと身長差的にミウが見上げなければいけないからだ。
「ミウの、時間、少しオレに、ちょうだい」
「いやいやいや、何言ってんですか!?」
「ミウの気持ち。理解するには、オレが、自分で見て聞いて、考えなきゃ、いけないんでしょ?」
そう言ったよね?
なんてサラに首を傾げられては、自分で言った手前、ミウも言葉を詰まらせる。
「なら、ミウを理解する時間、オレにちょうだい」
「…………」
「じゃないと、無理って、言われても、オレ、わかんない、よ」
淡々とした声には暖かみを感じられず、それが余計にサラという者を人形じみて感じさせる。
それが怖いと思われていそうでもあるのだが、得てして本人だけが気づかない。
「別に、その、無理なのはサラ先輩がデリカシーがなくて何考えてるのかわからないところとかなので」
「何考えてるのか、わからないなら、余計……時間、欲しいんだけど」
「サラ先輩、どうしたんですか? もしかして何か術掛かってます? 変なもの食べました? またはこれが本当の嫌がらせですか!?」
「だから……。嫌がらせ、じゃ、ない、よ」
どことなーく、サラの瞳に不満そうな色が浮かぶ。
「何で、ミウは、嫌がらせって思う、の」
「えぇ~……。だって、そうとしか」
「違う、よ」
「…………」
「じゃあ、そういう、こと、で」
そこで終わりかと思ってミウは強張っていた身体の力を抜いた。のだが。
「次の週末、迎えにいく、から」
「……………………え。何でですか!?」
「何でも、何も……デート、するから」
「あたし了承してませんけど!」
ミウの言葉に、サラがキョトンとする。
「その『了承、いるの?』って顔やめてもらえませんか!? 普通要るんですよ!」
「じゃあ、了承、して」
「本気でいい加減にしてくれません!?」
そろそろミウの喉も枯れそうだ。
「だいたい……サラ先輩、本当にあたしを好きなんですか? 好きだと思ったの、いつですか」
緑の瞳がじとりとしてサラを見つめる。
そして、サラが出した答えは。
「昨日、かな……」
その返答に、プチっと何かが切れる音がした。
「~っサラ先輩のぉぉ、馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!」
年内休まず更新予定です。明日も更新します。