33.絶対手加減した事を後悔させてやる
33.絶対手加減した事を後悔させてやる
――サラ先輩を絶対倒す。
本当なら泣かしてやりたい所だが理想とか夢を通り越して妄想の域になるので考えない。
ただ絶対手加減した事を後悔させてやる。
そんな思いを胸に、ミウは試合部屋の予約を入れて、水族館のレポートを絶賛作成中。
頭にきてもお仕事は忘れない。
――何で最後の最後でああいうこと言いますかね!?
デートの余韻も何もあったもんじゃない。全部吹き飛んだ。
――いや、そもそもお仕事だし、『異性の友人』との遊びに行った設定ですけどね!
断じてあれはデートではない。
怒りに任せて作成速度が通常の倍になる。
――そりゃ、愚痴を聞いてもらったりそれで迷惑かけてるのに気にしないでくれるのはありがたいですけど! アレはない!
ダダン! とレポート最後の一文字を打ち終わり、送信。
途端にミウは自室の机から離れて寝台へと仰向けにダイブした。
寝台の頭側、脚と一体化した柱の一つには今回使用したポーチが掛けられている。それを横目にしつつ、ミウはため息をつく。
「サラ先輩のバーカ」
本当に、わからない。わかってない。
――シェルディナード先輩も大概だけど、サラ先輩はもっと何考えてるかわかんない。
嫁に来るかと冗談言ってからかったり、喧嘩売ってきたり。
――大体、サラ先輩は初対面の頃からデリカシーがなさ過ぎる! お貴族様の教育に無いんですか!
手近にあったクッションを腹の上で抱え込み、ムカムカのままに締め上げる。
「……はあ」
とは言え、サラのデリカシーの無さはもうデフォルトと認識しているミウである。
いちいち気にしていたら神経がもたない。
「…………まぁ、おかげで」
失恋の痛みも和らいだ。気が紛れたとも言う。
完全に消えるにはまだ時間が必要で、もしかしたら一生綺麗サッパリとはいかないかも知れないけれど。
泣いたし愚痴ったし。それで随分、救われている。
だというのに『無いわ』という感情がふつふつ湧くのはどう考えてもサラが悪い。
「言いそびれた……」
そのせいで、今日のお礼を言いそびれた。
家の前で別れた時に一応口に出してはいたが、ギリギリ最低限の礼儀として口にしただけ。
ゴロンと寝返りを打ち、ミウは腕を伸ばしてポーチの中からラッピングされた香水の箱を取り出す。
無いわで締めくくられ、それ以上に闘争心を掻き立てられる印象で終わった水族館だったが、嬉しい楽しいと感じた事だって勿論あった。
「…………」
じっと香水を見つめたミウの口許に、微かな笑みが浮かぶ。
「サラ先輩に勝ったら、また弾いてもらおうかな」
手加減した事を後悔させた後、何でもお願いを聞いてくれると言ったのだから、水族館で弾いた曲をもう一度弾いてもらおう。
あの設備はないけれど、あの曲は気に入った。
きっとあれはどこで聴いても、ミウにとって心地よいと思うから。
今回の『お話』としてはこれで最後です。
読んで下さってありがとうございました。
オマケを明日更新予定ですが、蛇足になるので読まなくても問題ありません。




