3.男運が悪すぎるのか女子力が足りないのか
3.男運が悪すぎるのか女子力が足りないのか
「無いよね。ほんっっっとに、無い」
「あらあら」
「ミウ……お疲れ」
休日の昼下がり。ミウは友人達と女子会をサラ達とは別のカフェで開いていた。あちらのオープンテラスと打って変わって、こちらは田舎のお屋敷の屋根裏をコンセプトにしたカフェの屋内。三階の奥にあるスペースだ。
ちょっとお洒落でメニューも可愛いし美味しいのだが、現在それどころではなかった。
「普通、そんな嫌がらせする!? そりゃ、先輩からしたら迷惑なのわかってるけどっ!」
「そうねぇ……」
荒れるミウを優しくも少し生暖かく見守るのは、ミウを怒らせた件の先輩と同じく高等部からの友人二人。
あらあらと片手を頬にあててふんわり微笑む灰色の髪と一対の角をもつ女性はエイミー。
薄桃色のふわっとした短い髪と焦げ茶色の翼を持って、若干気だるそうな雰囲気を漂わせている女性はアルデラだ。
「ドンマイ」
なお、アルデラは雰囲気こそ気だるげだが、それが通常である。
「んー。でも、それ本当に嫌がらせなのかしら?」
「え」
「そんなに私は付き合いと言うほどのやり取りは記憶にないけれど、リブラの若様って嫌がらせでそういう事する方には、思えないのよね」
「いや、いやいや。嫌がらせだよ! だって、嫌がらせじゃなきゃ」
「本気って事になるわねぇ。うふふ」
「うふふ、じゃないよ!?」
――本気!? 無い無い無い!
「無いから! あたしのトラウマの半分はサラ先輩だからね!?」
もうサラの存在自体がトラウマと言っても過言ではない勢いでミウが叫ぶ。
「あたし、男運が悪すぎるの? それとも女子力が足りないの!?」
まともな相手がいないのは、男運が悪すぎるのか女子力が足りないのか。
「いや、でもさー。そうは言うけど、普通だったらむしろ大喜びして冗談でも言質取ったって事にして最速で進めるもんだと思うよ?」
ストローでずずーっとグラスの中のジンジャエールを啜ってアルデラが言う。
「アルデラちゃんまで!?」
「だって、アタシはあの人無理だけど、顔も良いし財産も地位もあるし。……世の大半の女性陣だったらギラギラした視線送るでしょ」
「あたしは無理!」
「ふふ。でも、本気か嫌がらせかわからないなら、もう一度会って聞いてみるのが一番良いんじゃないかしら」
エイミーは微笑んでミントの浮かぶアイスハーブティーに口をつける。
「そうだよ。聞けばわかるし。もし嫌がらせだったらそこまで。本気ならむしろちゃんと断った方が良いんじゃない? 相手、もう慣れすぎてそんな気がミウはしないんだろうけど、貴族だよ?」
しかも冗談じゃなく頂点の。
「う。……でも」
「お話も聞いて下さって、お店の支払いもして下さったのでしょう?」
「……そう、だね。あたしも気が立ってたから失礼なこと言っちゃったし、それは謝らないといけない、とは思ってる」
でも、冗談にしろ本気にしろあのタイミングは無い。
――そんな簡単に割り切れたら絡まない!
結構な時間想った相手にフラれた所であの台詞(提案)は無い。そんなのでうっかりでも了承するほど軽い心じゃないのだ。
失恋を友達に嘆いた帰り道。
家の前に不審者がいました。
「…………あ。帰って、きた」
「サラ先輩!?」
――何でいるの!? この先輩!
夕闇に溶けそうな件の無いわー先輩が、家の前に居た。
門……と言っても腰くらいの高さで、玄関の扉との距離はそこから十歩以内。前庭を通る小さな石畳もあるそこで、いつものように白いブラウスと黒いズボンとその上に足首まである同色の巻きスカート、ややヒールのある靴といった装いをした、緋金髪の女性と見紛う美貌の青年が。
「何で先輩が」
「昨日、いきなり帰った、から」
「そっ、れは、その……すみません、でした」
「…………。いいけど。あと、何か、誤解、してる? みたいだった、から」
「はあ。誤解……?」
サラはミウを見た。
「嫌がらせ、じゃ、ない、よ?」
「……………………ん? んん?」
何か言ったぞこの先輩。
ミウが思わず固まると、サラはゆっくりミウの目の前まで歩き、視線を合わせるように身を屈め乗り出した。
「オレの、お嫁さんに、なる?」
――は?
「って、嫌がらせじゃ、ないよ」
「無理です」
男運が悪いのか、女子力が足りなくて良いのが捕まえられないのか。どちらでしょうか?
明日も更新予定です。