兄さんと話したいだけ。
「改めまして、私の名前は坂崎つぐみです。学級委員長になりました、宜しくお願い致します!」
坂崎さんは改めて深々と頭を下げて自己紹介をしてくる。
「あの……私は坂崎さんと馴れ合うつもりはありませんよ? ただ、さっきはたまたま話が合った、そして先程の……何という名前でしたっけ……。とにかくあの男がきにいらなかった。それだけですので。」
やはり俺の淡い期待は打ち砕かれる。どうやら、澪はクラスメイトと仲良くなる気はこれっぽっちも無いらしい。
澪は以前からそうだった。家族以外とは極力接触を避け、群れる事や友人を作る事を極端に嫌う傾向にあった。それが中学三年生になる頃には更に酷くなり、徹底的に自分に近寄る者を拒絶していった。
その為、見た目も良く運動神経抜群で、成績優秀で社交性が高そうなのに誰とも絡まない澪は、『お高くとまってる』『私達の事を見下している』等と陰口を叩かれる事もあった。
高校生になり、知り合いも殆どいないから友達を作るのには絶好のチャンスだというのに……。
「わ、私から一方的に話すだけでも……駄目ですか!?」
ぉお!?意外と坂崎さんは執念深いというか、食いついていくタイプなんだな……。
「迷惑です。」
「迷惑にならない程度にします!」
「今がまさに迷惑なんですよ!」
「なら、今日はこれ以上は話しません!」
「あぁ、もう!…………す、好きにすればいいです。でも、私から話しかける事は無いですよ!?」
初めて澪が折れた瞬間だった。今までもしつこい奴等は大勢いたのに、何故。
ーーーーまぁいいか、取り敢えずは澪にも話しかけてくれる人ができた訳だし、これを機に他の生徒達とも仲良くしてくれたら……。
俺は終礼まで、澪の様子を見ていたのだが、あれから誰かに話し掛けられた様子は全くもって皆無だった。
俺でも『木村』と『安永』という話し相手が出来たというのに……澪は本当にそれで良いのだろうか。
「兄さん、お待たせ致しました!さぁ、帰りましょう!」
澪は授業が終わった途端に、シュバババッと帰り支度を済ませて、俺の元にやってくる。
「あ、あぁ……、今行く……。」
俺は坂崎さんをチラッと横目で見るが、彼女はどうやら学級委員長という立場からか、他の生徒達から雑用を押し付けられていた。
「澪、少し時間いいか?」
「え、あ、はい。いいですが……珍しいですね、兄さんが。……やり残した事でもあるんですか?」
俺は澪の言葉に頷くと、とある場所を指差す。
「坂崎さんを手伝うぞ。」