限定。
「今年限定のくじ引き……種目ですか。」
俺に言われた通り、澪は新聞部の「弘中千秋」さんを連れて、会議室まで戻ってきた。 俺はすぐさま弘中さんと澪に向けて発案をする。
「そうだ。今年限定と銘打って特別感を出し、これまで高校生になったら保護者を連れて来ないという発想そのものを覆す。 つまり今回のこの限定くじ引き種目は、親子で初めて成立する特別種目だ。」
「しかし兄さん……。 保護者はそれである程度、家族の絆を強くするという意味では納得してくださるかもしれませんが、問題は生徒達にやる気があるかどうかです。 正直、先ほど兄さんがおっしゃられたように、体育祭や文化祭などの行事には、親を連れて来たくないという生徒たちも少なからずと思います。 そういった方たちにはどう対応するのでしょうか……。」
俺のぶっ飛んだ発案にさすがの澪も、今回ばかりは否定的なようだ。
「簡単なことだ。物で釣る。」
本来ならば、こんな姑息な手を使いたくはないが、いかんせん状況が状況だ。
「澪、忘れたか? 俺の父親の本業を。」
「あっ…………!」
俺の言葉にはっとしたように澪が驚く。 俺の父親は、会社をいくつも経営している経営者だ。その中にはもちろんお土産屋やギフトショップなんていうものもあり、会社には化粧品サンプルや食品類のギフト、雑貨類等が多数保管されているのだ。
「そう。さっき、親父に今回の話をしたら、使用許可が下りた。これを使い、今回のくじ引きで優勝・準優勝を取ったチームに景品を配るという形にする。 そして、今回のこの計画を、新聞部の弘中さんにスクープにして、学校の掲示板に貼り出してほしい。 そして今回、先生達があまり乗り気でなかったのは、『この限定クジをやる事をなるべく隠しておきたかったから。』という風に書いて欲しいんだ。」
「なるほど!そうすれば、確かに今回の保護者騒動はさほど大きくならずに済むかもしれませんね! さすがは兄さんです!」
「確かにこのネタはウマそうなネタではあるわね。 でも樹山君のしている話はあくまで『机上の空論』でしかないわ。 そのためにはまず、他のクラスの実行委員達も集め、教師達にこのクジの事を説明するべきではないかしら。」
「わかってるよ。先生達には、今から俺が説明をしに行くところだ。澪には他のクラスの実行委員達に連絡を取ってほしい。」
「分かりました!」
「き、樹山君!わ、私も実行委員だから一緒に協力させて欲しい!」
俺と澪、弘中さん、そして中野さんも加わり、俺達の体育祭へ向けての行動が始まった。




