何者?
「ね、ねぇ樹山君!? 樹山君って一体何者……!?」
校長室から会議室へと戻る俺と中野さん。廊下を歩いていると、不意に後ろから中野さんが問いかけてくる。
「何者って、いつも通りだけど……。」
「中学時代の樹山君とどこか違う気がして……。」
「いや、そりゃもう高校生なんだから、違ってても当然じゃないかな……。」
「でも、校長先生と教頭先生をあんなにも簡単に納得させちゃうなんて……。学校じゃ校長先生も教頭先生も、すごい怖い人だって噂だよ?」
確かに中野さんの言うとおり、あのお二方は本当はとっても怖い人達だ。 だけど校長先生も教頭先生も俺に優しい理由は、『二人とも俺の父さんのことが好きだったから』だ。
こんなどうしようもなくくだらない理由を中野さんに説明したところで、納得してくれるわけないんだよな。
そう、校長先生も教頭先生も未だに俺の父親に未練タラタラで、父親が既に再婚しているのを知りつつも、俺に甘くする事で何とか取り入ってもらおうとしているお馬鹿共なのだ。
ーーーー父親は再婚していてラブラブだから取り入るなんて無理だっつーの。
「まぁ、何かあるんじゃないの?俺にはよくわかんないけど、でもまあとにかく、これで会議を開いてくれる事になるから何とかなるでしょ。」
校長先生と教頭先生のタッグだったら、教師達も参加せざるを得ないだろう。
「でも樹山君。他のクラスの実行委員さん達はどうしよう……。」
確かに先生達の件は解決したが、他のクラスの実行委員達の不満は残ったままだ。
他のクラスの実行委員達を呼び戻し、尚かつやる気にさせる妙案は無いものだろうか……。
おそらく、他クラスの実行委員達の殆どは、自宅に帰って両親にこの事を話すに違いない。
貴重な塾の時間を割いて実行委員に出向いたというのに、担当の教師がいなかった。
そんな事になれば、保護者達は黙ってはいないだろう……。
ーーーー何ていう馬鹿な事をしてくれたんだ、教師共は……。
「ここはもう謝罪自体は先生達に任せて、俺と中野さんで何とか体育祭の準備を進められるだけ進めよう。」
元はと言えば、体育祭の準備を怠った教師達の無責任さが招いたものだ。
そこに対しては俺と中野さんは関与せず、体育祭の準備だけを黙々と進めていく事だけに専念した。 これで体育祭まで出来ないなんて言ったら目も当てられないからな。
「で、でも大丈夫かな……私と樹山君の二人だけで……。」
中野さんが不安がるのも当然の事だ。もともと体育祭の準備なんて二人で出来る事じゃないからな……。 でもこのまま何もせずに終わらせる事だけはしたくなかった。
「大丈夫だって、なんとかなるよ!」
「そうですよ、兄さんは有言実行型なんです!」
会議室でうなだれていた俺と中野さんだったが、不意に声をかけられ振り返ると、会議室の入り口で立っている澪の姿があった。




