そんなに重要か?
「コラー!新入早々、何をラメ入りタイツを穿いとるかー!」
校門で何やら大声で怒声をあげている青ジャージ男が一人。
ガタイが良く、身長も190センチあるくらい。髭を生やし、髪はボサボサな為、一瞬ゴリラなんじゃないかと思う程だ。
俺は早速、念の為にとポケットに入れておいたボイスレコーダーの録音スイッチを入れる。
「おいソコー!タイツが薄過ぎだろー!40デニール以上にしろー!」
「キモッ……………!」
「何、教師がデニール管理してんの!? 脚ばっかり見て変態なんじゃない!?」
「うわ、またアイツ女子狙いだよ……ウザッ!」
上級生の女子生徒達は、もう既にこの教師?には慣れっこらしく、タタッと小走りで逃げて行ってしまい、男子生徒達も悪態をついている。
「こらそこのお前!何だその髪色は!」
どさくさに紛れて、そそくさと立ち去ろうとした俺と澪だったが、校門で見事にゴリラ教師に捕まってしまう。
「何って…………コレは地毛ですが何か?」
澪の塩対応っぷりはこの通り、教師に対しても向けられる。なので、教師からも目が付けられやすいのは事実。
「こんな茶色の地毛があるか!!だらしない!シャキッと黒髪にしてこんか!」
いつの時代の話をしているのだろうか……。地毛が茶色や金髪の子なんて大勢いるだろうに。
「は?お言葉ですが…………に、兄さん!?」
澪がゴリラ教師に噛みつきかけたその時、俺は澪の前に立ち塞がった。
「何だお前は。」
「俺はこの女子生徒の兄です。先程から聞いてましたけど、地毛が茶色の子だっているんですよ。」
俺は制服のポケットから昔の澪の写真を見せる。
「こんなに小さな頃から茶色の髪をしています。染色した髪が駄目なら黒髪には出来ません。地毛ですから。 そもそも地毛が茶色であるにも関わらず、黒髪ではないといけない理由は何ですか? そして、先生が言う『だらしない』『シャキッとしろ』というお言葉は澪には当てはまりません。 むしろ、ヒゲを伸ばし放題で、髪がボサボサな先生の方が当てはまるのではないですか? あと、教師ならば、スーツで来たらいかがですか?」
「何ださっきから偉そうに!教師がジャージで来て何が悪い!そんなのは決めつけだ!ジャージだろうが何だろうが、教職を全うしとるわ!髪型だって規則は無い!ボサボサでも、お前には迷惑掛けとらん!」
「なら地毛が茶髪でも迷惑掛けてませんし、問題は無いですね。澪は授業をしっかりと受ける真面目な生徒です。」
そう言って俺は澪の手を引き、強引に学校内に入っていった。
俺達の後ろからは生徒達の、ゴリラ教師に対する小馬鹿にした様な笑い声が聞こえてくる。普段から相当な顰蹙をかっていたのだろう。
「………い、いいのですか!?あれだと兄さんが悪者になってしまいますよ!?」
「いいの、いいの! 世が世なら、あの発言の数々はセクハラもんだし、理由も聞かずに頭ごなしに叱りつけてちゃ、誰も言う事聞かないって。それに、俺に怒りの矛先が向いてくれた方のがありがたいって。」
正直、妹達が地毛の事でコンプレックスを感じているのは分かっていたし、その事で妹達が悲しい目に遭うなら、俺が代わりに睨まれたほうがずっとか気が楽だ。
「……………に、兄さん!!」
澪は急に立ち止まり、両手で俺の手を引く。
「っと、どうした?まだ言い足りなかったか?俺じゃなくて自分で言いたかったか?」
俺がしゃしゃり出て、澪は言いたい事を伝えられずに、俺が勝手な事ばかり話してたら、そりゃ澪はモヤモヤが残るよな……。
「ち、違います!……あ、ありがとうございました……。凄くスッキリしました!」
澪のすっきりした笑顔を見れて嬉しかった。やっぱり妹達には笑っていて欲しいから。