話が噛み合わない。
ここは俺達の住んでいる住宅街から三区画程離れた場所にある閑静な『高級住宅街』だ。
外観もこだわっているようで、雨やホコリ等から外壁を清潔に守るような特殊な構造をしているのか、苔汚れや黒ずみ等がほとんど見られない。
そんな高級住宅街でも、一際大きな三階建の豪邸に彼女『坂崎つぐみ』は住んでいるようだ。
俺も親の仕事の関係上、この辺の高級住宅街の人達とは仲良くさせてもらっている。
偏見を持つのは良くないことだとは思いつつも『高級住宅街の人達とは意見が合わなさそう』と、ある程度一定の距離を置くようにしていた。
ーーーーまさかそんな高級住宅街に、彼女がいるとは……。
俺はその外観に圧倒されながらも、表札が『坂崎』である事を確認すると、おそるおそるモニター付インターホンを押した。
『はい…………って、樹山君!? どうしてここが!?』
モニター付きのインターホンが聞こえてきた声は、坂崎さん本人の声だった。
急に俺が訪問してきた事に動揺を隠せないでいるのか、彼女の声は慌てふためいている様に聞こえる。
「実は急に来たのは、坂崎さんに謝りたいと思って来たんだ。グループメッセージで勝手に俺の感情をぶつけてしまって本当に悪いと思っている。 坂崎さんの本当の気持ちを汲み取れずに、勝手な意見ばっかり述べて、本当にすまなかったと思っている……。」
『うぅん、私こそ傲慢な意見ばっかり言って本当に悪かったと思っている。心のどこかで、樹山君を誰かに取られちゃうんじゃないかってそんな事ばっかり考えてた。 だからそんな事を考える内に、みんなに樹山君を取られないように私があのグループメッセージを乗っ取る事で、誰も樹山君に近付けないようにしたの。 でも知らなかった……いつのまにか樹山君自身もあのグループメンバーに入っていたなんて……初めからあんな態度取らなければよかった。』
やはり彼女はあのグループメッセージメンバーに俺がいる事を、認識していなかったようだ。
「坂崎さんは、いつ学校を転校するの?」
『え………………。』
「ほら、だってお父さんの仕事の関係とかあるでしょ? だったらもう日程とか決まってるのかって思って。」
『私、引っ越さないよ?』
「だって、お父さんの仕事の関係上、引っ越さないと行けなくなったって……。」
『誰が言ってたの?私のお父さん?』
そうだった、迂闊だった! 坂崎さん自身からも、坂崎さんのお父さんからも、引越しの話を直接聞いてはいない! 坂崎さんからも、それらしいフリも無かった……!
「兄さん、コレは多分…………。」
おそらく妹の澪の予想は当たっている。あんのクソたぬきジジイが!!
『ど、どういう事!?』
坂崎さんはインターホン越しに狼狽えているようだった。
「また今日詳しく話すから、絶対にメッセージには出てね、じゃあ!」
俺はすぐさま父親の元に向かって走り出していた。




