家族。その2
「そもそも家族ってのは、お互いにいがみ合って暮らしていくものじゃないと思うんだが。」
俺は一階のリビングに降りて、テーブルの椅子に澪と梓を座らせて話をする事にした。
以前から二人は何かといがみ合い、喧嘩ばかりを繰り返してきていたから、この辺りで手打ちとしたかったのだ。
「兄さんがそこまで言われるのであれば、譲歩しない訳でもありませんが……。」
「はぁ!?お姉ちゃん、何その上から目線!マジでムカつくんですけど!?」
澪の挑発的な言葉に梓はカチンと来たらしく、食って掛かる。
「ほら、おい、やめないか!喧嘩をし合う為にここに座らせたわけじゃないぞ!」
リビングルームのテーブルの椅子に座る三人。そして俺の言葉に二人共しばしの沈黙。
ーーーーカチコチカチコチ、と掛け時計が時を刻んでいく。そして、無言の重圧……。
「そもそも、何で二人共仲が悪いの?」
ピリついた空気を少しでも無くしたくて発言した俺に、ジロッと二人の美少女の視線が注がれる。
『兄さん(お兄ちゃん)のせいですが!?』
仲の悪い二人の揃いにも揃った発言。 え、俺?俺のせいなの……!?
ーーーーリビング会議は早々に解散となった。
まさか俺のせいで姉妹の仲が悪くなっていたとは……。というか、何で俺のせいで仲が悪くなってしまったのか聞けば良かった……。
完全に理由を聞くタイミングを失った俺は、自分の部屋に戻り、仕方無く明日の学校の準備をしていた。
明日から一週間は身だしなみ期間という、新入生を対象とした身だしなみの検査があるのだ。
取り敢えず、俺は引っ掛かりはしないだろうけど、澪は髪の毛の色で引っ掛かりそうだな……アレは地毛なんだけど、中学生の時も引っ掛かってたし……。
俺は一階の押し入れを手あたり次第に引っ掻き回すと、昔のアルバムを発見した。
まだ俺と出会ってない頃の小さな時の澪と梓の姿がそこには写っていた。
「ちょっとお借りします。」
俺はそう言ってアルバムから小さな頃の妹達の写真を数枚拝借した。
そして万が一の為、生徒指導の先生に絡まれた時の回避方法として、妹の『地毛証明書』を持って行く事にした。
今現在、この家に住んでいるのは俺と妹二人のみ。両親はというと、二人共仕事で海外を飛び回っている。
その事について俺達は、卑屈になったりせず、日本にいた時に生活に関わる諸々の費用をまとめて通帳に貯金してくれていたから、むしろ感謝しているくらいだ。
ご近所付き合いも良好で、嫌な感じの人は一人もいないと言っても過言ではないだろう。ただ一つの悩みは、三人で暮らしているのに、この家の間取りが10LDK庭、屋上付きの三階建てというバカでかさな事だろうか。
ここは閑静な住宅街の為、空き巣や強盗などには十分に気を付けなければならない。
話を戻そう。明日からの身だしなみチェックは校門で行われる。主に赤いネクタイを着用した一年生が対象だが、勿論、二年生や三年生もチェックの対象にはなる。
「取り敢えず、俺がこの写真と地毛証明書を持っていけば問題は無いだろう。あとは念の為……。」
俺が長男として、妹を全力で助けなければならない。因みに中二である梓の学校は、もうその事情を把握済みだ。
俺は制服のポケットにそっと写真とボイスレコーダーを忍ばせ、バッグの中に地毛証明書を入れた。




